2022年6月28日付け林野庁幹部人事異動解説 織田新体制が発足【緑風対談】

全国 東京都 人事

2022年6月28日付けで林野庁の幹部人事異動が発令され、次長の織田央氏が長官に昇格して、新たな体制がスタートしました。その中から主要人物の横顔を「緑」と「風」が解説します。

天羽長官は1年で退職、牧元・元長官も去り世代交代が進む

史上最短で梅雨が明け、連日の猛暑に襲われる中、農林水産省及び林野庁幹部の人事異動が発令された。
省トップの事務次官を約2年つとめた枝元真徹氏(昭和59年入省、東大法卒)が退職し、官房長の横山紳氏(昭和61年・東大法)が事務次官に就任。林野庁長官の天羽隆氏(昭和61年・東大法)もリタイアし、次長の織田央氏(昭和63年・東大林)が長官に昇格した。

蓋を開けてみれば下馬評どおりの発令だったが、天羽氏は次官候補として名前が浮上していた時期もあっただけに、長官在任わずか1年で役人生活を終えたことには、唐突感も残った。
また、林野庁長官経験者で農村振興局長の牧元幸司氏(昭和60年・東大法)も退職した。3年前の7月に長官→局長と俸給表上では異例の降格となった牧元氏。もう一度引き上げる人事が行われるのではとの見方もあったが、それはなかった。

役人の人事は粛々と行われ、世代交代も着実に進む。いかに能吏であっても、去るべきときは去らねばならない。
それはともかく、今回の人事では、農林水産審議官の新井ゆたか氏(昭和62年・東大法)が消費者庁長官に抜擢された。新井氏は、林野庁で森林総合利用・山村振興室長を経験しており、林野関係者の間からもビックリの声が出た。また、林政課長をつとめた青山豊久氏(大臣官房技術総括審議官兼農林水産技術会議事務局長、昭和63年・東大法)が牧元氏の後任として農村振興局長に就任。同じく元林政課長の水野政義氏(大臣官房総括審議官、平成元年・早大経)が輸出・国際局長に就くなど、事務官幹部に大きな動きがあった。

織田長官・森次長で「たすき掛け」を維持、林政部長に前田氏を起用

さて、林野庁の人事異動に焦点を当てよう。織田氏の長官昇格は既定路線であったものの、正式に発令されたことに関係者は安堵感を漂わせる。次長には、林政部長の森重樹氏(平成2年・東大法)が就任。技官(織田氏)と事務官(森氏)が長官と次長を交互につとめる「たすき掛け人事」が今回も守られた。これが安堵感のもとであり、織田新体制に安定感をもたらすことにもなろう。

平成27年4月に“飛び級”で計画課長に抜擢された織田氏は、長官になるべく森林整備部長→国有林野部長→次長と要路を歩んできた。満を持してトップポストに就いたのだが、特段の気負いはみられず、淡々としている。それがこの人の持ち味。ただ、長官になると、人には言えない難問を背負い込むことも多々ある。織田氏は、「寝る前に見過ぎるのはよくないんですけどね」と言いながら、心を落ち着かせる動画で頭を整理しているという。

織田長官から4歳年下となる森次長は、昨年7月に初めて林野庁入りし、精力的に活動してきた。コロナ禍であっても可能な限り現場を回り、「立派な木があっても、加工・流通体制が整備されていないと活かせない」と明確に指摘する。ウッドショックやカーボンニュートラルの関係で国産材の注目度が高まっている現状については、「追い風が吹いている」と言い、「織田長官をしっかり支えながら取り組んでいきたい」と力を込めた。

森氏からバトンを受けて、林政部長に就いたのは経営局総務課長の前田剛志氏(平成5年・東大法)。林野庁には初登場だ。言動が明確で、新しいことにも積極的に取り組む。広報評価課長のときは、職員自らがユーチューバーとなって農林水産業の魅力を伝える「BUZZMAFF(ばずまふ)」の立ち上げを支えた。日帰りの山歩きを好み、谷川岳まで行くこともあるという。京都府の亀岡市出身。洛南高校卒。51歳。

前田剛志氏

北海道局長に63年組の上氏、中部局長には平成2年組の関口氏

現役技官では最古参となっていた北海道森林管理局長の猪島康浩氏(昭和60年・宮崎大林)が勇退した。後任として白羽の矢が立ったのは、中部森林管理局長の上練三氏(昭和63年・鹿児島大林)。上氏は、中部局長を1年で切り上げてワンランク上の道局長に就いた。少々慌ただしい異動となったが、局長などの人材配置には、全体のバランスや退職までの年月など様々な要因がからむ。織田長官の同期である63年組には、上氏のほかに森林整備部長の小坂善太郎氏(名大林)や東北森林管理局長の宮澤俊輔氏(東大林)らがおり、誰をどう起用していくか、実に悩ましいところだ。

上氏に代わり中部局長には計画課長の関口高士氏(平成2年・北大林)が出た。関口氏は、業務課長→経営企画課長→計画課長と本庁課長をこなしており、局長になるのは時間の問題とみられていた。平成2年組からは初の局長となる。ときおり周囲も驚くような大胆な言動をみせる関口氏。国有林の最前線に立つのは、東北局で計画保全部長をつとめて以来だ。

関口高士氏

企画・経営・管理・計画・業務課長が交代、長野麻子氏が退職

次に本庁課長の異動をみる。6月16日付けで林政課長に鳥海貴之氏(平成6年・東大法)が就任したのに続き、6月28日付けで5つの課長ポストに動きがあった。

企画課長の天野正治氏(平成7年・東大経)が畜産局総務課長に転じ、後任には外務省国際協力局地球環境課長の森下氏(平成7年・東大法)が起用された。森下氏は、平成20年の間伐等特措法制定時に林野庁に在籍し、森林整備部長の針原寿朗氏(後に農林水産審議官)や計画課長の沼田正俊氏(後に林野庁長官)らと新法づくりに汗を流した。それ以来の林野入りではあるが、旧知の人は多い。前任の地球環境課長は、ITTO(国際熱帯木材機関)も所管し、林野関係者ともパイプがあったという。出身は山口県。県立徳山高校卒。51歳。

経営課長の猪上誠介氏(平成7年・京大経)が内閣官房内閣参事官に異動し、後任として渡邉泰輔氏(大臣官房新事業・食品産業部新事業・食品産業政策課商品取引室長、平成11年・早大法)が経営課長に就任した。渡邉氏が林野庁で働くのは、これで4回目。ただし、これまでの3回は、いずれもタコ部屋(法案等の検討室)に籠って特命事項に従事した。「普通の課の席に座るのは初めてですよ」と笑う。好きな言葉は?と聞くと、「水は低きに流れる」。自然体で物事にあたるのがポリシーのようだ。

管理課長の田中晋太郎氏(平成5年・東大法)が農畜産業振興機構総括調整役に出向し、後任には石黒裕規氏(農業・食品産業技術総合研究機構本部理事長室理事長補佐役、平成6年・東大法)が起用された。石黒氏は、15年ほど前に経営課に在籍しており、林野庁勤務は2回目。「国有林は国民の財産。一から勉強します」と落ち着いた口調で話す。名古屋市出身だが、東京都立小石川高校卒。

関口氏の後任の計画課長には、業務課長の長崎屋圭太氏(平成4年・京大林)が就任した。林野技官のエースと目されている長崎屋氏は、早くも本庁課長3つ目。着実に前進する中で最も悩んでいるのは、「将来に向けて誰が山を管理すべきか」だという。計画課長として、幅広く斬新な切り口の新政策を期待したい。

長崎屋氏に代わって業務課長に就いたのは嶋田氏(平成7年・北大林)。3月末に秋田県庁(森林技監)から本庁に戻り、計画課付として待機していた。嶋田氏が業務課に配属されるのは、これで4回目、通算6ポスト目になる。実家に帰ってきたようなものだろう。平成7年組からは初の課長だが、北大を卒業したのは平成3年。海外青年協力隊で武者修行してから林野技官になった。独自の経歴を持つ野人的な好漢だ。

嶋田理氏

最後にスポットをあてたい人物がいる。前・木材利用課長の長野麻子氏(平成6年・東大経)が退職して、役人生活にピリオドを打った。これからは民間の立場で木材利用推進に取り組むという。新たな挑戦に刮目したい。

(2022年6月27・28日取材)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から31年目に突入! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしてまいります。

この記事は有料記事(3506文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。