モーダルシフトと他社との協業を加速する越井木材工業【突撃レポート】

全国 大阪府 木材・木製品製造業

防腐木材製品のトップメーカーである越井木材工業(株)(大阪府大阪市、越井潤・代表取締役社長)が事業の多角化に伴いモーダルシフト(環境負荷の小さい輸送への転換)と他社との協業を加速している。その最新の姿をお伝えする。

船と鉄道を利用して様々な製品を全国のユーザーに長距離輸送

1890(明治23)年に木製電柱や鉄道枕木の防腐処理業者として創業した越井木材工業は、1900(明治33)年に日本初の木材防腐工場を開設するなど、この分野の先駆者として防腐・防蟻技術に磨きをかけながら、時代の変遷に合わせた新しい木材製品を世に送り出してきている。

現在の主な取り扱い品目は、防腐木材製品をはじめとして、住宅用資材、公共施設向け資材、DIY向けアイテム、トラック床板など多岐にわたっており、年間の原木消費量は約12万m3に上る。

同社は、事業領域の拡大とともに、各種製品を全国のユーザーに届ける物流網の再構築に取り組んできた。とくに力を入れたのがモーダルシフトだ。具体的には、長距離輸送に適した船と鉄道の利用を進めている。

大阪~九州間や関東~北海道間などの製品輸送では、主にRORO船(ローローせん)(Roll-on/Roll-off船、貨物専用船舶)やフェリー船を使っている。とくにRORO船では、製品を積載したトラックやトレーラーごと船に乗せたり、トレーラーから分離した製品積載部分だけを船で運ぶことにより、ドライバーの負担軽減や輸送の効率化を図っている。

鉄道については、日本貨物鉄道(株)のJR貨物を、船での輸送を補完するかたちで利用している。JR貨物で一般的な12フィートコンテナ(内寸約3.6m)での輸送効率を高めるため、約35m3を基本単位とした積載量の最適化を図っている。

「国土交通省海事局長表彰」受賞、環境・経営両面にメリット

越井木材工業が進めているモーダルシフトの背景には、環境負荷低減への強いコミットメント(責任を伴う約束)がある。木材という環境親和性の高い材料を扱う企業として、製品のライフサイクル全体にわたって環境負荷の最小化を目指しており、製造工程だけでなく輸送段階でも二酸化炭素(CO2)の排出削減などを図っている。

モーダルシフトによって、同社には環境と経営の両面でメリットがもたらされている。

例えば、関東地方から北海道への製品輸送では、年間93回に及ぶトラックによる小口輸送を、輸送ロットの集約化と船の利用によって年間9回にまで絞り込んでいる。この取り組みは、「令和4年度エコシップ・モーダルシフト事業優良事業者表彰式」において「国土交通省海事局長表彰」を受賞し、木材業界では初となる高い評価を得た。

「国土交通省海事局長表彰」を受賞(画像提供:越井木材工業)

「物流の2024年問題」(ドライバーの労働時間制限)などを受けて、モーダルシフトに着手する企業が増えており、船の輸送枠を確保することが難しくなっているが、同社は“先行者メリット”を活かして問題なく輸送力を維持できている。いち早くモーダルシフトに取り組んできたことが船会社との強固な信頼関係につながっている。

共同配送システム「BUILD BASE」で“現場”を変える

越井木材工業は、モーダルシフトに加えて、独自の配送システム「BUILDビルド) BASEベース)」を開発・実用化している。同システムは、住宅建設現場へ建築資材を効率的に配送する革新的なプラットフォームと言えるものだ。

住宅1棟を建てるには約1万点の建築資材が必要とされ、これは2tトラック換算で40台以上の輸送量に相当する。従来、これらの建築資材は各メーカーが個別に配送していたが、CO2排出削減の観点からも効率化を図ることが共通の課題となっていた。

この課題を解決するため、同社は提携企業とネットワークを構築し、防腐木材製品だけでなく、合板、間柱、石膏ボード、防水シートなど様々な建築資材を適切なタイミングで建築現場へ共同配送する体制を構築した。

同システムでは、大手ビルダーから受注した住宅等物件の設計図面データをもとに、必要な木材や建材の種類と量を自動計算し、正確な資材発注と効率的な配送計画を立案する。これをもとに提携企業は必要な建築資材を準備し、ビルダーの建築現場からの配送指示に基づいて適時納品する。

同システムの拠点は、東北圏に3か所、関東圏に18か所あり、各拠点には複数現場向けの必要資材を一括して保管している。月間の利用実績は、東北圏で約50現場、関東圏で約600現場に達している。

「BUILD BASE」の拠点(画像提供:越井木材工業)

同システムによって複数メーカーの製品を一括輸送することにより、積載率が大幅に向上し、必要車両数が減り、輸送コストの低減とCO2排出量の削減が図られている。建設現場においても大工や職人の作業スケジュールに合わせた建築資材の調達が可能となっている。

同社は今後、同システムのデータと自社有林約850haの立木データを連携させるなど、サプライチェーン全体の最適化に役立てることを計画している。近々、同システムの最新バージョンをリリースし、より使いやすいインターフェースと情報連携機能の実装を予定している。これによって、同社の協業の取り組みは、さらに広がりをみせていきそうだ。

(2025年5月20日取材)

(トップ画像=RORO船に乗り込むトラック、画像提供:越井木材工業))

『林政ニュース』編集部

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