(後編)造林ベンチャー・青葉組が挑む“新しい働き方”【遠藤日雄のルポ&対論】

栃木県 東京都 林業 造林・育林

前編からつづく)2年前に「造林ベンチャー」として起業した(株)GREEN FORESTERS(東京都千代田区)は、現場を担う11名の社員を「青葉組」として組織化しながら、作業条件の改善や処遇の向上などに取り組んでいる。その際に最も重視しているのは「人間中心の働き方」であり、「3勤1休制」や「1日6時間勤務」など、既成概念にとらわれない柔軟な勤務体制を導入している。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長との「対論」に応じた同社の中井照大郎・代表取締役と中間康介・取締役は、「造林」に特化するからこそ「人間中心の働き方」が実現できるとし、新たな試みも行っていると口にした。その試みとは何か。そして、同社が提起している“新しい働き方”は、日本林業にどのような影響を及ぼすのか。遠藤理事長が問いかける。

現場を支える「みどり荘」、本社→支社ではなくフラットに

遠藤理事長

「青葉組」の主たる作業フィールドは、栃木県の大田原市周辺ということだが、現場管理などはどのように行っているのか。具体的な作業指示などは、東京の本社から出しているのか。

中井・代表取締役

弊社のポリシーは現場主義を徹底することであり、森林づくりの進め方などはすべて現場サイドで決めている。
弊社の本社は東京に置いているが、本社とは呼ばずに「みどり荘」と名づけて、現場を支える機能を果たすようにしている。

遠藤

「みどり荘」? 変わった名前だが、あえて本社と呼ばない理由は何か。

中井

本社と支社、あるいは本店と支店という位置づけにすると、どうしても上下関係がイメージされ、本社や本店の方が偉いようになってしまう。
森林づくりは、あくまでも地域主導で行うものであり、フラットな関係を保ち続けたいので、本社や本店といった言葉は使わないようにしている。なお、「みどり荘」というネーミングは、東京で入居しているシェアオフィスの名称に由来している。

地域の「団」が組織の中核、森林づくりの権限と責任を担う

遠藤

現場を担う「青葉組」をサポートするのが「みどり荘」の本務であり、併せて本社機能も担っているという理解でいいか。

中間・取締役

そのとおりだ。弊社の組織体系を示すとトップ画像のようになる。地域ごとに「青葉組」の中核組織として「栃木団」等を編成し、班長・班員が所属するかたちにしている。

遠藤

地域ごとの組織を「団」と呼んでいるのか。

中間

あくまでも現場が中心であり、地域のまとまりが基本だという意味で「団」という名称にしている。今はまだ立ち上げ段階で、「みどり荘」と各団の役割分担は模索中だが、いずれ「団」ごとに森林経営計画の立案や遂行などについて権限と責任を持って行っていくことを目指している。

中井

地域でどういう森林づくりをするかは「団」ごとに決め、我々役員は基本的に口を出さないようにすることが重要だと思っている。
「団」が現場業務に集中できるように、経理や人事、総務などのバックオフィス業務は「みどり荘」で引き受け、集約化・リモート化することでコスト削減を図るようにしている。

バックオフィス業務を集約化し、リモート化でコストを削減

遠藤

経理や人事は企業経営の根幹に関わるので自社で抱え込まざるを得ないところがあるが、ベンチャー企業ならば思い切った取り組みができるのだろう。具体的に、バックオフィス業務の集約化・リモート化はどうやって進めているのか。

中間

労務管理に関する業務などはリモートでも十分に対応できる。社員である班員が今月は現場で何日、何時間働いたのか、チェーンソーをどれだけ使って損料はいくらなのか、どれだけの距離を通勤したのかなどを、現場社員はスマホのアプリで入力し、そのデータをリモートで集計・確認している。わざわざ事務所まで行って出勤簿をチェックする必要はない。

遠藤

社員にとって身近な業務からデジタル化を進めているわけか。

中井

弊社の基本方針として、バックオフィス業務は極力リモートで対応し、コストダウンを進めていきたい。バックオフィス業務の費用負担が重くなると、どうしても現場の人件費にしわ寄せがいってしまう。それは避けたい。実際、栃木団のバックオフィス業務が、他県在住のリモートワーカーが副業で対応している。

実績と信頼をもとに全国展開、「造林」をアップデートする

遠藤

「青葉組」は、林業界の中で非常にユニークな存在といえる。今後の事業計画などはどう考えているのか。

中井

現在手がけている事業地で実績を重ね、周囲からの信頼を得た上で、全国展開を目指していきたい。その際も、地域の林業に合わせて現場主導でやっていく方針は変わらない。

遠藤

なぜ全国展開が必要なのか。

中間

ある程度の企業規模がないと、できないことがあるからだ。例えば設備投資やR&D(研究開発)。具体的な例を挙げると、近年苗木の運搬作業に大型のドローンを使いたいという声は挙がってきているが、小規模事業者単体で投資を回収するのは難しい。
私共のような造林ベンチャーが規模を拡大できれば、複数の団でドローン自体を共有したり、ドローンを使ってみてわかった気づき・ノウハウを共有することで、設備投資やR&Dのコストを回収することができるようになる。

中井

今後は造林作業自体も機械化が進んでいく可能性はあり、世の中に存在する新しい製品・サービスを先行して試しながら、必要に応じて自ら開発していくといった姿勢も必要だ。そこまで踏み込むには、投資できる資金と、投資を回収できる現場が必要で、経営サイドはそこに向けて規模を拡大していく努力をしていかなければならない。

遠藤

最後に改めて聞きたい。造林ベンチャーとして、どのような働き方と森林づくりを目指すのか。

中井

今、最も必要なのは「造林」という仕事のアップデートだろう。ha当たり何本植えたらいくらになるというような工業的な働き方からでは、仕事の魅力は生まれにくい。森林づくりの醍醐味は、現場に立って、何を植えてどう育てていくかをプランニングしていくことにある。収益を確保する方法も、伐採収入に頼るだけでなく、カーボンクレジットもあるし、水源のかん養や生物多様性の保全、災害防止など森林の機能をもっと評価して、投資を呼び込むことを考えていきたい。

中間

「造林」は労働集約型だが、だからこそ雇用力があるし、各地の人々とつながっていくことができる。弊社のような造林ベンチャーだけでできることには限りがあるので、地域の森林づくりに精通した“生き字引”のような人の協力を得ながら、森林づくりの方針を考えていけるとよいと思っている。そういったネットワークを広げていきながら、新しいチャレンジを続けていきたい。

(2022年9月7日取材)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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