能登ヒバ楽器で木の価値を広げるフルタニランバー【突撃レポート】 

能登ヒバ楽器で木の価値を広げるフルタニランバー【突撃レポート】 

能登ヒバの楽器ブランド「ATENOTE」(アテノオト)を展開しているフルタニランバー(株)(石川県金沢市、古谷隆明社長)がミュージシャンや楽器メーカーとのコラボレーションを深めながら木の価値を高めている。独自の発想で“木づかい”の地平を拡張している同社の最新状況をレポートする。

「ストレイテナー」のホリエアツシ氏にエレキギターを寄贈!

フルタニランバーは11月22日に、日本を代表するロックバンド「ストレイテナー」でボーカルをつとめるホリエアツシ氏にカスタムメイドのエレキギターを贈った。材料に能登ヒバを使い、オリジナルギターを製作するSagoNMG(株)(兵庫県尼崎市、高山賢社長)が仕上げた逸品だ。

11月22日に東京都内のスタジオで行われた寄贈式に出席した(左から)古谷隆明・フルタニランバー社長、ホリエアツシ・ストレイテナーボーカル、高山賢・SagoNMG社長

デザインは、ギブソン社の「SG」と「L6-S」をベースにし、ボディ、ネック、バックパネルに能登ヒバを用いたほか、繊細なプレイを支える指板はカシで仕上げた。

音質は「SG」らしい特性を持ちながらも高音域でよく伸びる。ホリエアツシ氏は、「『SG』と比べて“腰高”な音が出る」と形容し、「早速、ライブでも使っていきたい」と目を輝かせた。

このギターは、約半年間でつくられた。ワンピース構造(1つの板材)のため、「通常よりも大きい材が必要で調達は大変だった」(古谷氏)が、「とてもやりがいがあった」(同)という。

ネックに使用した能登ヒバは、40%の圧縮加工が施されている。製作した高山氏は、「能登ヒバを初めて使ったが加工もしやすく、圧縮材は寸法性も安定しており非常に扱いやすかった」と評価している。

古谷氏は、「2020年にブランドを立ち上げてから『ATENOTE』でカスタムメイド楽器をつくることを目指してきた。それが今回かたちになった。今後も広げていきたい」と力強く前を見据えている。

楽器メーカーとともに約30種類の楽器、「音楽には力がある」

「ATENOTE」は、石川県の県木である能登ヒバ(別名:アテ)を活用し、様々な楽器メーカーと連携して製品を世に出し、「人と自然を繋ぐ」ことを目指す地域活性化プロジェクト。

同プロジェクトでは、フルタニランバーが自社ブランドとして楽器を手がけるのではなく、楽器メーカーに能登ヒバの活用を提案して製品化する。これまでギター、ベース、ドラム、和太鼓、三味線、バイオリンなど約30種類の楽器が生まれている。

「ATENOTE」シリーズの楽器(2023年8月18日撮影)

楽器小売りで最大手の島村楽器(株)(東京都江戸川区、廣瀬利明社長)とは、2023年12月から金沢フォーラス店(石川県金沢市)で、能登ヒバの楽器を展示する「森を感じながら選ぶブース」を設けている。店頭の販売員は、木材に関する座学や伐採現場の研修を受講しており、“自分の言葉”で顧客に説明できる力を備えている。

能登ヒバのウクレレも製作・販売しており、収益の一部を森林保護団体に寄付する仕組みもつくっている。

このほか、元ミス日本みどりの大使でシンガーソングライターの上村さや香氏と連携してオリジナル楽曲の製作や各種音楽イベントに出演し、能登ヒバの魅力を発信している。

古谷氏は、「音楽には力がある。『ATENOTE』を通じて能登ヒバの新たな価値を創造し、能登半島地震からの復興や国内林業のPRにつなげたい」と展望を口にする。

木材販売を基軸に事業を多角化、今後も「木の価値を届ける」

フルタニランバーは、1904年に木材の卸小売業として創業した。以降、独自開発した木材乾燥技術や木材業務システムの販売、マッチングサービス、「ATENOTE」などの新規事業を打ち出してきた。社員数は32名で、20・30代が5割以上を占め、年間売上高は約20億円に達する。

フルタニランバーの倉庫、製品の左下にICタグが貼られている

同社のコンセプトは、「木の価値を届ける」。収益の柱は木材の販売だが、派生した事業も着実に収益化しているのが特長だ。

同社の倉庫にストックされている製品にはICタグが貼られており、専用の読み取り機と在庫管理アプリを合わせた業務システム「tree flow」で管理されている。また、ドライバーが配送前に伝票を登録することで配送状況をアプリ上で確認でき、倉庫の管理や棚卸し確認などの効率化につなげている。

同社の一角には、能登ヒバの乾燥などで使用する改質水と抗火石による高速・高品質な木材乾燥システム「woodbe」がある。これにより乾燥時間の30〜70%の短縮やヒビ・割れ・曲がりの減少、燃料費の削減などが図られ、生産性も向上している。

このほか、約2,000社に及ぶ取引先とのネットワークを活かし、需要と仕事のニーズをマッチングするサービス「フルステ」なども展開している。

古谷隆明・フルタニランバー社長

“木の商い”を多角的に広げてきた同社を支える古谷氏は、「これからも柔軟な発想で木材の高付加価値化に取り組んでいきたい」と意欲をみせている。

(2024年11月22日取材)

(トップ画像=能登ヒバでつくったカスタムメイドのエレキギター)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしてまいります。