森林を活かしゼロカーボンシティを目指す滝上町【進化する自治体】

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森林を活かしゼロカーボンシティを目指す滝上町【進化する自治体】

全国でも珍しい木造による国民健康保険診療所の建設が北海道の滝上町(たきのうえちょう)で進んでいる。「香りの里」と呼ばれる同町は、春になれば日本最大級の芝ざくらが咲き、季節が移ろえば日本一の生産量を誇るハッカをはじめとしたハーブが人々を惹き付ける。同町は20222年6月、2050年までにカーボンニュートラルを実現する「ゼロカーボンシティ」を宣言した。北の大地で挑戦を続ける同町の“今”をお伝えする。

診療所はNealyZEB&SGECを取得し、地元で建てる

滝上町が掲げる「ゼロカーボンシティ」のシンボルが建設中の国民健康保険診療所だ。特長は、①NealyZEBを満たす基準で、②SGEC認証を取得した地元産材を使い、③KES構法を採用して地元工務店が建てる──の3つ。

①NealyZEBの基準を満たすには、基準建築物と比べて正味で75%以上の省エネルギー化を実現する必要がある。同診療所では、建物の高断熱化、高断熱サッシ、高効率エアコン・換気扇、太陽光発電のPPA(Power Purchase Agreement、電力販売契約)モデルによるエネルギー創出を行い、基準を達成する。

②SGEC認証は、プロジェクト認証で進めている。認証を取得した町有林から滝上町森林組合(滝上町)が受注し、江本木材産業(株)(同)、(有)真貝林工(同)が伐出し、製材・集成材加工は江本木材産業、井上産業(株)(同)、佐藤木材工業(株)(紋別市)、協同組合オホーツクウッドピア(北見市)、プレカット加工は北海道プレカットセンター(苫小牧市)、キプロ(株)(岡山県井原市)、物林(株)(東京都江東区)が行い、全体管理を(株)シェルター(山形県山形市)が担当している。

③KES構法(接合金物工法)はシェルターが開発したもので、地元の工務店でも大空間の設計が可能になることから採用した。

同診療所建設の進捗状況は、町民だけでなく町外の人も臨場感を持って確認できる。同町がおよそ3日ごとにホームページ上で「ただいま新診療所建設中!」と題して建設の様子を発信しているからだ。10月11日には上棟式と餅まきを行い、100名以上の町民が参加した。竣工は、来年(2025年)7月を予定している。

「童話村構想」で住みやすい町へ、木質バイオマスも積極活用

「滝上町の根底には林業があり、診療所の建て替えでも木材を使おうという流れになった」と話すのは町長の清原尚弘氏(51歳)。同町出身の清原氏は、東京理科大学で数学科を修めた後、同町役場で社会教育係長や財政係長を勤め、前町長の長屋栄一氏の後を継いで昨年(2023年)5月に現職に就いた。

同町の総面積は7万6,690ha。その88%に当たる6万8,625haが森林で、85%が国有林、4%が町有林、11%が私有林という構成になっており、全体の98%でSGEC認証を取得している。

1954年には洞爺丸台風による被害を受け、被災木の活用を契機として、林業・木材産業が発展してきた。町内を巡ると、製材所や土場などが当たり前のように景色に溶け込んでいる。

その中で、童話の世界にあるような施設が目に留まる。第3セクターが運営する「ホテル渓谷」だ。同町は、誰もが憧れ、生き生きと過ごせる町づくりを目指して、1990年から「童話村構想」を推進している。

童話のような世界観を持つ「ホテル渓谷」

森林資源の活用でも先駆的な施策を打っている。1999年に滝上町産業クラスター研究会を設立し、2008年にバイオマスタウン構想を策定。推進母体として、滝上町バイオマス利活用推進協議会を立ち上げ、2009年に「ホテル渓谷」、2014年には特別養護老人ホーム「渓樹園」に木質チップボイラーを導入した。両施設の関係者からは、「CO2排出量及び経費の削減に貢献した」との評価が出ている。「渓樹園」で発生した熱エネルギーは、(有)岸苗畑の温室ハウスに供給して、有効活用を図っている。

エネルギーの自給も視野に補助制度、譲与税で町有林化を推進

「ゼロカーボンシティ」を宣言し、「ゼロカーボンバイオマスタウン」を構想する滝上町は、エネルギーの観点から自立し、環境にやさしく、災害に強く、産業が発展する町になる将来ビジョンを描いている。

このビジョン実現に向けて、公共施設などでは、熱電併給設備や太陽光発電の導入を積極的に進め、一般住宅については太陽光発電や薪ストーブ、ペレットボイラーの導入補助などを行っている。

公共施設の木造・木質化については、建設中の診療所だけでなく、町内公共施設の建て替え時に地元材を活用することを予定している。

エネルギーを自給していくためには、熱源になるチップの増産も必要だ。そこで、ストックヤードや切削チッパー、乾燥施設などの整備も計画している。

一連の取り組みを進めると、将来には年間約1億円の経済効果が生まれると試算している。

清原尚弘・滝上町長

同町は、環境省の地域脱炭素移行・再エネ推進交付金重点対策加速化事業の採択を受けるなど、国の支援も受けながら各種の施策を推進していく姿勢をとっている。

年間約4,000万円交付される森林環境譲与税も重要な財源であり、森林整備や意向調査、担い手育成のほか、今年度からは高齢や離町により森林経営が困難な森林所有者から森林を買い町有林化する事業も始めている。

町長の清原氏は、「森林資源を活かし、脱炭素社会を実現する町づくりに迷いはない」と前を見据えている。

(2024年7月25日取材)

(トップ画像=建設中の国民健康保健診療所、木造2階建て、延床面積2,289m2、カラマツ材・トドマツ材等合わせて約440m3を使用、二酸化炭素固定量は349t−CO2)

『林政ニュース』編集部

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