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宮城県で初めてFSC認証を取得、協議会の運営も中核で支える
佐久が中核メンバーとして事務局を担っている南三陸森林管理協議会は、10年前の2015年にFSCの森林認証を宮城県で初めて取得した。
同社と同協議会が国際的な森林認証制度の普及に深くコミットしてきた背景には、2011年の東日本大震災がある。
未曾有の津波被害に見舞われ、社長の佐藤太一は、自宅とともに事業の柱であった不動産をすべて失った。唯一残された資産が先祖から受け継いできた山林であり、これを世界水準の経営によって活かすことにした。
この思いが周囲にも伝わって、同協議会が設立され、FSC認証の取得が広がっていった。

同協議会による当初の認証林面積は約1,300haだったが、現在は約2,500haまでに拡大している。組織内のFM(森林管理)部会には、同社のほかに南三陸町、南三陸森林組合、慶応義塾大学(東京都港区)などが参画しており、CoC(加工・流通)部会には丸平木材(株)、南三陸YSE工房などが名を連ねている。川上から川下までをカバーするメンバーが揃い、森林施業から最終製品の供給に至るサプライチェーンが構築されている。
大手企業などからの引き合いが増加、グループの結束力も高まる
森林認証を普及する上でネックとなっているのは、取得に費やしたコストをなかなか価格転嫁できないことだ。現状では割に合わないとして、認証を取り止める事業者もいる。
だが、佐久と南三陸森林管理協議会は、認証取得のブランド力をうまく引き出しており、国立競技場やイオンモール、スターバックスの店舗など、認証材を指定する大手企業などからの引き合いが増えている。佐藤は、「認証材がなければ声がかからなかった案件が確実にある」と率直に語る。
同協議会の存在感も高まっている。グループ認証の取得により、町内の林業事業体全体で統一的な管理ルールを構築できてきた。加えて、審査を通じて指摘された課題をメンバー同士で議論し、改善していくプロセスが定着し、安全装備支給基準の統一や獣害対策の共同実施、安全講習の定期化などが実現している。
同協議会が供給するFSC認証材は、日本で初めて公共施設でプロジェクト認証を取得した南三陸町役場や生涯学習センターなど、地元のシンボル的建築物にも使用されている。
290年前から林業一筋、約300haを間伐主体で管理・経営
佐藤の生家である佐藤家は、約290年前から林業を家業として営んでおり、1966年に佐久を設立して法人化した。
佐藤の先代社長は不動産分野にも事業を広げたが、前述したように東日本大震災を契機として林業経営一本に戻した。
現在の従業員は5名で、山林管理面積は約300ha。年間の素材生産量は約1,900m3、主伐・再造林面積は約2ha、間伐面積は15〜20ha程度となっており、生物多様性保全に配慮して間伐主体の施業方針をとっている。
佐久は、「山林に新たな価値を生み出す」ことを目指し、事業の多角化を図っている。その1つが森林体験ツアーや社員研修などの受け入れだ。単なる自然散策ではなく、持続可能な林業やFSC認証の取得プロセス、森から海までの生態系のつながりを学べるようなプログラムを用意し、学校や団体を中心に需要が高まっている。
また、同町産材を「美人杉」としてブランド化することにも取り組んでおり、オリジナル扇子などの商品開発に着手している。
イヌワシを野生に還す取り組みも推進、「新たな価値を生み出していく」
佐久は、南三陸地域イヌワシ生育環境再生プロジェクト協議会や日本自然保護協会らと連携して、豊かな森林生態系のシンボルであるイヌワシを野生に還す取り組みを行っている。
また、世界自然保護基金ジャパンの運営に南三陸森林管理協議会の事務局長として協力し、TNFD(Taskforce on Nature-related Financial Disclosures:自然関連財務情報開示タスクフォース)が推奨する基準にFSC認証が合致することに関する調査も行った。佐藤は、「TNFD開示を行う企業や金融機関が広がってくれば、林業者も対応が求められるようになる。そのためにもFSC認証の取得は有効だ」と強調する。

山形大学で宇宙放射線物理学を研究するなど異色の経歴を持つ佐藤は、幼少期から「見えないものを見ようとするのが好き」だったという。「森林の生態系も測定し、データ化し、“見える化”したい」と話しており、自社林のモニタリングなどを継続して、「ネイチャーポジティブという追い風を活かし、新たな価値を生み出していく」と前を見据えている。 同社の地元・南三陸町は、10月4日に同町合併20周年式典を開催し、「ネイチャーポジティブ宣言」を行った。同宣言を体現する企業として、同社の事業展開が益々注目される。
(2025年10月7日)
(トップ画像=佐久の自社林、間伐を繰り返し複層林が広がっている)
『林政ニュース』編集部
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