多様なニーズに応えながら森林を活かす「しまんと製材工場」【企業探訪】

多様なニーズに応えながら森林を活かす「しまんと製材工場」【企業探訪】

全国に先駆けて「木材利用推進宣言」を行い、今年度(2023年度)から「環境不動産」の認定制度*1をスタートさせた高知県。CLT活用の先進県としても知られる同県では、非住宅建築物をはじめとして県産材の出口(需要先)を広げる取り組みが続いている。その中で、昨年(2022年)4月に稼働を始めた「しまんと製材工場」(四万十町)が多様なニーズに応えながら存在感を高めてきている。

長尺・大径材加工可能、減圧式乾燥機を活用し平角生産に注力

「しまんと製材工場」は、四万十川流域に豊富なスギやヒノキを有効活用するために、最新の生産ラインを整備して開設された。

メインマシンとして導入したのは、長さ6m、元口径58cmまで加工できるノーマン製材機1台。また、長さ8m、元口径90cmまで挽ける台車製材機も2台設置しており、構造材や羽柄材、内装材、役物、特殊材など住宅・非住宅を問わず建築物に必要な材はすべて加工できる体制を整えている。

人工乾燥機は7台設置しており、うち3台はオーアイ・イノベーション(株)(静岡県島田市、田中秀幸社長)の減圧式高温乾燥機を導入している。

減圧式高温乾燥機

稼働開始から1年が経過して、とくに生産に力を入れている製品が平角だ。減圧式高温乾燥機を活用することで、乾燥期間を大幅に短縮でき、内部割れの発生率が約半分に下がるなど、生産性と品質の向上が図られている。

いたずらに量産化は追わず、製品市場の組合員が結集して運営

昨春に稼働を始めた「しまんと製材工場」の初年度の原木消費量は約1万6,000m3だった。原木消費能力は最大約5万m3あるので、フル操業までには余裕があるが、いたずらに量産化を追うことはしていない。というのも、県内には、銘建工業(株)(岡山県真庭市、中島浩一郎社長)のグループ会社で年間約10万m3の原木を消費する高知おおとよ製材(株)(大豊町、中島浩一郎社長)があるからだ。

協同組合高幡木材センターの北村憲一理事

「しまんと製材工場」の運営主体である協同組合高幡木材センター(高知県四万十町、伊藤訓新代表理事)の北村憲一理事は、「後発の工場がおおとよ製材と同じような量産化路線をとっても意味がない。大径化する森林資源や多様化する需要への対応力をいかに高めていくかが重要だ」と話す。

この経営方針は、「しまんと製材工場」を立ち上げた同センターの“得意技”ともいえる。同センターは、1972年に役物の製品市場として発足し、ピーク時は21社の組合員が所属していた。だが、役物の需要が落ち込むとともに、組合員が減少。現在は、上村製材所(四万十市)、伊藤製材(有)(四万十町)、共栄興産(有)(同)、(有)関西木材建設(同)の4社に絞られている。

この間、同センターや組合員が所有していた製材機なども老朽化し、生産ラインを刷新する必要性が生じていた。しかし、同センターや組合員単独で新たな製材機などを導入するには資金負担などが重すぎる。そこで、県や地元市町と検討を進め、補助金を含めて総事業費約15億円を投じて「しまんと製材工場」を新設、4社が協業して運営する体制に移行した。これに伴って、4社の人員や設備も再編し、上村製材所以外は自社工場を閉鎖した。

「しまんと製材工場」が生産している製品の約7割はロット販売、残り3割は非住宅建築物や戸建て住宅の邸別出荷向けに供給している。今後について北村理事は、「特殊材など対応力が要求される需要を確実に掴みながら生産性を高めていく」との方針を示している。

(2023年6月2日取材)

(トップ画像=メインマシンのノーマン製材機)

『林政ニュース』編集部

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