目次
譲与税配分額は全国4位、活用割合が10%から65%に急上昇
田辺市の人口は、約7万人。市面積の88%にあたる9万755haが森林で、このうち5万6,291haが人工林となっている。
同市は今年度(2021年度)、森林環境譲与税を2億2,463万円受け取った。譲与税は、横浜市など人口の多い都市部自治体への配分額が多い。
その中で、森林自治体といえる同市は、トップ4にランクされており、注目度も高くなっている。

譲与税の配分が始まった2019年度、同市では税を活用した事業費の割合が10%しかなく、多くは積立金に回っていた(図参照)。しかし今年度は、意向調査や森林整備などの各種事業を積極的に展開しており、事業費率は一気に65%まで上昇している。
同市は、2005年に山村地域の旧龍神村、旧中辺路町、旧大塔村、旧本宮町と都市地域の旧田辺市が合併して生まれた。合併と同時に、農林水産部内に「森林局」を設置、山村・林業政策を地域振興のベースにするというメッセージを内外に発した。なお、同市は約2,000haの市有林を有しており、大規模森林所有者としての“顔”も持っている。
14名の森林局が中核、土地家屋調査士などと連携し意向調査
田辺市の森林局には、現在14名の職員が在籍している。これだけの専門部署を持っている市町村は全国的にも珍しい。それでも、広大な民有林に関わる許認可業務などの事務負担は大きい。加えて、森林経営管理制度の運営という新たな業務もこなさなければならない。そこで同市では、外部の業者へ積極的に外注する分業体制を敷いている。
森林の整備や管理業務は、従来どおり森林組合や林業事業体に任せる。その一方で、森林所有者の意向調査などは、土地制度や不動産業務に詳しい土地家屋調査士や測量会社などに委託する。“餅は餅屋”の精神で様々なプレーヤーが得意分野を活かす仕組みを導入した。意向調査業務は市内外の土地関連19社が登録・受注しており、市の職員と一緒に森林所有者を回って集積計画づくりも手がけている。
森林局の担当者は、「関係する担い手を増やすことが新たな制度に対応するポイントになる。意向調査も(林業の)業界内で回すのではなく、幅を広げて人材を育成し、裾野を広げていかないと」と話し、「分業によって意向調査がスムーズに進めば、森林組合などの仕事も増える。WIN-WINになる」と強調した。
林地台帳の精度を高め、市販ソフトを使って情報力を高める
田辺市は、森林経営管理制度を効率的に運用するための情報整備や事務作業の見直しにも注力している。その推進力となっているのは、林地台帳と市販ソフトだ。
2020年6月の森林法改正により、林地台帳の精度向上のためならば、固定資産税の課税情報が利用できるようになった。これを活かしながら、林地台帳に森林経営計画や施業履歴等の有無、意向調査の結果などを反映させ、精度の向上に努めている。
情報量が増えてきたため、市販の表計算ソフトを使って、効率的に整理や管理ができるシステムも構築。地番関連情報等を読み込むだけで、意向調査に利用する森林所有者リストや個人別台帳が自動的に作成できるようになった。
併せて、各種の業務マニュアルを作成・配布しており、民間事業者の中にも森林経営管理制度に精通した人材がみられるようになってきた。

一連の業務効率化によって、意向調査を行った年度内に集積計画まで作成し、翌年度から森林整備事業に着手することも可能になった。同市では、これまでに約350haの集積計画を策定している。
中長期の「森づくり構想」を策定、来年度から本格的展開へ
田辺市は、中長期計画となる「森づくり構想」を3月に策定した。同構想では、「森林と人との共生が紡ぐ、ていねいな暮らしの息づく山村風景」を目指し、市内の森林を、①熊野古道の緩衝地帯、②尾根沿いを広葉樹林化する「天空三分」、③スギ・ヒノキ等の人工林、④集落周辺の「暮らしの空間」にゾーニングして、紀州材原木の高付加価値販売や、紀州備長炭の原料となるウバメガシの育成などに取り組む方針を打ち出した。

市長の真砂充敏氏は、旧中辺路町長時代から森林環境税の必要性を周囲に訴え続けてきた。譲与税の有効活用にも強い思い入れを持っている。「(譲与税の)配分基準が都市部に偏っているという意見もあるが、私はこのままでいいと思う。森林の大切さが都市部で理解され、木が活かされて初めて循環するからだ」と話す真砂市長は、「森づくり構想に基づく施策を来年度から本格的に展開し、森林との関係人口を増やしていく」と力を込めた。
(2022年3月1日取材)
(トップ画像=意向調査業務に関するワークフロー)
『林政ニュース』編集部
1994年の創刊から31年目に突入! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしてまいります。