【譲与税を追う】長野県佐久穂町

長野県 中部地方 林業 森林経営・管理

【譲与税を追う】長野県佐久穂町

“町有林起点”で持続可能な体制構築し「林業創生戦略」推進

日本一長い一級河川・千曲川(信濃川)が流れ、西に八ヶ岳、東に信州百名山の1つ・茂来山を望む長野県佐久穂町。同町には、約4,500haに及ぶ町有林がある。この広大な“共有資産”を起点にして、森林環境譲与税を有効活用する取り組みが進んできている。

佐久穂町役場は、JR羽黒下駅から急ぎ足で10分強のところにある。東京方面から羽黒下駅に向かう場合、佐久平駅で新幹線から小海線に乗り換えるのだが、小海線はSuica(スイカ)などのICカードが使えないので、切符を買うために一旦改札を出なければならない。しかも、小海線の佐久平駅は無人駅で、ホームの幅が約1mと超狭い! いつにない戸惑いを抱えながら羽黒下駅に着いたのだが、千曲川に架かる栄橋から見渡す伸びやかな風景に触れて心が落ち着いた。

栄橋からの眺め

同町の人口は1万298人。町面積は1万8,815haで、その約70%、1万3,180haが森林だ。所有形態別にみると、約25%が国有林、約75%が民有林で、民有林の約55%はカラマツ人工林となっている。林業従事者は117名で、2022(令和4)年度は2,177万円の譲与税が同町に交付された。

これまでの譲与税の支出状況はのとおり。2021(令和3)年度までは基金への積み立てがほとんどだったが、2022年度から森林整備や木材利用への活用にアクセルを踏み始めた。

その理由について、同町産業振興課林務係長の黛史浩氏は、「『佐久穂町林業創生戦略』に基づいた新規事業に譲与税を活用する準備が整ってきたからだ」と説明する。

50年スパンで「佐久穂の森構想」を実現へ、譲与税を本格活用

黛氏が口にした「佐久穂町林業創生戦略」は、2019(平成31)年3月に策定された。同戦略では、のような「佐久穂の森構想」の実現に向けて、50年スパンの長期的な取り組みを続ける方針を打ち出している。

「佐久穂の森構想」のイメージ図

その中で、産業化=木材生産の中核に位置づけているのが町有林だ。町内にある森林のゾーニングを行った結果、木材生産に適した林地は町有林に多いことがわかった。

町有林は民有林の約40%を占めており、文字通り町民の“共有資産”。この町有林について、50年伐期を設定し、毎年約20haの主伐・再造林を進めていく計画だ。

保育での効率的な施業を進めるため、譲与税を財源にして、2022年度に林業専用道の測量設計を行い、2023年度と2024年度で約1.5kmに及ぶ改良工事等を行う予定だ。

譲与税を活用した情操教育や木材利用にも力を入れている。2019年には、認定NPO法人芸術と遊び創造協会(東京おもちゃ美術館*1)と連携して「ウッドスタート宣言」を行い、木のおもちゃ出生祝品の制作・贈呈を続けている。おもちゃの材料には、小中学校の林業体験学習で伐り出したカラマツ材を使用している。また、2020年6月に竣工した新庁舎をモデルにして、公共建築物等の木造・木質化を推進していくことにしている。

内装にカラマツを活用した新庁舎の議場(新庁舎は鉄骨造地上3階建てで延床面積2,921.51m2、カラマツを2,080m3使用している)

今後に向けて、黛氏は、「“町有林起点”で持続可能な体制を構築し、採算に乗りづらい私有林の整備も進めて、地域の活性化につなげていきたい」と先を見据えている。

(トップ画像=佐久穂町新庁舎の内観)

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしていきます。

この記事は有料記事(1489文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。