“木工の聖地”を掲げ国産材回帰を進める飛驒産業【突撃レポート】

“木工の聖地”を掲げ国産材回帰を進める飛驒産業【突撃レポート】

1300年以上前から木工の産地として知られる岐阜県飛騨高山地域。奈良時代から平安時代には、同地域の木工職人を「飛騨の匠」として都へ派遣することも行われていた。その凄腕木工集団のDNAを受け継いでいるのが、創業103年目に入った老舗家具メーカー・飛驒産業(株)(岐阜県高山市、岡田明子社長)だ。国産材への回帰を進め、“木工の聖地”を掲げる同社の最新状況をレポートする。

2030年までに国産材比率30%へ、住宅・非住宅を問わず活用

飛驒産業は、地場産のブナを有効活用して曲木椅子などを製作する会社として1920年に創業した。発足当時は、原材料を100%国産材に頼っていたが、国産広葉樹資源の枯渇を背景に1980年頃から外材への転換を進め、2002年まではほぼ外材で家具をつくっていた。

その後、2005年にイタリアのデザイナーとの協働で世界初の圧縮スギを用いた家具シリーズ「HIDA」を発売。これを皮切りに国産材家具の取り扱いを増やし始め、現在はナラやクリ、ブナなどを使った製品群を展開している。

同社の昨年(2022年)の売上高は約56億円。その約8割は消費者向けの「ホームユース」部門、残り約2割は公共物件や非住宅向けの「コントラクト」部門という内訳になっている。

年間の木材使用量は約4,5000m3で、このうち約14%が国産材。国産材は主に「コントラクト」部門で使用されており、直近では、聖マリアンナ医科大学病院(神奈川県川崎市、大坪毅人病院長)に飛騨産広葉樹を活用した家具を納品した。

同社は、2030年までに国産材使用率を30%に引き上げる目標を設定しており、消費者向けのキャンペーンなども展開しながら取り組みを強化している。

岡田明子・飛驒産業社長

岡田明子社長は、「飛騨市が展開する広葉樹のまちづくりなど、国産材のサプライチェーンが着実に構築されてきている。段階を踏んで国産材の使用量を上げていき、地域の経済循環につなげたい」との抱負を語った上で、「国産広葉樹活用のボトルネックは乾燥」と課題を口にした。

ボトルネック解消へ温泉熱活用の人工乾燥機を11月から稼働

「乾燥」というボトルネックの解消に向けて、飛驒産業は今年(2023年)11月に温泉地域にある「上宝工場」(同市)で国産広葉樹材用の新たな人工乾燥機を稼働させる。

同社が使用している広葉樹材は、天然乾燥によって含水率を落としている。天然乾燥の場合、乾燥期間が1年半以上かかり、製品を長期間保管する場所も必要になるため費用が嵩む。コストを抑えながら広葉樹材の使用量を増やしていくためには、人工乾燥によって乾燥期間を短縮することが欠かせない。

同社が導入する人工乾燥機は、約1か月半で含水率を落とせる。乾燥機は計15基を設置することにしており、年間約1,000m3分の乾燥能力となる。熱源には温泉(源泉)の熱を利用し、低温乾燥を施すことで天然乾燥材と遜色ない仕上がりになる。

工場内の設備には再生可能エネルギーも利用している

乾燥の熱源に温泉熱を利用するのは、全国的にも事例が少ない。同社は、化石由来のエネルギーから持続可能な自然エネルギーへシフトする方針を打ち出しており、本社の工場は、材料や塗装の乾燥、冬場の暖房などに、主に端材などを活用したバイオマスボイラーから生み出されたエネルギーを利用している。

専門の「学舎」で職人を育て、直営店でインバウンド需要掴む

飛驒産業は、志(企業理念)として、「匠の心と技をもって飛騨を木工の聖地とする。」を掲げている。この志は、岡田社長が常務時代に牽引した100周年ブランディングプロジェクトの一環として策定し、合わせて拠り所となる価値観(「人を想う」、「時を継ぐ」、「技を磨く」、「森と歩む」)も示した。

この志と価値観を具体化する取り組みの1つが「飛騨職人学舎」の運営だ。同学舎は、飛騨の木工文化を担う人材を育成するために2014年に“開校”した。毎年、事前選考をパスした24歳以下の若者5名ほどが門を叩く。同学舎に入ってから2年間は、丁稚奉公のように寮で暮らし、携帯禁止、恋愛禁止、土日なしの厳格な環境下で職人としての心と技を磨き、同社に入社する。同学舎の“卒業生”の多くが技能五輪で上位入賞するなど実力は折り紙つきだ。

同社は、若手職人の育成を進めるとともに、新規需要の開拓にも注力している。本社を置く高山市は、江戸時代からの建物や街並みなどが残っており、多くの観光客が訪れる。ピークだった2019年の年間観光客入り込み数は473万3,000人で、外国人宿泊者数は61万2,204人に上った。その後、新型コロナウイルスの感染拡大で一時的に来訪者は落ち込んだが、今年6月の観光客入り込み数は2019年とほぼ同水準にまで回復してきている。

複合ショップ「HIDA 高山店 森と暮らしの編集室」

同社は昨年(2022年)、市内の直営店をリニューアルし、複合ショップ「HIDA 高山店 森と暮らしの編集室」としてオープンした。オリジナルの木工家具のラインナップを中心にカフェやアウトレットショップなども併設し、国内の顧客とともに、インバウンド(訪日外国人観光客)需要も掴めるような店舗にリモデルした。

岡田社長は、「飛騨高山の代表という気概を持ち、世界中の人々が訪れるような“木工の聖地”をつくっていく」と意欲をみせている。

(2023年8月20日取材)

(トップ画像=圧縮スギを使った家具シリーズ「HIDA」、画像提供:飛騨産業)

『林政ニュース』編集部

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