かねてから検討してきたことが“環境”を追い風に表舞台へ
最近は、林業界以外から国産材利用に積極的な姿勢をみせる動きが目立つ。先日は財界のシンクタンクであるJAPIC(日本プロジェクト産業協議会)が気勢を上げたかたちだったが、今度はアカデミズムの世界から新たなアクションがあった。それも、土木学会が加わっている。
3月12日に、土木学会(小野武彦会長)と日本森林学会(井出雄二会長)及び日本木材学会(服部順昭会長)が共同で「土木分野における木材利用の拡大に向けて」と題する提言を発表した。内容は、土木分野における木材利用量を現状の年間100万m3から2020年(平成32年)までに400万m3にまで増大するというもの。4倍増とは大きな目標だが、図のように、需要拡大の余地は大きいとしている。3学会の連名で、林野庁や国土交通省に提言の説明も行った。

国産材業界にとって、強力な援軍ができたことになるが、今回の提言には前段がある。実は土木学会は、平成5年に木構造小委員会、平成10年に木橋技術小委員会を設置するなど、かねてから木材利用に関する検討を行っていた。そして、平成19年には、森林学会及び木材学会とともに「土木における木材の利用拡大に関する横断的研究会」(今村祐嗣委員長)を発足させて調査研究活動を本格化。それが今回の提言に結びついたというわけだ。
土木というと、鉄やコンクリートのイメージが強い。木材とは競合関係にある分野とも言えるが、学者の世界、すなわち土木学会内には、“木材派”の研究者がもともといたという。その流れが、「環境の世紀」になってじわじわと存在感を増し、ここにきて表舞台に出てきたということだ。土木業界としても、環境にやさしい木材を扱うことは、企業イメージの向上につながるから悪い話ではない。
失われていた需要を取り戻せ、有望株は「木杭」
3学会の提言では、「環境への負荷が低く持続的な資源であり、地球の温暖化防止にも寄与する木材を土木分野で復活させるべき」と述べている。ここで刮目すべきは、「復活」という言葉が使われている点だ。もともと土木分野では、木材が“普通”に用いられていた。だが、高度経済成長の過程で、鉄やコンクリートに代替されていき、いつの間にか居場所を失ってしまった。それを元に戻していこうという主張である。
具体的に「逆代替」していけるポテンシャルは図のように見込まれているが、これを実現するための課題は何か。提言では、5つのテーマを掲げている。
1つは、技術開発の推進だ。木橋や治山ダム、ガードレールなど、すでに木材利用が進められているジャンルでは、既存技術の改良などを促進し、取り組みをテンポアップしていく必要がある。
加えて、有望視されているのが、液状化や軟弱地盤対策として木杭を活用することだ。歴史のある建築物では、地盤強化に木杭が用いられている事例が少なくない。また、最近は地震対策として地盤への関心がかつてなく高まっている。こうした状況を受けて、林野庁の補助事業により千葉県の浦安市などで、木杭を打ち込んで地盤を強化する実証試験が行われている。これまでのところ、木杭は軽量のわりに強度があり、炭素貯蔵機能も大きいことが実証データで裏づけられている。コスト競争力を高め、早期に実用化することが期待されている。
2つめのデーマは、「木材関連の設計法などの作成と規準類への掲載」。土木分野で、木材使用を制限してる規準などは、さすがに見あたらない。しかし、設計者がいざ木材を使おうとしても、鋼材やコンクリートの標準値だけが示されており、事実上扱いにくいのが実態だ。例えば、「木ぐい」に関する記述は、昭和52年に道路橋示方書から、また、昭和63年に建築基礎構造設計指針から削除されたまま。そこで、3学会の提言では、設計法や試験法などを国際標準と調整しながら作成し、順次、規準類への掲載を目指していくとしている。
一にも二にも“教育”、平成28年には第2次提言の発表を予定
このほかの取り組みテーマとしては、地球環境や景観などに対する木材の価値の定量化と標準化や、土木分野の学校教育における木材関連教育の実施、そして、分野横断的な連携の強化をあげている。
このうち、学校教育関連では、大学で使用される建築材料の教科書から木材関連の記述がなくなっていることを問題視。一般へのアンケートなどでも、「木材利用は環境破壊につながる」という回答がいまだに多いという。広く世の中全般を見渡せば、木材への理解はまだまだ不十分だ。そうした環境で育ってきた土木技術者にとって、木材を馴染みのある材料としてもらうためには、一にも二にも“教育”が重要になる。
3月12日に行われた記者会見で、土木学会の家田仁副会長は、これからの土木事業について、「今あるもののクオリティを上げつつ維持管理をすること」が求められており、この点で木材は適していると評価した。
3学会は、平成28年には第2次提言を発表するとともに、実施状況をレビューする予定。各学会の会長は、学問分野を超えた取り組みは画期的と口を揃えた。これから日本建築学会やJAPICとも連携していくという。引き続き、動向をウォッチしていこう。
(2013年3月12日取材)
(トップ画像=提言について記者発表をする各学会の代表)
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。