(後編)林業再生に向けて木質発電を進める新電力開発【遠藤日雄のルポ&対論】

(後編)林業再生に向けて木質発電を進める新電力開発【遠藤日雄のルポ&対論】

前編からつづく)福島県平田村と山形県米沢市で計6つの木質バイオマス発電所を稼働させようとしている新電力開発(株)(東京都港区、坂口愼一郎・代表取締役)。同社は、一連の発電プロジェクトを軌道に乗せるためには、燃料材を安定して調達できる仕組みをつくることが最重要課題であると位置づけている。この課題を乗り越えるために、山林の再生事業に取り組んでおり、発電所の周辺に広がる山林の取得や、伐採・植林を確実に行える体制の構築に着手している。木質バイオマス発電所の運営会社である同社がここまで本腰を入れて“山”、すなわち林業問題と関わろうとしているのはなぜか。また、これまでの取り組みを通じて、どのような展望が見えてきているのか。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が同社のキーパーソンに迫る。

すでに3,000ha以上の山林を取得、30年までに2万haへ

遠藤理事長

新電力開発が力を入れている山林の再生事業について詳しく聞きたい。どのように行っているのか。

坂口社長

山林の再生事業に関しては、弊社と関連会社の(株)レック(東京都港区)が二人三脚のかたちをとって進めている。レックは、弊社とともに山林の取得に取り組むとともに、取得後の山林を利用して計画的な伐採と植林などを実施している。発電用燃料材の供給を最前線で担っている会社がレックだ。

遠藤

レックの存在があるから山林の取得が進められるということか。これまでにどのくらいの山林を購入しているのか。

坂口社長

山林の取得は6年前に始め、これまでに3,000ha強の山林を購入し、立木契約を約1,000haで結び、合計約4,000ha分の利用可能な資源を確保している。2030年までに2万haの山林を取得するのが目標だ。

遠藤

もう3,000ha以上の山林を保有しているのか。

坂口社長

そうだが、当初の3年間は1haも買えないような状況が続いていた。山林の売買は基本的に相対で行われるので外からは見えづらく、信頼して売っていただけるようになるまでには時間がかかる。今は平均で月に150haくらいを購入できるようになってきた。

インターネットや立て看板などで呼びかけ、信用力を高める

遠藤

山林取得の進め方を具体的に教えて欲しい。

坂口社長

現場の実務に関しては、弊社の常務取締役で、レックの代表取締役である坂口浩太郎から説明しよう。彼は、私の長男で、レックとともに山林取得業務などを行っている(株)ワンズジェイ(長野県軽井沢町)の代表取締役も兼務している。

坂口常務

山林の取得は、発電所を立ち上げる福島県と山形県で行っている。当初なかなか山林を買えなかったときに、所有者の実情や考え方などを細かく調べていった。そもそも自分の山がどこからどこまでなのか、どれだけの価値があるのかが全くわかっていない所有者が少なくない。相続の手続きなどが止まっている山や持ち主が不明な山も多く、弁護士や司法書士、行政書士などの専門家とともに問題点を整理していった。

坂口浩太郎・新電力開発常務取締役兼レック代表取締役
遠藤

購入できそうな山林はどうやって見つけているのか。

坂口常務

インターネットなどを使って山林の買い取りを行っていることや購入事例などをわかりやすく伝えるようにしている。また、福島県と山形県の国道沿いの約30か所に縦2ⅿ、横3ⅿの看板を設置して、山林に関するご相談は私共へと呼びかけている。

遠藤

そうした呼びかけに対して、山林の処分に悩んでいる所有者から反応があるわけか。

坂口常務

口コミの影響も大きい。誰かが山林を売却すると、では自分のところもという話が来るようになる。やはり、信用力がないと、山林取得の話はスムーズに進まない。

放置林をバイオマス林に転換、「レックの会」で連携広げる

遠藤

山林を売りたいという相談を受けてから、買い取りを決めるまでの手続きはどうなっているのか。

坂口常務

山林所有に関する基本的な情報を整理するとともに、ドローンなどを使ってどのような立木がどれだけあるかを調査している。その結果をもとに、伐出のしやすさなどを勘案して、買い取り価格を所有者に提案し、納得をいただけたら購入の手続きに移るようにしている。

遠藤

山林の買い取り価格は、地価や木材市況などをもとに計算しているのか。

坂口常務

そうした指標を参考にしているが、私共が求めているのは、発電用の燃料材を供給できる山林であり、建築用材の生産を目的にしている山林ではないので、いわゆる放置林や雑木林となっている山林を主に購入している。一般的には価値がないとみられている山林でも取得して、燃料材を伐出した後には、カラマツやスギなどを植林するが、可能な限りコウヨウザンやユリノキ、ユーカリなどの早生樹を植え、10年~15年くらいの短伐期で循環するバイオマス林に転換することを考えている。

遠藤

購入した山林での伐出や植林作業は、どうやって行っているのか。

坂口常務

その仕事を行うためにレックを立ち上げた。レックが中心となり、協力していただける会社や事業体などとともに「レックの会」を組織して、循環型林業経営を実践する体制づくりを進めている。
私共だけでは専門的な技術や知識が足りないところがあるので、「レックの会」によってネットワークを広げ、いずれは人材を育成する拠点なども整備していきたいと考えている。

脱FIT、脱炭素を視野に2世代で息の長い事業に取り組む

遠藤

新電力開発とレックが木質バイオマス発電事業と山林の再生事業を車の両輪のように進めていることがわかった。どちらも中長期的な視野で取り組むことが必要になるが、どう考えているか。

坂口社長

確かに息の長い事業となるので、長男の坂口浩太郎とともに、次男の坂口大樹にも新電力開発の経営企画室長として経営スタッフに加わってもらっている。常務は37歳、室長は35歳で主として発電所の運営管理を担当している。

遠藤

2世代にわたって経営を担う体制をとっているわけか。坂口室長は、今の事業の将来性をどうみているのか。

坂口室長

私は環境工学を学んできて、日本の林業のポテンシャルは非常に高いとみている。国土の67%が山林であるのに対し、伐採利用している割合はまだまだ低い。北欧のノルウェーやフィンランドのように再生可能エネルギー源として山林の活用を進める余地は大きい。これまで日本の林業の出口(需要先)は住宅用材と製紙用材がメインになってきたが、今後は熱利用も含めて木質バイオマスとしての出口を拡大していくべきだろう。

坂口大樹・新電力開発経営企画室長
遠藤

最後に聞いておきたい。FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)による政策的な支援は20年間で打ち切られることになっている。その後はどう対応していく考えか。

坂口常務

脱FITに備えて、地元の市町村などと協力して、エネルギーインフラとして自立できる仕組みをつくりたい。私共が建設する発電所の耐用年数は50年~60年で設計している。このくらいのスパンで、電気や熱を自給自足できるようにしていきたい。

坂口室長

脱FITとともに脱炭素も重要なキーワードになる。発電所で使うチップやペレットを海外から輸入していては、輸送過程などで二酸化炭素(CO2)を排出し続けることになる。私共の事業では、燃料材の集荷圏を基本的に半径50㎞以内、遠くても100㎞以内にするように計画している。山林の再生事業だけではなく、燃料材の加工・流通や発電所の運営も含めたトータルでCO2の吸収・固定量を可視化することによって、新しいビジネスモデルを示していきたいと考えている。

(2022年12月1日取材)

(トップ画像=国道沿いに設置している山林取得に関する看板)

『林政ニュース』編集部

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