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「どういうものを使っているかが問われる時代になっている」
三菱地所レジデンスが「型枠用合板のトレーサビリティ普及促進勉強会」を立ち上げ、同業他社や商社なども巻き込みながら型枠工務店とのつながりを強めているとは驚いた。そもそも大手デベロッパーと型枠工務店とでは、直接的な取引関係はないのではないか。
確かに、契約上の取引関係はない。弊社は事業主としてゼネコンにマンションなどの建築を依頼し、ゼネコンが型枠工務店などとともに現場の工事を進めていくという役割分担になっている。
そうした役割分担を乗り越えて「勉強会」を運営しているのはなぜか。
一言で言うと、時代が変わったからだ。かつては、とにかく安くていいものを調達していればよかった。しかし今は、どういうものを使っているかが厳しく問われる時代になっている。例えば、コンクリートにしても、砂やセメントや砕石など様々な材料からできており、それらの合法性や持続可能性をきちんと説明できなければ使えなくなってきている。
マレーシアやインドネシアから輸入している型枠用合板については、何が最も問題なのか。
違法伐採や森林破壊につながっていないか、環境・人権問題を引き起こしていないかという点などを、とくに注意深くチェックするようにしている。
デベロッパーと型枠工務店が直接対話することで課題を共有
「勉強会」を通じて、型枠工務店ともそうした問題意識を共有できているのか。
これまで私どもは、型枠工務店の方々と直接話をする機会がなかった。「勉強会」を設けたことで、ダイレクトにコミュニケーションがとれるようになり、お互いのビジネスの実情や悩みなどがわかるようになった。
型枠用合板のトレーサビリティを確保するためには、通常業務に加えて分別管理など手間暇がかかる。面倒くさがる向きもあるのではないか。
確かに面倒くさいところはあるが、だからこそお互いのコミュニケーションを深めて、現場での困り事などを理解して取り組んでいかないと前に進まない。
型枠工務店の方々も「勉強会」に参加し、マレーシア等の森林や人権に関する現地のリアルな実情を知ることで、皆さんの意識が変わり、課題解決の必要性を共有いただけるようになった。意識の変化に伴って、業界も時代も動き始めている。ちょうど今が始まりのような手応えを持って「勉強会」を続けている。
「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」で大館市産認証材を使用へ
時代が動き始めた中で、三菱地所レジデンスの中核事業である大規模マンションで国産材の利用を拡大していく可能性について聞きたい。私のもとには、秋田県の大館市などと「建築物木材利用促進協定」を結んだという情報が届いている。
その協定は、大館市及び北鹿地域林業成長産業化協議会との間で8月25日に取り交わした。3者が連携して大館市などから産出される森林認証材の利用拡大に取り組み、再造林を進めて森林の循環利用を実現することを目指している。
まだ協定を締結してから日が浅いが、具体的なプロジェクトなどはあるのか。
弊社が神奈川県川崎市の武蔵小杉駅北側エリアで計画している「ザ・パークハウス 武蔵小杉タワーズ」の一部に大館市産認証材を使うことを検討している。
この物件は、2棟構成の地上50階建て超高層マンションで、外観のデザインは世界的な建築家である隈研吾氏が監修している。全体の完成は、2028年度の予定だ。

非常にシンボリックな建築物になりそうだが、大館市産認証材はどこに用いるのか。
まずマンションの共用部分の家具の一部などで使用したいと考えている。樹種は、スギと広葉樹になるだろう。共用部分ならば使用量はそれほど多くならないので、スモールスタートで始めてみたい。その結果を踏まえて、将来的には専有部分のフローリングや建具で使っていきたい。大規模マンションで本格的に採用するためには、大量調達する仕組みを整備する必要があるので、計画的な取り組みが必要になる。
現場の施工を省力化・簡略化できる部材が必要、共同開発を検討
型枠用合板などの大量調達を可能にするためには、新たなサプライチェーンを構築する必要があるだろう。
その点に関しても、昨年から続けている「勉強会」が意味を持ってくる。弊社だけでなく、50社くらい集まると、年間にどのくらいの型枠用合板を使うかが見えてくる。供給サイドに「これくらい買うからつくって」という具体的なオファーが出せるようになる。いわゆる共同発注のようなことが広がっていけば、取引価格も安定していくだろう。

大規模マンションの構造躯体を支えている鉄筋コンクリートなどを木質材料に切り替えていく可能性はあるか。相当な使用量になるだろうが。
それは、これから最もやっていきたいテーマだ。手っ取り早いものとして、住戸内の間仕切り下地を鋼材から木材に変えるなどは可能性があると思っているが、その際の最大の悩みは大工職人の不足であり、木材はあるが作り手がいないという課題に直面している。また、構造躯体を木造化するためには、現場での施工を省力化・簡略化できる部材の開発が欠かせない。例えば、CLTなどを事前に工場で加工して、建築現場では組み立てるだけというようなシステムができるといい。これもゼネコンなど関連企業と一緒に取り組んでいきたい。
大手デベロッパーがそこまで本腰を入れてきているのか。確かに時代は変わってきた。
以前は、森林保全や木材利用に関わる業務をCSR(企業の社会的責任)の一環として位置づける傾向があったが、今は本筋の事業活動を通じて森林活用や木材利用などを行い、森林循環や地域振興に貢献する取り組みに変わってきている。このような根本的な変化はここ数年に起きたことで、これからも変わることはないだろう。
(2025年9月5日取材)
(トップ画像=三菱地所レジデンスなどが進めている型枠用合板のトレーサビリティを確保する仕組み、画像提供:三菱地所レジデンス)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。