(前編)中山間地を支え続ける下呂市の森林造成組合【遠藤日雄のルポ&対論】

岐阜県 森林経営・管理

国内人口の減少と高齢化が進行する中で、未来につながる森林づくりの担い手をどうやって確保し、育てていくかが益々重要な課題になっている。国(林野庁)は、2019年度に森林経営管理制度を創設し、市町村が主体となって手入れの行き届かない森林(私有林)をとりまとめ、林業経営体等に施業を任せる仕組みをつくり、その普及に力を入れている。ただ、全国の市町村を見渡すと、林業専門の部署や人材を置いているとこるは限られており、現場作業を担う林業経営体等もすでに仕事を抱えていて手一杯というケースが少なくない。この構図を打破できるような新たなプレーヤーはいないのか──思案を重ねていた遠藤日雄・元鹿児島大学教授のもとにある情報が届いた。それは岐阜県下呂市で、森林所有者が自発的に「森林造成組合」を組織し、間伐などの森林整備を継続的に行っているというものだ。森林組合は全国各地にあるが森林造成組合とは耳慣れない、一体どのような組織なのか──疑問を深めた遠藤氏は、同市で活発な活動を行っている森林造成組合の1つである中原西森林造成組合の組合長をつとめる熊﨑徹氏(66歳)に実情を聞くことにした。

約50年前に森林所有者が自発的に結成、支部を含め93組合が活動

下呂市は、市面積の92%を森林が占めており、観光業とともに林業が主産業となっている。2023年度には、10年間を期間とする「森林づくり基本計画」(計画期間は2032年度まで)を策定し、100年先を見据えた「温故創新の森林づくり」を基本理念にして、森林の手入れや林道・作業道の整備、地域材の利活用など様々な取り組みを行っている。

その一環として、森林造成組合の活動を支援しており、2022年度からは森林環境譲与税を財源にした交付金を支給するなど、独自の施策を講じている*1。

遠藤氏からの「対論」の呼びかけに応じた熊﨑組合長は、林業を主業としながら、同市久野川地区にある宿泊・体験型キャンプ場「まるかりの里」の役員もつとめている。

遠藤

はじめに、森林造成組合とはどういう組織なのかを教えて欲しい。

熊﨑組合長

今から50年くらい前の人工造林が盛んに行われた時代に、市内の地区ごとに森林所有者が結成した任意団体が森林造成組合だ。もっとも明確な記録が残っているわけではなく、私の親にあたる世代が自然発生的につくった組織のようだ。

遠藤

その森林造成組合は、現在、下呂市内にいくつあるのか。

熊﨑

支部を含めて93組合ある。

遠藤

そんなにたくさんあるのか。

熊﨑

93組合の活動状況には濃淡があるが、とくに古関・跡津地区と四美地区、そしてここ中原西地区の3組合は、森林経営計画を策定して、森林整備や林道・作業道の維持管理、木材生産などを行っている。

熊﨑徹・中原西森林造成組合組合長

中原西地区では250haの森林を計画的に整備、間伐が主体

遠藤

熊﨑さんが組合長をつとめている中原西森林造成組合について現状を詳しく教えて欲しい。組合員は何人くらいなのか。

熊﨑

35人だ。森林整備などの活動に積極的な組合員が大半だが、中には森林所有者として名簿に名前は載っていても、実際の活動にはほとんど関与していないという組合員もいる。

遠藤

中原西森林造成組合として経営・管理している森林はどれくらいあるのか。

熊﨑

だいたい250haくらいだ。森林経営計画を樹立し、補助制度なども利用しながら、5年間で50haずつ手入れをしていくことを基本にしている。

遠藤

具体的にどのような作業をしているのか。

熊﨑

今は主に間伐を行っている。この地区の人工林も伐採適期に入っているので、本来は主伐・再造林にシフトしていくことも考えたいのだが、新規植林をした後に、誰が保育し、維持管理していくかという問題がネックになっている。そこで、今はとにかく間伐を進めて林内を明るくし、災害にも強い森林をつくることを主眼に置いている。

森林環境譲与税を活用して活動を支援、均等5万円に上乗せ

遠藤

森林造成組合の活動を継続していくためには、資金面の手当ても必要だろう。どうやって賄っているのか。

熊﨑

数年前までは1人当たり年間500円の組合費を集めていたが、今はとっていない。先ほども言ったように、森林に関心を持たない組合員も出てきているので、一律的に組合費を課すことは難しくなった。
私も含めて組合の活動に主体的に関わっているメンバーで必要経費を分担している。

遠藤

ところで下呂市では、森林環境譲与税を活用して森林造成組合への支援措置を講じているようだが、どんな内容になっているのか。

熊﨑

交付金の対象となるのは、森林造成組合の地区を基本としており、複数の地区をまとめることもできる。市へ事業計画書を提出し、認定を受けた組合(地区)は交付金を受け取ることができる。交付金の実施期間は、原則5年間となっている。

遠藤

交付される金額はどのくらいなのか。

熊﨑

1組合(地区)当たり5万円の均等割額プラス対象森林面積1ha当たり300円を乗じた額が交付されている。当組合は、年間40万円前後の交付金を受け取っている。

研修・広報など運営に必要な経費についてもきめ細かくカバー

遠藤

交付金の対象となる活動は決まっているのか。

熊﨑

森林の適切な管理に不可欠な見回りや草刈り、林道・作業道の維持・補修などの経費をはじめ、組合の運営を継続するために必要な研修や組合だよりの発行など広報活動に要する経費も支援の対象になっている(表1参照)。

遠藤

受け取った交付金の使途についても取り決めがあるのか。

熊﨑

交付金で支出可能な経費として賃金や燃料費、物品購入費、リース費、消耗品費、保険料などが認められている。
一方、組合の活動と関連しない経費は、支出対象とはなっていない(表2参照)。

遠藤

パソコンなどのリース料や事務用品の購入費などまできめ細かく助成対象にしているのか。それだけ下呂市としても森林造成組合の活動を重視していることの表われだと言える。
それにしても、森林所有者が自発的に立ち上げた任意団体が50年以上にわたって活動を継続している事実には驚かされる。全国的にも極めて稀なケースだ。なぜ森林造成組合は、ここまで存続できているのか。

熊﨑

それには、この地域特有の事情が関わっている。(後編につづく)

(2026年9月10日取材)

(トップ画像=同市久野川地区にある宿泊・体験型キャンプ場「まるかりの里」)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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