住宅地と隣接する近郊林で災害リスクが高まり危険木の除去へ
堂徳山国有林は、神戸市中央区に位置し、近畿中国森林管理局兵庫森林管理署が管轄している。近接する住宅地にあるコインパーキングに車を入れて、5分ほど歩けば同国有林の林内に入れる。治山事業の現場で、これほどアクセスのいいところは珍しい。


だが、林内の傾斜はきつく、進入路も狭いので、大型機械を使うには難がある。
同国有林では、樹木が成長して倒木や根返りなどの災害リスクが高まったため、2003年度に危険木の伐採を行った。
それから20年以上が経過し、またも樹木の大径化が進んできたため、同署では、再び危険木の除去を行うことを計画している。

しかし、伐採によって根系が衰退し、表層崩壊防止機能などが弱まって万が一にも斜面が崩れたら、隣接する住宅地等に直接的な被害が及んでしまう。
そこで、同署では、伐採をしても斜面を守れる木杭根系工法を用いることにした。
防腐処理した木杭を打ち込み崩壊防止、経済性・施工性に優れる
治山事業では、伐採後の斜面安定化対策として、木柵工などの構造物を設置することが多い。しかし、同国有林の現場は伐根が残存していて作業がしづらく、木柵工等で用いる横木の取り付けも難しい。また、木柵工は、時間の経過とともに腐朽するリスクを孕む。

作業条件がよければ、地山補強土工などで対応することもできるが、この現場では、経済性・施工性の面で負担が大きい。
こうした点を勘案して、同署が採用した木杭根系工法は、防腐・防蟻メーカーの越井木材工業(株)(大阪府大阪市)と関連会社が開発したもので、直径12cmのスギ丸棒加工材を使い、長さ1.1mの縦木と、同1mの横木(羽根木)をボルトで結んで施工する。丸棒加工材には防腐処理を施し、20年以上の耐久性を確保している。

縦木を地中に打ち込むと、土壌と摩擦し合って抜けにくくなり、内側から補強するかたちで斜面を長期的に安定させる。横木は、斜面に対して垂直方向に設置し、表層崩壊と表土流出を防ぐ役割を果たす。
木杭根系工法は耐久性のある簡易な構造物であり、狭隘な現場でも人力で施工できることが大きな特長となっている。これまでの実証実験で、地すべり抵抗力の向上などの効果が確認されており、今年度(2025年度)の「治山研究会発表会」では優秀賞を受賞している。
人力で木柵工を上回る生産性、施工後6か月で土壌保全を確認
同国有林での危険木伐採事業は5年程度をかけて実施することにしており、今年2月に1回目の施工を行った。
施工現場は勾配30〜40度の広葉樹林で、面積は0.02ha、打ち込んだ木杭は146本、3人工で2.5日を要した。
現場での作業は、エンジン内蔵型の打ち込み機を使って行い、1日当たりの処理本数は約60本と、木柵工の約50本を上回った。また、費用(m当たり)も6,160円で、木柵工の6,560円と同レベルで収まった。

同署によると、施工後2か月で横木上部に土砂や枯葉が堆積して表土流出が抑制され、6か月では下層植生が回復していた。また、同じく施工後6か月の時点で斜面の安定性を検証した結果、抽出したすべての箇所で基準をクリアし、木杭が土壌に密着していることも確認された。

都市近郊林の適切な維持・管理は、国有林だけでなく民有林でも技術力を要する難しい課題になっている。とくに、人家裏の森林については、枝が敷地にはみ出すように繁茂してきて苦情のもとになることも少なくない。
木杭根系工法は、根株や岩などの障害物を避けて柔軟に設置でき、局所的な土砂移動や表層崩壊などを抑えることができる。周辺環境へ配慮しながら狭いスペースを活用できる小回りの利く工法であり、同署では、「非常に有効な工法」と評価している。今後も長期的なスパンで経過観察などを継続し、持続可能な土壌保全技術として全国に普及していくことも視野に入れている。
(2025年10月16日取材)
(トップ画像=堂徳山国有林(兵庫県神戸市中央区)からは神戸の街(まち)が間近に一望できる)
『林政ニュース』編集部
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