小宮山宏・プラチナ構想ネットワーク会長に聞く 年間素材生産1億m3で木材輸出国を目指せ!【インタビュー】

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小宮山宏・プラチナ構想ネットワーク会長に聞く 年間素材生産1億m3で木材輸出国を目指せ!【インタビュー】

地方自治体や企業、大学などで組織する任意団体「プラチナ構想ネットワーク」(会長=小宮山宏・三菱総合研究所理事長・東京大学総長顧問)が「スマート林業ワーキンググループ」を設置して、林業再生に向けた検討作業に着手した。第28代東京大学総長として最高学府の改革を推し進めた小宮山会長が強力なリーダーシップを発揮し、新たなビジネスモデルの構築を目指している。その大胆なビジョンとは?

最終形を描いたビジョンが不可欠、ha4m3の生産性へ

――なぜ今、林業問題を議論しているのか。
小宮山会長 プラチナ構想ネットワークは、エコロジカルで高齢者も参加でき、地域で人が育ち、雇用力もある快適な社会を目指す全国規模の連携組織として平成10年8月に発足した。現在は、自治体会員107人、法人会員63人、大学などの特別会員36人が参加しているが、とくに自治体会員から林業の再生について検討してほしいという要望が強く、「スマート林業ワーキンググループ」を立ち上げ、3月30日に初回会合を開いた。月1回ペースで会合を重ね、7月には一定のとりまとめを行う。

小宮山宏・プラチナ構想ネットワーク会長

――国は「森林・林業再生プラン」を策定して、各種施策を展開しているが。
小宮山 路網整備の推進など個々の取組課題はいいが、最終形を描いたビジョンがない。グローバルな視点が欠けているし、具体的なアクションも十分ではない。率直に言って、「宝の山」を腐らせているのが日本の林政。現場からの期待度は必ずしも高くない。補助金でつながっているだけだ。

――グローバルにみて、日本林業のどこが問題か?
小宮山 基本的に農林産品は先進国が輸出し、途上国が輸入するというのが世界の構図だ。ところが、日本は先進国でありながら木材の輸入国に止まっている。その原因は、林業の生産性が向上しておらず、途上国並みだからだ。

欧州の林業先進国と言われるドイツやオーストリアは、ha当たり4m3強の生産性を維持している。しかし、日本は0.5m3程度でしかない。国情の違いはあるが、オーストリアのアルプス山地も地形は急峻であり、生産性を上げることは可能だ。

日本の森林面積にha当たり4m3強の生産性を当てはめると、年間の素材生産量は1億1,000万m3と、現状(1,600万m3)の7倍近くに増える。これだけの資源があるのだから、将来は木材の輸出を目指すべきだ。

――輸出先には、中国やインドなどの新興国が想定されるか。
小宮山 当然そうなる。新興国は、これから確実に木材輸入量を増やしていく。1億1,000万m3のうち5,000万m3を輸出し、2,000万m3を輸入して、国内で7,000万m3を消費するというのが将来の姿になる。この目標を2030年をメドに達成するシナリオを検討している。

年間100万m3の経営体が100できればいい

――国内林業の具体的な強化策はどう考えているのか。
小宮山 大規模化、機械化、サプライチェーンの3つがキーワードになる。スマート林業ワーキンググループに参加している北海道の下川町と岩手県の遠野市を実証フィールドに位置づけて、森林簿などをもとに各種情報のデータベースをつくり、生産性を高められる路網整備や機械の入れ方などを示す。また、原木や製材などの生産量や販売先、販売価格などを分析して最適なサプライチェーンを描いていく。

日本の林業を国際競争力のある産業にしていくためには、とにかくスケール感が必要だ。今、下川町の年間素材生産量は5万ha程度だが、これから取り組みを強化すれば20万m3くらいまで増やせるだろう。しかし、これではまだまだ小さい。最低でも100万m3くらいの規模にならないと、国際競争力は出てこない。そこを目指して、自治体や地域間の連携を考えていくべきだ。

年間100万m3の素材生産能力がある経営体が国内に100できれば、1億m3の原木を安定して出せる。この安定性こそが大きな価値になる。

10の地域モデルで先導、50万人の新規雇用が生まれる

――日本は森林の所有形態が小規模分散型で、木材産業も中小企業が多い。規模のメリットを追求できるのか。
小宮山 小さなネットワークで努力することも大切だが、今、我々が議論すべきなのは、大きなビジョンだ。ビジョンを達成するまでのプロセスには当然痛みが伴うが、これは避けて通れない。

欧州で政情不安が収まらない背景には、雇用問題がある。工業国が生産性を上げていくと、雇用力は減り、失業者が増える。日本も同じ道を辿りつつあるが、林業が復活すれば50万人くらいの新規雇用が生まれる。しかも、それが地域にできる。こんなに大きな経済計画はない。

緑を守ることと林業の再生は一体だ。林業が経済的に成り立たないと、森に手が入らない。下川町や遠野市のようなモデルを10くらいつくれば、やる気のあるところが出てくるだろう。グローバルとローカルの両面から取り組み、当面3年間で結果を出す。

【参考】「スマート林業ワーキンググループ」の主なメンバー
下川町(北海道)▽遠野市(岩手県)▽栗原市(同)▽富山市▽高岡市(富山県)▽秋田県▽和歌山県▽鳥取県▽徳島県▽大分県▽熊本県▽住友林業▽トヨタ自動車▽三菱総合研究所▽国際興業▽鹿島建設

(2012年5月8日取材)

『林政ニュース』編集部

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