2018年夏の林野庁幹部人事異動解説 異例・意外の発令が相次ぐ【緑風対談】

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2018年夏の林野庁幹部人事異動解説 異例・意外の発令が相次ぐ【緑風対談】

元林政部長の末松広行氏を次官に抜擢、サプライズ人事が当たり前に

猛暑の中で断行される“霞が関人事”は常に注目のマトだが、今回も異例の発令が相次ぎ話題を振りまいた。林野庁長官の交代に伴う人事解説に入る前に、本体である農林水産省のトップ人事に触れよう。
事務次官の奥原正明氏(昭和54年入省・東大法卒)が退官して省の顧問となり、後任には何と末松広行氏(昭和58年・東大法)が就任した。「何と」と表現したのは、前例のない抜擢だからだ。歴代の事務次官は、林野庁長官や水産庁長官という「外局の長」や大臣官房長から起用するのが通例。ところが、末松氏は経済産業省に出向しており、産業技術環境局長から農林水産省の最高ポストに舞い戻った。本人自身も驚いたのでないか。

末松広行氏

末松氏は、林野庁で林政部長を3年8か月もつとめた。その後、関東農政局長→農村振興局長と転じ、一昨年6月に初の局長級交流人事で経産省に出た。このキャリアからみて、「次の林野庁長官は末松さん」との下馬評が高かったのだが、蓋を開けたらあっと驚く栄転発令だった。

前任の改革派・奥原氏は、一昨年6月に経営局長から次官にダイレクト昇格した。昨年7月の幹部人事では、次のエースと目されていた人材が相次いで退官した。こうみてくると、もはや旧来からの人事の慣例や不文律は通用しない。サプライズ人事が当たり前の時代になったようだ。

牧元次長が長官にダイレクト昇格、国有林野部長は小坂氏

では、「改革」の名の下に行われた今回の林野庁人事はどうだったのか。長官の沖修司氏(昭和54年・名大林)が在任1年で退官したのは想定内だったが、後任として次長の牧元幸司氏(昭和60年・東大法)が昇格したのは、少々意表を突かれた。事務官の次長がそのまま長官に昇格することはないとされていたからだ。

前述したように、外局の長は次官に次ぐポストであり、給料も高く定年も62歳と格が上。したがって、事務官の次長は局長などを経験した後に長官になるというのが定石だった。その不文律があっさりと覆ったわけだ。

牧元氏の後任次長には技官の本郷浩二・国有林野部長(昭和57年・京大林)が就任。これは大方の見立てどおりだったが、本郷氏の後任はやや意外だった。林野関係筋が本命視していた森林整備部長の織田央氏(昭和63年・東大林)ではなく、計画課長の小坂善太郎氏(昭和63年・名大林)が起用されたからだ。

63年組の織田・小坂両氏は、ともに林野庁を背負っていく人材であり、どちらが国有林野部長になってもおかしくない。ただ、年が上の織田氏を先に部長に引き上げた経緯がある。したがって、本郷→織田→小坂と順繰りにバトンを渡していくのが穏当だとみられていたのだが…。

周知のように、民有林行政は、来年度から森林環境税を導入した新たな段階に入る。この変革期にあたり、民有林を担当する織田森林整備部長はあえて留め置き、法制度の見直しなど次の課題が控える国有林野部長は小坂氏に託すという形に落ち着いたようだ。

名を残した沖氏、牧元氏はインドで内示、関東局長は10年ぶりの齋藤氏

さて、長官室を去る沖氏に、約40年に及んだ林野技官生活を振り返って印象に残ったことを問うと、「国有林の一般会計化と森林環境税の創設。これが双璧」との答えが返ってきた。なるほど、どちらも林野庁が抱えてきた積年の課題。この難題に決着をつけた沖氏は、間違いなく林政史にその名が残るだろう。

ここで内輪のエピソードを1つ。牧元氏が長官の内示を受けた場所は、何とインドだった。現地で開催されていた林業関係の会議に出席している合間に一報が入ったという。本人曰く「全く何の前触れもなかった」。ここにも、今回の人事の意外性が表れている。

事務官の指定席である関東森林管理局が代わった。漆原勝彦氏(昭和61年・東大法)が7月4日付けで水産研究・教育機構の理事に転じ、後任として齋藤伸郎氏(平成元年・東大法)が8月1日付けで着任。齋藤氏は、林野庁で緑資源談合事件や国有林改革のタコ部屋(専門検討室)に常駐しつづけ、旧知の林野関係者が多い。平成17年には中越森林管理署に赴任し、署長として豪雨・地震・豪雪災害に対応、送別会では署員に胴上げされた。こんな事務官はちょっといない。一昨年8月から東北大学の教授をつとめ、10年ぶりに林野の世界に戻った齋藤局長の手腕に注目したい。

齋藤伸郎氏

森田林政課長と鳥海管理課長は初林野、帰ってきた長野麻子氏


7・27人事では、本庁の事務官課長が3つ動いた。まず、一昨年6月から林政課長をつとめていた水野政義氏(平成元年・早大経)が経済産業省の大臣官房審議官(兼貿易経済協力局)に移り、後任には経営局経営政策課長の森田健児氏(平成2年・東大法)が就任した。
水野氏の異動は、経産省との交流人事による出向である。前出の末松次官は局長級の交流人事で経産省に行ったが、今回は審議官レベルとなり、水野氏に白羽の矢が立った。輸出促進施策を担当する。
新林政課長の森田氏は、初の林野庁入りだが、平成7~8年に労働省(現厚生労働省)に出向しており、林業労働力確保促進法の制定に携わった。そのときの林野庁側の窓口が牧元長官で、当時は森林組合課(現経営課)の課長補佐(総務班)だった。それ以来のコンビ復活になる。森田氏は、栃木県出身で佐野高校卒。中学時代は野球で体を鍛え、今は映画鑑賞で気分転換を図っているという。






森田健児氏


国有林野部の管理課長も交代した。松村孝典氏(平成4年・京大経)が農林水産技術会議事務局研究推進課長に転じ、後任として、生産局農産部地域作物課長の鳥海貴之氏(平成6年・東大法)が着任した。
松村氏は、2年間に及んだ管理課長を、持ち前の明朗なキャラクターを活かしてよくつとめ、課内職員からも「明るくて風通しがよかった」との声が聞かれた。その松村氏が管理課長を離れるにあたって残したコメントは、「やっぱり国有林はすごい。役人の知恵が全部詰まっている」。新ポストでは、スマート農業を担当する。
後任の鳥海氏は、林野庁勤務は初めて。埼玉県の川越市出身で、私学の名門・開成高校から東大に進んだ俊才だが、エリート然としたところはない。受け答えは誠実そのもので、好人物との評が定着している。農業関係の業務は一通り経験しており、今度は国有林ワールドで一段の飛躍が期待される。「山歩きも好き」だそうだ。






鳥海貴之氏


木材利用課長も代わった。一昨年8月から同課長をつとめてきた玉置賢氏(平成6年・東大経)が経営局保険課長に移り、後任には大臣官房広報評価課長の長野麻子氏(平成6年・東大経)が起用された。
玉置氏は、クリーンウッド法の施行や木材輸出、バイオマス利用の促進などで外交的センスを存分に発揮。その玉置氏からバトンを受けた長野氏には「適任」の評が高い。長野氏は、入省3年目に林野庁企画課に配属され、持ち前の明るさと親しみやすさでたちまちアイドルとなり、今でも林野関係者との親交が続いている。その後、電通に出向するなど“修行”を重ね、今や「省全体の営業部長」(上司)といえる存在。打って出る機会の多い木材利用課長は、まさにはまり役だ。愛知県出身の長野氏は、前出・沖氏の高校(岡崎高校)の後輩。東大時代はフランス文学を学んでいたという。



  

長野麻子氏

さて、7・27人事では、技官の課長・室長などにも見逃せない動きがあったのだが、ここで紙幅が尽きてしまった。続編は、改めてお伝えしよう。

(2018年7月24~26日取材)

『林政ニュース』編集部

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