(前編)空知単板工業&全天連の内装木質化戦略【遠藤日雄のルポ&対論】

北海道 全国 木材・木製品製造業

国産材をはじめとした木材の需要を増やしていくためには、構造材とともに内装材の分野でも販路を広げていく必要がある。だが、壁や床に木材を使う際には、耐火性や耐久性などの性能面に加えて、“見映え”などの意匠性やデザイン面でもマーケットの厳しい要求に応えていかなければならない。この難しいハードルを乗り越えながら、創業半世紀を迎えている企業が北海道にある。赤平市に本社を置く空知単板工業(株)だ。同社の代表取締役社長・松尾和俊氏は、ツキ板業者の全国組織である全国天然木化粧合単板工業協同組合連合会(以下「全天連」と略)の会長もつとめている。林業・木材業界を代表するキーパーソンの1人だ。その松尾氏に、遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、リモート「対論」を呼びかけた。業界を取り巻く状況が急変しているからだ。

ロシア産乾燥単板がなくなると合板生産にブレーキかかる

遠藤理事長は、11年前の2011年に空知単板工業の本社と工場を訪れ、同社の主力製品である複合フロア(フローリング)用単板などの生産状況をルポし。松尾社長と相対して「対論」するのは、そのとき以来となる。

遠藤理事長

内装用木材のトップメーカーである空知単板工業の現況を知りたいのだが、その前に何よりも聞きたいことがある。ウクライナに侵攻したロシアが日本など非友好国に対して林産物の輸出を禁輸することを決めた。この影響について、どうみているか。

松尾社長

突然の禁輸措置であり驚いている。これから直接的な影響と間接的な影響が出てくるだろう。
まず直接的には、ロシアからラーチ(カラマツ)の単板が年間25万m3くらい日本に入ってきている。これがなくなることの影響が大きい。

遠藤

国内で使用している合板用材の中で輸入単板が占める割合は2~3%だ。したがって、影響は限定的という見方もあるが。

遠藤理事長とオンラインで意見を交わす松尾和俊・空知単板工業社長
松尾

最大の問題は、ロシアからは強度の高い乾燥された単板が入ってきていることだ。国内の合板メーカーの生産能力は、乾燥単板の調達量によって左右される側面がある。25万m3もの単板を乾燥するとなると、膨大な設備投資が必要になる。すぐに解決できる問題ではない。

禁輸の間接的影響も拡大、広葉樹資源の確保は益々困難に

遠藤

間接的な影響についても聞きたい。

松尾

ロシア産の木材が中国や東欧諸国などに輸出され、加工されてから日本に入ってきている。これも相当な量に上っており、禁輸の影響で供給ルートが途切れると、木材製品の不足感が益々強まっていくだろう。

遠藤

環太平洋という括りでみると、米国と中国という2大経済国が君臨する中で、日本の存在感は低下している。今でも海外から木材を思うように調達できない状況がみられるが、それが一層深刻化するということか。

松尾

とりわけ弊社を含めたツキ板業界では、広葉樹資源の確保が益々難しくなっている。とくに、中国の台頭が著しい。
ロシアは今年の1月から丸太の輸出を禁止する方針を明らかにしていたので、我々も事前に対応を進めていたが、中国の業者はもっと早く動いていて、米国やカナダ、東欧、ニュージーランドなどで大量に買い付けていた。昨シーズンも今シーズンも、かなりな量の広葉樹材が中国に流れている。

遠藤

価格面で買い負けているのか。

松尾

残念ながら実情はそうだ。これから同じ値段で買い続けることが保証されているわけでもない。また、原油をはじめとして様々な資源価格が高騰しており、コストアップを強いられている。

遠藤

これから木材製品や住宅の値段も上がっていくだろう。そうなると、価格転嫁が課題になる。

松尾

弊社としても関係先に値上げなどをお願いしているところだ。世界経済全体でリスク要因が増え、先行きへの不透明感が漂っている。もう一度、足元から今後の事業戦略を構築し直す時期にきている。

木造2階建て新社屋完成、国内外の木材をふんだんに使用

空知単板工業は今年、設立から50周年を迎えている。この節目の事業として木造2階建ての新社屋を建設した。一昨年末に不慮の火災事故で、当時使用していた事務所が全焼。50周年に合わせて新たに事業拠点を立ち上げる計画をまとめ、今年2月に新社屋が竣工、3月末から新たな仕事場で業務を行っている。

完成した木造新社屋は、国内外から調達した様々な木材を内外装などにふんだんに使用しているのが特長だ。主な使用樹種はのとおりで、新社屋を巡りながら“木づかいの妙”がわかる展示施設のような建物になっている。

遠藤

空知単板工業の事務所が火災で全焼したというニュースを聞いたときは本当に驚いたが、幸いけが人がなく、木造新社屋で新たなスタートが切れたことは、「禍を転じて福となす」と言ってもいいのではないか。

松尾

もともと事務所を建て直さなければいけないと検討していた矢先の火災事故だったので、ある意味、踏ん切りがついた。新社屋では、床も壁も全部弊社でつくった製品で仕上げており、多くの方に見ていただければと考えている。

ビニールシートのフロアに押され、本物の“価値”が危機に

遠藤

13年前に空知単板工業を訪ねたときは、複合フロア用単板の生産をメインにしていた。今はどうなのか。

松尾

現在も主力製品の1つだが、生産量は減ってきている。かつては、月間70万坪から80万坪のフロア用単板をつくっていたときもあった。最近は月間15万坪から20万坪の生産量になっている。

遠藤

その原因は何か。

松尾

ビニールシートを使ったフロアが圧倒的なシェアをとってしまったことが大きい。印刷技術が進んで、樹木の組織である導管の凹凸などもエンボス加工で表現することが可能になっている。プロが見ても本物の木を使っているのか、印刷したものなのかわからないようなビニールシート製品が増えている。
こうした競合相手との差別化を図り、木材が本来持っている“価値”をいかに消費者に伝えていくかが大きな課題だ。(後編につづく)

(2022年3月17日取材 )

(トップ画像=空知単板工業の新社屋(木造2階建て、床面積:1階367.64m2、2階220.58m2))

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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