1000年の歴史を持つ岩手の木炭づくりは「文化の支え役」
岩手県は、全国の木炭生産量の約2割にあたる約2,400tの木炭を生産している。とくに、“木炭のメッカ”として知られる久慈市をはじめとした県北部は、同県の木炭生産量の約7割を占めている。
この地で谷地林業を経営する谷地社長は、「日本文化の発展には木炭の存在が欠かせなかった」と、よく通る声で話す。
木炭の歴史は古い。同県では約1000年前から木炭づくりが始まり、エネルギー革命が起きるまで人々の生活になくてはならない必需品だった。
とくに、高火力を必要とする塩や鉄の製造で、木炭は重要な役割を担った。「塩や鉄は、食文化や建築物、工芸品のベースと言える。それらの製造に必要な木炭は、文化の“支え役”だった」(谷地社長)。
久慈市で木炭が盛んに生産されたのは、塩や鉄の製造の適地であり、木炭の原木になるナラ類が多く生えていたからだ。海に面していて塩田がつくれたほか、砂鉄も採れた。この“地の利”を活かして製造された塩や鉄、木炭は牛に乗せて内陸部や遠く越後にまで運ばれた。
物流を支える良い牛を育成するために闘牛文化が発展し、現在でも大会が開催されている。同社も、東北唯一の「平庭闘牛大会」に参加している。
高品質の黒炭を年100t生産、伝統手法を守り機械化も図る
谷地林業がつくる木炭は、品質の高さに定評がある。その秘訣を谷地社長に尋ねると、「炭化率が高いからだ」との答えが返ってきた。木炭の品質は、木材に含まれる不純物を取り除き、どれだけ炭素に近づけられるかで決まる。
木炭には黒炭と白炭の2種類があり、同社は黒炭を生産している。その炭化率は85%以上と、一般的な黒炭と比べて高い水準を維持している。
同社の黒炭の特長は、着火しやすく、高火力で、煙や灰が少なく、爆ぜにくく扱いやすいこと。主に、バーベキュー用から炭火焼きの居酒屋やレストランなどの飲食店向けに販売しており、年間約100tの黒炭を生産している。
黒炭をつくるにあたっては、伝統的な手法を継承しつつ、一部の工程を機械化して省力化を図っている。原木は重機で90cmにカットし、太すぎる場合は自動薪割り機で適切なサイズに割る。また、原木を窯に入れる木入れでは、ベルトコンベアを使用して労働負荷を軽減している。
谷地社長は、「労働災害を減らすためにも機械を活用した省力化は不可欠」と明言している。
建設などで稼ぎ木炭に投資、世界の「YACHIRIN(ヤチリン)」へ
谷地林業は木炭づくりに加えて、建設事業や素材・チップ生産なども手がけている。年間売上高は約10億円で、内訳は、建設事業が約60%、素材・チップ生産が約35%で、残りの約5%が木炭関連となっている。年間素材生産量は約2万m3で、その約5%を木炭用の原木として使用している。谷地社長は、「建設事業や素材・チップ生産事業で稼ぎつつ、木炭関連に投資している」と言い、木炭づくりに関しては、「高品質な木炭を高く売る。それが担い手の育成や森林整備につながる好循環になる」との方針を示している。
外国産との価格競争で、国産木炭は低価格販売を強いられている。生産者の高齢化も進んでおり、約7割は年金受給者とも言われる。
その中で、同社は以前から黒炭のブランド化に注力してきた。その結果、主力製品の「黒炭(KUROSUMI)」は常に高価格で取引されるようになり、ブランド品としての地位を確立。2018年には炭窯を5基増設し、生産体制を強化した。
さらに、この6月には、新たな販路を求めて海外輸出に乗り出した。フランスの飲食店向けに販売する「黒炭」約6tを積んだ船が6月19日に久慈港から出航。同社によると、岩手県内の企業が単独で木炭を輸出したのは初めてとなる。
同社は、約3年前からJETRO(日本貿易振興機構)などと連携して海外市場の開拓に取り組んでおり、フランス以外のヨーロッパ諸国や北米のカナダなどにも「黒炭」を輸出していく方針だ。
谷地社長は、「『黒炭』をミシュランガイドで星を持つような飲食店に販売していき、需要が増えれば国内の木炭生産業者とも連携して輸出量を増やしていきたい。世界から木炭ならば『YACHIRIN』(谷地林業の略称)と言ってもらえるような企業を目指す」と先を見据えている。
(トップ画像=高品質の黒炭を生み出す炭窯)
『林政ニュース』編集部
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