(中編)唯一無二のユニークカンパニーを目指す紅中【遠藤日雄のルポ&対論】

全国 大阪府 木材流通

前編からつづく)住宅建材などを取り扱う専門商社の(株)紅中(大阪府大阪市、中村晃輔・代表取締役社長)は、東京にある麻布オフィスの3階から5階を「NEWVOT3」(ニューボット)と呼ぶコワーキングスペースとして開放し、社外関係者との共創を進めながら新たなイノベーションを起こそうとしている。商流を仲介する流通業者という立ち位置にとらわれない拠点を立ち上げた中村社長の狙いは何か? 遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長が真意に迫る。

森と仕事と暮らしの架け橋になり新しい価値を提案していく

遠藤理事長

「NEWVOT3」の開設は、非常に刺激的な取り組みだ。その根底にある紅中の経営理念について聞きたい。「森と仕事と暮らしをつなぐユニークカンパニーへ」を謳っているが、いつ頃から打ち出しているのか。

中村社長

昨年(2024年)からこの経営理念のもとで各種の事業を展開している。経営理念の中の言葉で、「森と仕事」は弊社の仕事の源泉そのものであり、森を守り続けることも弊社の重要な仕事の1つとして位置づけている。
「仕事と暮らし」には、より良い空間と時間を創造して豊かな暮らしをつくるという想いを込めている。
また、「暮らしと森」は、暮らしの一部に「森が関わること」でより豊かな時間を形成できるという意味がある。
森、仕事、暮らしのそれぞれに終わりのない営みがあり、弊社はその営みを繋ぎ、循環の中心となって新しい価値を提案し続けていきたいと考えている。

遠藤

「NEWVOT」も「循環」をテーマにしていたが、それは経営理念を体現していたわけか。「ユニークカンパニー」という文言を入れている理由も教えて欲しい。

中村

いわゆる商社や流通業者とはちょっと違う会社になっていきたいという意味で「ユニークカンパニー」という言葉を使っている。経営理念の検討段階で、私は「変な会社にしよう」と提案したが、社員から「それはちょっとかっこ悪い」と言われて「ユニークカンパニー」になった(笑)。ユニークで異質な存在であることが弊社の特徴になればいい。

サプライチェーンのあらゆる過程に関わって、接点を増やす

遠藤

そのような経営理念を実際のビジネスにどう落とし込んでいるのかを聞きたい。具体的な達成目標や取り組み課題などは、どのように設定しているのか。

中村

今の世の中には、トップ画像に示したような6つの潜在ニーズが存在している。弊社として、それぞれのニーズに何らかのアプローチをし、シナジーやイノベーションを起こすことをテーマにしている。
当面の重点課題としているのは、サプライチェーンのあらゆる過程に関わって、森と仕事と暮らしを繋ぐ架け橋になることだ。
これまで弊社は、主に住宅建材を取り扱う事業を行ってきており、メーカーから販売会社に製品を納める繋がりなどは強固になっている。だが、川上の原木を取り扱っている人達とか、川下のエンドユーザーとの繋がりは薄かった。もっとサプライチェーン全体で様々な関係者との接点を増やしていきたい。

遠藤

サプライチェーン全体に関与するとなると、いわゆる専門商社の範疇を超えることになる。ウイングを広げてビジネス面でのメリットは見込めるのか。

中村

循環型のサプライチェーンを構築できれば、廃棄物の削減など様々なメリットが出てくるだろう。

使い捨てでない製品づくり、使い続けられるサービスを目指す

遠藤

紅中として、循環型サプライチェーンの具体像をどのように描いているのか。

中村

弊社には、関連会社として、合板などの加工・販売を行っている(株)アラセ(大阪府堺市)、住宅向け建築材料の製造等を手がける(株)サンビルド(大阪府大阪市)、キッチンメーカーの(株)リネアタラーラ(東京都世田谷区)があり、グループ全体の年間取扱量は、のようになっている。
製品に加工する過程で、年間に約240tの製材廃材が出ており、これはペレット化してリサイクル業者などに販売している。今後は、バイオマス発電所などにも販路を広げていきたい。
また、年間に約360tの木粉も得られるので、リサイクル成型して、ペット製品の猫砂用に供給していくことを計画している。

遠藤

サプライチェーン全体を通じて、資源をムダにしないということか。

中村

使い捨てではない製品づくりをしたいし、サービスも使い続けられるようなものにしていきたい。これからはモノやサービスを単に販売するだけではなく、売り先とコラボレーションできるようにしていく必要がある。
そのためには、弊社の行動方針や目標を明確に打ち出すことが重要であり、商工中金((株)商工組合中央金庫)と商工中金経済研究所の支援を得て、PIF(ポジティブインパクトファイナンス、Positive Impact Finance)の取り組みを進めている。

PIFを活用しサステナブル経営へ、森と触れ合う機会を創出

遠藤

PIFとは、どういうものか?

中村

事業活動が環境・社会・経済に与えるポジティブな影響(インパクト)を明確にし、その増大を目的として資金提供を行う融資方法のことだ。
弊社は、昨年6月にPIF適用案件として、商工中金に5億円の融資枠を開設していただいた。そのベースとして、10項目のインパクトと2029年までの目標に関するKPI(重要業績評価指標、Key Performance Indicator)を設定しており(参照)、毎年アセスメントを行って進捗状況をチェックしながらサステナブル経営を実現することにしている。

遠藤

10項目のインパクトと目標は多岐にわたっているが、紅中の事業活動にどのような影響が出るとみているか。

中村

新たな収益源になるとともに、企業価値の向上に直結すると考えている。例えば、インパクト1のエコ住宅アドバイザー資格取得者の養成は、医療や福祉関係におけるリノベーション需要の獲得につながる。インパクト5の森林による二酸化炭素(CO2)吸収量の認定事業も新たな収益分野だ。インパクト9に掲げたアップサイクル商材の開発もこれから大きな成長が期待できる。廃棄物や不用品に新たなアイデアやデザインなどを加えて、価値の高い製品へと生まれ変わらせることは世界的なトレンドになっている。

遠藤

インパクト3にある「MOWA」とは何か?

中村

2年前に兵庫県神戸市の六甲山町につくったオフィスで、「MOWA(モワ)」という名称は、「MORI(森)」と「WAKUWAKU(わくわく)」を組み合わせた造語だ。森と触れ合う機会をつくることを目的に、老朽化していた既存のオフィスをリニューアルしてオープンした。

「MOWA」の外観(画像提供:紅中)
遠藤

この「MOWA」も社外に開放されているのか。

中村

そうだ。「NEWVOT3」と同様のコンセプトで運営しており、コワーキングスペースなどを設けて、木育活動やシンポジウム用に貸し出すようにしている。
「MOWA」を開設した背景には、弊社が森や山のことをよく知らないという反省がある。(後編につづく)

(2025年9月5日取材)

(トップ画像=6つの潜在ニーズ)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

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