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人工林の主体はヒノキ、伊万里木材市場と連携し協定取引
諫早市にある長崎県森連の本部事務所で遠藤理事長を出迎えたのは、佐藤義高・専務理事と小川透・業務部次長。遠藤理事長は早速、2人に問いかけた。
産地を形成する要件の1つは、スギ、ヒノキ人工林がどのくらいあり、どれだけ使えるかだ。長崎県はどうなのか。
当県はともすれば消費地とみられがちだが、人工林はそれなりの蓄積がある。大きな特徴は、県内人工林の総蓄積量3,149万m3のうちヒノキが54%を占めていることだ。次いで、スギが44%となっている。

九州全体でもヒノキの蓄積量増大とともに素材生産量が増えている。「令和2年木材統計」によると、熊本県におけるヒノキの素材生産量は23万3,000m3で愛媛県、岡山県を抜いて全国トップに立っており、大分県も17万9,000m3で全国5位につけている。九州は、「スギ並材」と併行して「ヒノキ並材」の時代に入っており、ヒノキをどう利用するかが大きな課題になっている。
当県は熊本県や大分県ほどのヒノキ素材生産量はないが、抱えている課題は同じであり、新たな販路開拓に取り組んでいる最中だ。
その具体的な内容を教えて欲しい。
従来、当県では伐り捨て間伐が中心だったが、利用間伐への転換を進めている。そうなると間伐材の出荷先が必要になるが、当県内には原木市場が1つしかない。
そこで隣の佐賀県伊万里市にある(株)伊万里木材市場の原木市場へ出荷している。単に市売に出すだけでなく、2013年からは協定取引を導入して、売買価格が一定期間固定されるようにした。これにより、相場に左右されずに収益が確保できるようになり、組合経営の安定化にもつながっている。
韓国のニーズに合わせヒノキルーバーを年間800m3輸出
ほかにも販路開拓の取り組みはあるのか。
2012年から韓国へヒノキを輸出している。まずトライアル輸出から始め、段階的に出荷量を増やしてきている。

韓国へはヒノキの丸太(原木)を輸出しているのか。
いや、ルーバーに加工して、コンテナで長崎港から輸出している。
ルーバーとは?
細長い羽板(はいた)のことで、「ガラリ戸」とか「よろい戸」とも呼ばれている。韓国では、このルーバーを壁に貼って使っている。
トライアル輸出のときは20フィートコンテナ1個だけだったが、現地で好評を博し、もっと持ってきてくれと言われており、今では年間約800m3を輸出するようになっている。
ルーバーの長さはどのくらいなのか。
2・4mだが、伸びしろを入れて2・5mで輸出している。
随分特殊な寸法だ。どのように丸太を調達しているのか。
当県森連傘下の単位森林組合が林産事業で採材してくれている。
ルーバーに加工する事業は、どこでやっているのか。
雲仙、長崎南部、五島の3つの単位森林組合が分担して行っている。

離島の対馬から山陰地方の合板メーカーに丸太を船で直送
韓国にはヒノキ文化があるので、今後も一定の需要が見込めるだろう。ただ、韓国市場一本槍ではリスクも少なくない。
そのとおりだ。韓国市場は中国に比べるとマーケットの規模が小さい。実際、2015年には日本からのヒノキ輸出が多すぎて、韓国市場でだぶついたという苦い経験をしている。
そこで離島の対馬から島根県浜田港にヒノキの合板用丸太を船で送るルートをつくった。
対馬には何度か行ったことがある。天気のいい日には朝鮮半島を臨めるし、本土の山陰地方も近い。
当県森連と単位森林組合で合板工場などを視察し、どのような丸太をどうやって運べば効率がいいかを検討してきた。
離島の経済振興を考える場合、往々にして内向きの発想になりがちだ。しかし、離島だからこそ外向きのネットワークを広げやすいという利点もある。それを活かしていきたい。
これまでの話を聞いていると、長崎県森連と傘下の単位森林組合はチームワークが優れていると感じる。
「チーム」と「グループ」は違うと認識している。両方とも集団で活動することに違いはないが、グループは個人の能力を最大限発揮させようとするのに対し、チームは所属しているメンバーが役割分担をしながら協力しあって集団の成果を最大化させることが目的になる。この考え方をベースにして、サプライチェーンを形成しつつあるのが現在の姿だ。
木材共販所はないが中間土場を各所に設け流通拠点を整備
長崎県森連が進めている産地形成の要諦は、内需と外需の両方を見据え、森林組合系統が結束して販路を広げていることだろう。
当県森連及び単位森林組合は木材共販所をもっていない。丸太の集荷・販売拠点をいかに整備するかが課題だったが、我々の木材集積拠点と位置づけている伊万里湾近郊で中間土場の整備を進めている。2021年8月に伊万里市内に県森連として初めて中間土場を設け、今では単位森林組合が持つ中間土場と連携し取扱量も拡大してきている。

中間土場を設置・運営して新たに得た知見はあるか。
改めてわかったのは、丸太や製材品の販売力を左右するのは距離ではなく、ロットということだ。まとまったロットを安定的に供給できれば距離のハンディを乗り越えて勝負できる。
司馬遼太郎の小説『竜馬がゆく』の中に、坂本竜馬が勝海舟に向かって「勝先生、京の先は大坂にすぎず、江戸の先は小田原にすぎませんが、長崎のむこうは上海ですな」というセリフがある。これをもじれば、「長崎の北は韓国、西は上海、東は福岡・北九州都市圏」となる。絶妙の立地条件にあるわけだ。
県産材の販売活動を実践しながら、そのことを実感している。海外輸出も韓国、中国だけにとどまらず、ベトナムなど広く東南アジアを視野に入れてマーケティングを開始しようと準備している。
竜馬が生きていたら「長崎の『先』には大きな夢があるぜよ」と驚嘆したかもしれない。
(2022年1月15日取材)
(トップ画像=韓国に輸出するヒノキのルーバー(長崎港))
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。