【譲与税を追う】北海道旭川市

【譲与税を追う】北海道旭川市

「家具のまち」が約1億円の譲与税を“国産材回帰”に活かす

旭川市は、日本の5大家具産地の1つに数えられる「家具のまち」だ。同市を中心にしてブランド化されている木製の「旭川家具」は、大雪山系の森林から伐り出された木材を使って生活用品をつくり始めたのが発祥とされる。その後、道内の森林資源が枯渇していったため、外国産材を使うようになったが、近年では再び地場産木材を利用する“国産材回帰”の流れが強まっている。同市は、森林環境譲与税を活用して、この流れを後押ししている。

同市の人口は31万7,757人。市面積は7万4,766haで、このうち森林は4万152haと53.7%を占める。所有形態別にみると国有林が2万3,815ha、道有林が4,970ha、市有林が1,850ha、私有林等が9,517haという構成だ。その同市に、2022年(令和4)年度と2023(令和5)年度は8,203万円の譲与税が交付され、今年度(2024(令和6)年度)は1億円を超える予定だ。

これだけの譲与税を原資にして、同市は20にも及ぶ事業を展開している(2022年度実績)。主な使途は、森林整備関係が2,005万3,000円、人材育成・担い手確保関係が2,233万3,000円、木材利用関係が2,609万6,000円、普及関係が507万6,000円、基金積立が848万円で、2022年度末の基金の残高は7,413万4,000円になっている。同市は、譲与税の交付が始まった2019(令和元)年度に、活用方針を策定して新規財源の有効利用に取り組んできた。今年度からは新しい5か年の活用方針がスタートしており、農政部農林整備課の担当者は、「新方針に沿って、①森林整備の推進、②人材育成・担い手確保、③木材利用の促進、④普及啓発などを計画的に進めていく」と説明する。その中で、とくに力を入れているのが③木材利用の促進だ。

シンボルとなる新庁舎に市有林産材や旭川家具を積極的に使用

木材利用に注力している旭川市の姿勢を体現しているのが2023年度に約139億円をかけて建設した新庁舎だ。家具産地のシンボルとして、新庁舎の天井や梁、軒天、展望ラウンジなど、市民の目に触れるところに市有林産材をふんだんに使用した。

新庁舎の1階。新庁舎全体の木材使用量は226.93m3、そのうち市有林産材が211.94m3、道産材が13.50m3、その他が1.49m3となっている

中でも議場は、梁にアーチ状のカラマツ集成材、内装材にトドマツを使用し、重厚感のある大空間になっている。

また、市長室やレストラン、待合スペースなどには旭川家具を設置しており、市有林から伐出された木材も用いている。

展望ラウンジも木質化されている

このほか、薪ストーブの導入補助や、新生児への木製食器の寄贈なども行っており、伐出から製材・加工までの一連の工程をウェブサイトで公開するなど、市民が森や木に親しめる様々な“仕掛け”が用意されている。

未回答森林は再調査し放置林ゼロ目指す、担い手確保にも注力

旭川市の担当者は、今後も木材利用の拡大を図りながら、「森林経営管理制度の推進と担い手確保対策も強化していきたい」との方針を示す。

同市内には、約1,400haの未整備私有林がある。これまでに実施した意向調査で、森林組合や個人等が整備する森林は約370ha、市への経営管理委託を希望する森林は約250haである一方、未回答の森林が約780haあった。今年度は、経営管理の委託を希望する森林の状況把握を進め、2026年度以降に未回答森林を対象にした再調査を行う予定だ。担当者は「優先順位を見極め、放置林ゼロを達成するために譲与税を活用していく」と明確に言う。

併せて、担い手確保対策については、「北の森づくり専門学院の学生募集のPRや普及啓発活動をさらに充実させて、1人でも多く就業してもらえるようにしたい」と意気込みをみせている。

(2024年7月24日取材)

(トップ画像=旭川市役所新庁舎の議場)

『林政ニュース』編集部

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