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11名の社員は20・30歳代中心、森林とかかわる仕事を望む
GREEN FORESTERSの代表である中井照大郎氏は、大学を出て総合商社や再生可能エネルギーのベンチャー企業などで経験を積んだ後、2017年10月に岡山県の西粟倉村で森林管理専門会社の(株)百森を立ち上げた。
中井代表とともに同社を率いる中間康介氏は、大学卒業後、野村総合研究所などでの勤務を経て社会実装推進センターを創業し、「Sustainable Forest Action:SFA」のフォローアップなど異業種の知見や技術を活かしたニュービジネスの支援などを行っている。
進取の気性に富む2人に、遠藤理事長は語りかけた。
日本林業の最大の課題は、主伐後の再造林率が約3割に低迷し、人工林の若返りが進んでいないことだ。その背景には様々な要因がからんでいるが、とくに造林作業を担う人手不足は深刻度を増している。その中で、「青葉組」のように「造林」に特化した作業グループが出てきたことは注目に値する。まず、「青葉組」の現状について教えて欲しい。
「青葉組」は現在、栃木県の大田原市と茨城県の大子町の2か所を主な活動拠点にしており、併せて11名の社員が造林事業に取り組んでいる。

社員の平均年齢はどれくらいなのか。
20歳代と30歳代が中心だ。山仕事の経験が全くない人もいる。
それは若い。どうやって募集したのか。
弊社のWEBサイトなどを見て、山で働くという選択肢があることを知り、興味を持って応募をしてくるケースが多い。林業従事者を雇用するというよりは、森林や自然とかかわる仕事をしたいという人の受け皿になっていることが弊社の特徴といえるだろう。

3勤1休、午前11時には作業を終え体と心をリフレッシュ
11名の社員は、どのような働き方をしているのか。
基本的に3日働いて1日休む「3勤1休制」にしている。
一般的な「週休2日制」ではないのか。
「週休2日制」は、いわゆるサラリーマンの勤務形態だが、造林作業など山仕事を行う場合にはそぐわないところがある。5日間連続で働くと疲労が蓄積するし、集中力も落ちてくる。3日働いたら1日休みを入れることで、体も心もリフレッシュできる。
1日の勤務時間はどのくらいなのか。
作業内容や季節、天候などに応じて弾力的に決めるようにしている。夏場に下刈り作業を行うときは、暑さを避けるために早朝の午前5時頃から始めて午前11時頃には終えている。休憩時間も十分に確保するようにしている。
これも定型的な「1日8時間勤務」にはこだわっていないということか。給与体系はどうなっているのか。
日給月払い制をとっている。日給にすることで休みをとりやすくなり、柔軟な働き方が可能になる。その上で、各社員の作業実績を客観的に評価し、日給額を定期的に見直して昇給の機会をつくっている。評価基準は日々試行錯誤中だ。
森林づくりの人手不足は全国共通、突破口を目指して起業
そもそも「青葉組」を立ち上げた動機は何だったのか。
私は、岡山県西粟倉村で(株)百森を創業し、今も共同代表をつとめている。西粟倉村も主伐・再造林を本格的に実施する時期に来ているが、植林や育林の担い手が不足しているという課題に直面しており、同じような悩みを全国各地の林業地が抱えていることもわかってきた。そこで何とか解決策を見出そうと、中間さんや、和歌山県田辺市で「木を伐らない林業」を実践している(株)中川の中川雅也さんらと検討を進めた。
検討過程では、様々な事業アイディアについてディスカッションした。百森がやっているような私有林の集約化も重要だが、やはり実際に造林作業を行う人を増やしていかないと、日本の林業は回らなくなるという結論に達し、造林専門の企業を立ち上げることにした。
起業にあたっては、中間さんと中川さんに取締役として参画してもらい、共同経営者のような立場で事業の運営に加わってもらうことにした。
造林事業の活動拠点として、栃木県の大田原市と茨城県の大子町を選んだ理由は何か。
全国的に造林の担い手が不足している中で、とくにニーズの高い地域はどこかという観点から事業地を探した。伐採量が多くて、大きな製材所があるところは、再造林関連の仕事が多いだろうと考えて絞りこんでいき、まず北関東の大田原市、次に大子町に事業拠点を置くことにした。
北関東には日本を代表する製材メーカーがあり、間伐主体から徐々に主伐・再造林にシフトしてきている。伐採跡地にどのような樹木をどうやって植えていくかがまさに問われる段階に入っており、「青葉組」のような新しい造林の担い手が進出するのに適しているといえるだろう。
伐出せずに造林に特化するから人間中心の働き方ができる
それにしても造林だけのビジネスでは、それほど儲からないのではないか。伐出も併せて手がけることは考えないのか。
確かに、収益性を考えれば伐出事業も行う方がいい。ただ、それは弊社の目指す方向性とは違う。
弊社で働こうという人は、都市部での利益優先型ビジネスに見切りをつけてやってくるケースが少なくない。森林の中で体を動かして仕事をしたいというモチベーションが高く、それを活かしながら弊社独自のビジネス領域を広げていくことを考えたい。
伐出事業に参入して収益性を高めようとすると、高性能林業機械を使わざるを得ない。そうなると、機械の稼働率を上げるために長時間労働をするというような働き方になってくる。これでは本末転倒になる。
弊社が目指すのは、人間中心の働き方を実現することだ。そのためには、造林に特化することが何よりも大事になる。
そうした考え方が「3勤1休制」や「1日6時間勤務」、日給月払い制などの働き方に反映されているわけか。
弊社が導入している働き方の工夫は、それだけではない。ほかにも独自の試みを重ねている。(後編につづく)
(2022年9月7日取材)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。