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製造元が「MADE IN HITA」をダイレクトにアピール
日田といえば筑後川の上流に位置し、河口部の大川はタンスなど箱物家具の産地として有名だ。一方、山間部の日田はソファーなど脚物家具の産地として双璧をなしてきた。だが、なぜかこれまで「日田家具」は影が薄かった。いわゆる「5大家具産地」からも日田は飛ばされている。どうしてか?

今は直販も行っているが、もともと「日田家具」は問屋経由でホテルや商業施設、大手家具メーカーなどへ販売していた。製造者自身が産地を積極的にPRしていく姿勢に欠けていた側面があったと思う。そのため「日田が家具産地とは知らなかった」、また、「日田家具という名前は知っていてもどこへ行けば買えるのかよくわからない」という状況が続いていた。もっと「日田家具」の良さをダイレクトにアピールしなければという危機感から立ち上げたのが日田家具衆だ。
モノづくりの“土壌”を背景にして発足、日田家具工業会がサポート
日田家具衆の目指すところは何か。

まず日田家具工業会の概要について紹介しておきたい。当協会は、日田市の家具製造業者7社が会員となっている。主な取り組みとして、①IFFTやWOODコレクションなどへの参加(展示会出展事業)、②日田家具工業会オープンファクトリーの開催(産地PR事業)、③日田スギを使った家具デザイン開発(商品開発事業)、④椅子張り技能検定講習会や試験の実施(人材育成事業)、⑤大分県立芸術文化短期大学とのプロダクトデザイン開発(産学官交流事業)などを行っている。
日田はスギ材産地として知られているが、モノづくりのまちでもある。
この展示会場に来る前に日田玖珠地域産業振興センターの商品展示売場に寄ってみたが、家具をはじめ下駄、陶器、建具、木竹工芸品、お酒、お茶や椎茸の農産物など、実に様々な商品が展示・販売されていた。
日田家具衆は、そうしたモノづくりの“土壌”を背景にして立ち上げた組織だ。日田地域がソファーなどの脚物家具産地であることを全国に発信しながら、各地の家具産地と切磋琢磨して家具製造技術を高め、後世に伝えていくことを目的にしている。会員の具体的な行動目標として、まず自社のために汗を流すこと、空いた時間で家具職人育成のために働くこと、さらに空いた時間で家具業界のために働くことを挙げている。
使用材料の外材依存を見直し、新たな着想で新商品を開発
「日田家具」製造の実情を知りたい。材料にはスギ材をメインに使っているのか。
残念ながら、現在は外材が多いのが実態だ。
「5大家具産地」でも外材の使用割合が多い。ここではどのような樹種を使っているのか。
オーク、ウォールナット、ホワイトアッシュ、メープル、チェリーなど北米産の広葉樹が多い。いずれもKD(人工乾燥)後の板材で輸入している。
地場に根差したモノづくりを標榜しているのであれば、もっとスギ材を使ってもいいのではないか。
これまで一部の家具にはスギ材を使ってきた。ただ、スギ材は強度が弱いとみられ、使用範囲が限られていた。これからは、より積極的にスギ材を使っていきたい。そのために試行錯誤を続けているが、すでに商品化しているアイテムがいくつかある。私達が意見交換をしているこの机の天板はスギ材だ。脚にはスティール(鉄)を使っている。
なるほど。かつては「これでもかこれでもか」と国産材を使いたがったものだが、やはり他の素材とのコーディネートも必要だ。センスの良さが伝わってくる。

15年前にはスギ材製の学童机と椅子を日田市内の小・中学校に納入した。それを来年(2022年)から順次新品に入れ替える予定であり、そのために新しい学童机と椅子を開発した。天板は取り外しができるようになっており、卒業記念として児童が持ち帰ることができる。このデザイン開発に2年かかり、このほど特許を取得した。児童達に木の良さと自然と共生する大切さを学校生活を通じて体感して欲しいとの願いを込めてつくっている。
また、日田産地が得意とするソファーとテーブルのリビングセットにもスギ材を使うようにしている。
スギ材の反りや割れを防止する人工乾燥技術の確立が課題
家具用のスギ板はどのようにして仕入れているのか。
グリーン(未乾燥)の板材を日田地域の製材所から購入している。それを弊社では人工乾燥している。他の家具製造業者が弊社からKDのスギ板を購入するケースもある。
日田地域の代表的なスギ品種といえばヤブクグリだ。
ヤブクグリは、当地ではインスギとも呼ばれている。根曲がりすることがあるが、粘りが強く、赤みがかった材色や独特の年輪が美しい品種でもある。
ヤブクグリをはじめとしたスギの大径材は、用途開発が急務となっている。家具用材としての利用可能性について、大分県産業科学技術センターと大分県立芸術文化短期大学との産官学連携プロジェクトによって検討している。
家具用材としてスギ材の利用を拡大するための課題は何か。
スギ材の反り、割れを防ぐために、人工乾燥によって含水率を適正な水準で管理することがポイントになる。大事なのは、家具用材として使える品質のKD材を安定的に確保することだ。
広葉樹業界では、家具用材の人工乾燥技術をほぼ確立している。楽器用材の人工乾燥技術も高度で、納入部材の収縮は±0.1㎜といった厳格さだ。広葉樹でこれだけの乾燥技術が確立されているのに、針葉樹のスギ材で乾燥に苦闘しているのは不思議な感じがする。
実は、弊社では家具に用いるスギ材の人工乾燥技術を確立している。その象徴的な存在がスギ材のバイオリンだ。
スギ材のバイオリン?(後編につづく)
(2021年11月30日取材)
(トップ画像=スギ材を活かしたリビングセット)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。