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木材の調達を「プッシュ型」から「プル型」に切り替える
遠藤理事長が霧島市にあるMI社の事務所に着くと、同社の森下喜隆社長が待っていた。森下社長は、三菱地所関連事業推進室長の肩書も持っており、東京から新規事業を陣頭指揮するために赴任している。

MI社を立ち上げた三菱地所は、三井不動産(株)、住友不動産(株)と鼎立するわが国トップクラスの不動産ディベロッパーだ。住宅建設や各種施設の運営管理などの事業も幅広く展開している。その大企業が国産材ビジネスに参入した理由は何か。
弊社は、設立の目的に「木(もく)を活用する社会の実現」を掲げており、建築用木材の生産から流通・施工・販売までをカバーする統合的最適化モデルの構築を目指している。
川上から川下まで一気通貫型の事業を展開するということか。

弊社が構想しているビジネスフローは、図のようになる。既存事業の場合は、森林で伐採された木材を市場に出してから売り先を探す「プッシュ型」になっている。これに対して、弊社が取り組もうとしているのは、伐採前に森林所有者へ「こういうものが欲しい」という情報を伝える「プル型」の木材調達だ。「プル型」に切り替えることで流通過程のムダが省け、山元への利益還元も可能になると考えている。
ディベロッパーとゼネコンがタッグを組んで地元と共存共栄を図る
MI社は三菱地所のほか6社が出資して設立されたと聞いている。
(株)竹中工務店、大豊建設(株)、松尾建設(株)、南国殖産(株)、ケンテック(株)、山佐木材(株)が共同出資しており、各社の得意分野を活かす体制をとっている。
構成メンバーの竹中工務店は、言わずと知れたスーパーゼネコンであり、最近は「都市の木造化」でも存在感を高めている。大手不動産ディベロッパーの三菱地所と組むことの狙いは何か。
ディベロッパーは、建築用地を確保し、どんな建物を建てるかという企画を錬る。その企画を踏まえて、ゼネコンが施工を行うという役割分担が基本になるが、相互の情報交換や意思疎通を十分に図ることが欠かせない。
とくに最近は、都市部の中高層ビルでも木材を使おうとするプロジェクトが増えてきている。竹中工務店をはじめとしたパートナー企業は、木材利用に関する豊富な知見や技術力を持っており、シナジー(相乗)効果を発揮することによって、「市場が求める」商品の開発が可能になる。
大手ディベロッパーとスーパーゼネコンが進出してきたことに驚いている地元関係者もいるようだが。
弊社が目指しているビジネスは、単独ではできない。地域の方々との連携が欠かせない。これまでにない新しいマーケットを創出するという趣旨を丁寧に説明し、地元の森林組合や素材生産業者、製材工場などと共存共栄できる道を探っていきたい。
新工場が4月に部分稼働、本格稼働時には年間5万m3の原木を消費
湧水町で建設中の新工場について聞きたい。県立栗野工業高校の跡地を利用しているようだが、この地を選んだ理由は何か。また、何をつくるのか。
湧水町は、鹿児島県はもとより熊本県や宮崎県からもスギ原木(丸太)を持ってきやすい。この立地条件を活かして、来年(2022年)4月の本格稼働時には年間約5万m3の原木を使って、2×4材やCLTを生産することを計画している。
これに先立ち、今年4月からは新工場を部分稼働させて、三菱地所とケンテックが共同開発した新建材「配筋付型枠」の生産をスタートさせることにしている。
「配筋付型枠」は、製材した板に鉄筋を設置したコンクリート打設用の型枠で、通常は廃材となる型枠材をそのまま内装の仕上げ材として利用できる。三菱地所が札幌市中央区で建設しているホテルの客室内天井にも「配筋付型枠」が採用される予定だ。
木(もく)プレファブリック事業でローコスト・高品質な住宅を供給
MI社が目指しているビジネスモデルは、国産材業界にどのような“果実”をもたらすと考えているか。
4つに整理できるだろう。
第1は、「プル型」の木材調達によって、中間コストが削減できるとともに、これまで使い道が少なかったスギ大径材などの有効利用が可能になる。
第2に、商品開発力が向上する。エンドユーザーのニーズを捉えた商品を生み出すことができ、設計や施工の効率化にもつなげることができる。
第3に、製造コストの低減化が図れる。建築用木材は多品種少量生産になりがちで、コストが嵩む。そこで、ディベロッパーとして長年蓄積してきたノウハウを活かしながら、ニーズにマッチした特定商品の集中製造を行ってコストダウンを実現したい。
第4に、7社のもつ販売チャネルを活用すれば、新たな販売チャネルの開拓が可能になる。
「設計や施工の効率化」という言葉があったが、どういう意味なのか。
弊社は、新建材事業とともに「木プレファブリック事業」も展開していくことにしている。CLTパネルや集成材などを用いて、あらかじめ工場でつくった部材を現場で組み立てる建築工法を普及し、ローコストで高品質な木造住宅を供給していきたい。100m2の平屋戸建てなら1,000万円未満で提供できると試算している。

そんなに安くできるのか。
プレファブリケーションを導入することで、従来に比べ現場での作業人工を大幅に低減できるようになる。そのためのノウハウをまとめ、広く提案していきたい。
少子高齢化で住宅市場がシュリンクしていくことは避けられない。その中で、MI社の取り組みは重要な挑戦といえる。新工場の稼働状況を中心に今後の展開を注視していきたい。
(2021年2月1日取材)
(トップ画像=新工場の完成イメージ)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。