「自由」な経営で智頭スギの可能性を広げるサカモト【突撃レポート】 

「自由」な経営で智頭スギの可能性を広げるサカモト【突撃レポート】 

吉野林業や尾鷲林業などと並び良質材の産地として知られる鳥取県の智頭林業。この地で1957年に創業した(株)サカモト(智頭町、坂本晴信社長)は、特定の取引先などに縛られない「自由」な経営をモットーにして智頭スギ製品のラインナップを増やし、販路を広げている。同社の最新状況をお伝えする。

「ウッディブラインド」はじめ内外装材、家具、雑貨など多彩

サカモトは、智頭スギの柾目材を使った製品を数多く手がけている。その中で、ロングセラーの看板製品となっているのが約20年前に開発した「ウッディブラインド」だ。基本パーツとなっているのは、厚さ6mm、幅90mm、最大長さ4mに加工した柾目材のスリット。これを1枚1枚天井から吊して乾燥させるなど独自の製法を施した上で、ブラインドに仕上げている。開発当初はロス率(不良品の割合)が約80%だったが、生産プロセスの見直しを重ねることで、現在のロス率はほぼ0%まで改善してきた。

ロングセラー製品の「ウッディブラインド」

「ウッディブラインド」は、縦にも横にも設置でき、小型から大型まで様々なサイズがある。価格も約6万円から約80万円までとバラエティに富んでおり、個人住宅のリフォーム時などに採用されることが多い。従来のアルミ製品などと比べ、木材は静電気を帯びにくいため、ホコリがつきづらく手入れが楽と好評だ。

同社は、「ウッディブラインド」のほかにも、工務店向けの内外装材や、和モダンなデザイン家具の「智頭の匠」シリーズ、さらに一般消費者向けの雑貨・インテリアブランド「SUGI LIFE」なども展開している。どの製品も「ウッディブラインド」同様に智頭スギの柾目材を活かしているのが特長で、繰り返し購入するリピーターも少なくない。

多種多様なスギ材をストックしている

坂本晴信社長は、「質のいいスギの大径木だからこそ採れる柾目材がある。それを活かしたモノづくりが基本になる」と話しており、原木(丸太)の調達では、樹齢80年生以上、長さ4m・末口直径40cm以上で枝打ちがされた良質材を優先的に手当てするようにしている。

全国の工務店等に“直納”、特定の大口顧客はあえてつくらず

サカモトの主な販売先は全国各地の工務店等で、北は岩手県から南は鹿児島県にまで及んでいる。とくに関東方面に力を入れており、月に2回のペースで行き来している。基本的に製品の納入を運送業者などに頼ることはせず、坂本社長自らが2tトラックを運転し、打ち合わせを兼ねて“直納”している。

智頭町内の関係者から「この町にいることは稀」と言われる坂本社長の昨年の総移動距離は地球1.7周分を超えており、フットワークのよさは抜群だ。

坂本晴信・サカモト社長

坂本社長は、佐賀大学で剣道に励み、大手木材商社のナイス(株)(神奈川県横浜市)の仙台エリアで3年間働いた後、同社に入って2018年に代表取締役に就任した。好きな言葉は、「自由」。この「自由」を追求し続ける姿勢が同社の経営にも反映されている。

同社の年間売上げは約2億円で、木製ブラインド事業、木工家具事業、内外装材事業などがほぼ同等の業績を上げている。取引先は多岐にわたっており、特定の大口顧客は存在しない。

坂本社長は、「各取引先の売上比率は10%以下になるように調整している」と話す。大口の顧客ができるとまとまった売上げが期待できる反面、ビジネスを広げる上での選択肢や自由度は制約されてしまう。「少々非効率なところはあっても、取引先や顧客を選べるようにしている。そうすると、より大事な案件に集中できるようになる」と独自のスタンスを保っている。

時代の変化を見据え設備・人材に投資、「遊び心を持ち続ける」

坂本社長は、「人口減少が進んでおり、今後5年間で各地の製材所などの廃業も増えるだろう。手遅れになる前に準備しておきたい」としており、具体的な「準備」として設備投資と人材育成に力を入れている。

新調した中温乾燥機

同社は昨年、中古のシングルソー製材機と、中温乾燥機を新たに導入した。これに併せて、工場の製造ラインを大径木中心から、小径木や中目材にも対応できるように見直している。「大径木がメインであることに変わりはないが、こだわりすぎると周りが見えなくなる。製材機や乾燥機なども、思うように買えない時代が来るかもしれない」と、常に先手を打っていく構えを崩していない。

現在、サカモトでは16名が働いているが、定年退職が近い社員もいる。そこで、今後5年間をかけて毎年1名ずつ採用していくことを計画している。段階的に人材の若返りを図り、日々の仕事を通じて職人技術などを継承していく方針だ。 同社は、製材量や歩留まりなどの数値目標をあえて設定していない。数字に縛られて、働く上での「自由」さが失われることを警戒しているからだ。坂本社長は、「いくら(製品を)加工したかより、どれだけお客さんが喜んでくれたかが重要」と明確に言う。「昔の日本の企業のように遊び心を持ち続け、アンテナを高く張り、チャンスや面白いことをモノにしていきたい」と今後を展望している。

(2023年1月15日取材)

(トップ画像=中古のシングルソー製材機)

『林政ニュース』編集部

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