同業他社と「型枠用合板のトレーサビリティ普及勉強会」設置
三菱地所グループに属する三菱地所レジデンスは、マンションを中心とした分譲住宅の企画・開発・供給などを幅広く行い、売上高などで同グループの中核を担っている。同社の代名詞と言えるのが全国的に展開している分譲マンションブランド「ザ・パークハウス」だ。東京都新宿区では、老朽化した木造住宅が密集していた一帯を再開発して日本で一番階数が高いマンション「ザ・パークハウス 西新宿タワー60」(60階建て、高さ200m)を建築するなど先駆的な事業を行っている。
同社の本社は、ビジネス街の中心部に位置する高層ビル・大手町フィナンシャルシティグランキューブの9階にある。遠藤理事長が同社の応接室兼会議室に足を踏み入れると、木材調達を担当している石川博明・経営企画部サステナビリティ推進グループ兼技術環境部専任部長と、稲川陽平・技術環境部建築環境グループ兼土木・造園・戸建グループリーダーが待っていた。
大手デベロッパーの三菱地所レジデンスが型枠用合板の合法性・持続可能性を確認する仕組みをつくったと聞いた。まず、その概要を教えて欲しい。
当社は、マンションなどの建築にあたって大量のコンクリート型枠用合板を使用している。そのほとんどをマレーシアとインドネシアから輸入しており、違法伐採や人権問題といった調達リスクが高いという認識だった。従来まで、商社以降の流通経路である加工・施工段階において、合法性・持続可能性を確保するための仕組みがなかったことから、2020年に型枠用合板のトレーサビリティスキームを構築し、昨年(2024年)4月に、この仕組みを強化するために同業のデベロッパーやゼネコン、商社、型枠工務店などと連携し、認証機関にも加わっていただいて「型枠用合板のトレーサビリティ普及促進勉強会」を設置し、いわゆるデューデリジェンス(DD)を実施する体制の整備を進めてきている。そういった経緯の中で、当社が関わっている11件の新築プロジェクトで使用する型枠用合板の合法性・持続可能性を確認するデューデリジェンスの適合性について、第三者機関による認証を7月28日付けで取得した。

JAFEEの「木材合法性確認DD審査認証」を初めて取得
デューデリジェンスは「適正評価手続き」などと和訳されているが、率直に言ってわかりにくい概念であり、林業・木材産業界でも十分に理解が進んでいるとは言い難い。そうした中で、三菱地所レジデンスがデューデリジェンスに関する第三者認証を取得したのはなぜなのか。
三菱地所グループは2020年6月に人権尊重を主な目的として、「型枠コンクリートパネルに持続可能性に配慮した調達コードにある木材(認証材並びに国産材)と同等の木材を使用」することを表明した。そこで、多くの型枠合板を使用する弊社が率先するかたちで認証取得に取り組んだ。
取得したのは、公益社団法人森林・自然環境技術教育研究センター(東京都千代田区、酒井秀夫会長、略称「JAFEE」)が今年度(2025年度)から実施している「木材合法性確認DD(デューデリジェンス)審査認証事業」に基づく認証書だ。
その認証事業は、どのような仕組みになっているのか。
弊社からの申請を受けて、まずJAFEEの指定審査機関である(株)EPA(埼玉県さいたま市、柳澤衛社長)が予備審査を行い、JAFEEが設けた判定委員会(藤原敬委員長)が予備審査の適合性を審査した上で認証書を発行するプロセスとなっている。
木材のトレーサビリティを認証する制度には、国際的な認証機関のFSCやPEFCなどが行っているものがある。それと今回取得したJAFEEの認証はどこが違うのか。
全体的な関係性を示すとトップ画像のようになる。FSCやPEFCなどは、FM(森林管理)認証とCoC(加工・流通)認証の2本立てでデューデリジェンスを含めた木材のトレーサビリティを確認する仕組みをつくっている。
ただ、この仕組みでは、マンション建設のサプライチェーンを構成している型枠工務店などがCoC認証を取得していないとチェックの目が行き届かなくなる。この部分をJAFEEの認証事業でカバーするようにした。JAFEEの認証を取得したのは弊社が第1号であり、まだ試行的な段階とも言えるが、型枠用合板のトレーサビリティを関係業界全体で確保していくために、新たな1歩を踏み出せたと考えている。
「勉強会」のメンバーが52社に増加、半分以上は型枠工務店
JAFEEの認証を取得する背景として「勉強会」の存在が大きいことがわかってきた。そもそも、なぜ他社も巻き込んで「勉強会」を立ち上げたのか。
マンションの建築で使用する木材のうち型枠用合板は約45%を占めている。三菱地所グループは、「持続可能性に配慮した木材の調達基準」を策定しており、マンションの新築にあたっては同基準に合致した型枠用合板を採用するようにしているが、1社単独で取り組んでいるだけでは限界があり、業界全体で木材のデューデリジェンスやトレーサビリティを確保する必要がある。
そこで他の大手デベロッパーなどにも呼びかけて「勉強会」を立ち上げた。

「勉強会」には何社くらいが参加しているのか。
昨年4月の発足時は約30社でスタートし、現在は52社にまで増えてきている。その半分以上は型枠工務店だ。
型枠工務店は、コンクリートを流し込むための「型枠(かたわく)」を加工し、組み立て、解体も行っている。型枠の精度が悪いと建築物の品質や強度が下がるので、熟練した技術と経験が求められる。重要な役割を担っている専門工事業者だが、個人経営や小規模な工務店も少なくない。日々の仕事に追われている型枠工務店が「勉強会」に出席するのは大変ではないのか。
確かに「勉強会」に足を運んでいただくことは簡単ではないが、当方から積極的にアプローチすることで参加していただけるようになってきた。(後編につづく)
(2025年9月5日取材)
(トップ画像=三菱地所レジデンスによる認証取得の全容)
『林政ニュース』編集部
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