2021年7月1日付け林野庁人事異動解説 初登場の事務官部長・課長など【緑風対談】

全国 人の動き 転職・異動

2021年7月1日付け林野庁人事異動解説 初登場の事務官部長・課長など【緑風対談】

本郷氏が公約の出口戦略を貫徹、天羽長官は初の林野入り

7月1日付けで農林水産省の幹部人事異動が発令され、林野庁長官が代わった*1。丸2年間、長官をつとめてきた本郷浩二氏(昭和57年入省・京大林卒)が退任し、後任の新長官に政策統括官の天羽(あもう)隆氏(昭和61年・東大法)が就任した。早速、恒例の人物評に入ろう。

本郷氏は2年前の長官就任時に、林業の持続性を確保するためには、出口対策(需要拡大)が最大の課題と強調した*2。この路線は些(いささ)かもぶれることなく、6月15日に閣議決定された新しい森林・林業基本計画に反映された*3。そして今、材価が高騰し、儲かる林業への期待が高まってきた。だが、本郷氏は冷静に見つめている。林業経営が採算に乗るのならば補助金はいらなくなる。金余りを背景にファンドが森林買収に乗り出すかもしれない。かつて議論された国有林の民営化や独法化案*4*5が再燃する可能性もある。ここで役人生活にピリオドを打ったが、「想定してこなかった状況にも対応できるようにしていかなければ」と、林業問題が頭から離れることはなさそうだ。

新長官に就いた天羽氏は、初の林野庁勤務になる。内示後に政策統括官室を訪ねると、「まだ何もわかっていないし、ゼロから勉強したい」と実直な一言。如才ない能吏として知られ、人当たりは柔らかいが、とにかく粘り強いとの評も聞こえてくる。「あもう」とは珍しい姓だが、出身地の徳島県北島町では多いそうだ。国内有数の進学校・灘高(神戸市)から東大に進んだ俊才。趣味の銭湯巡りはコロナ禍で見合わせており、仕事に集中する日々を送っている。

林政部長に9・11を現場で経験した森氏、中部局長が交代

7・1異動では、本庁の1部長・7課長と中部森林管理局長に動きがあった*6。一昨年7月から林政部長をつとめてきた前島明成(あきなり)氏(平成2年・東大法)が大臣官房危機管理・政策立案総括審議官に異動。代わって林政部長に就いたのは、前島氏と同期組の森重樹氏(大臣官房秘書課長、平成2年・東大法)。「名前は森ですが、林野庁は初めてです」と快活に話す。大学時代はワンダーフォーゲル部で山野を歩き、マンション園芸も趣味。世界に衝撃を与えた2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件時にはニューヨーク総領事館に勤務しており、邦人の安否確認など緊急対応にあたった。本籍は三重県いなべ市だが、育ちは神奈川県藤沢市。県立湘南高校卒。

森重樹氏

中部森林管理局長の吉村洋氏(昭和63年・京都府大砂防)が本庁に戻って国有林野部付となり、入れ替わりに国有林野部付の上練三氏(昭和63年・鹿児島大林)が中部局長として着任した。同期組で局長のバトンを取り交わすかたちとなったのは、安定感と継続性を重視したからか。上氏は、平成9年8月から14年3月まで荘川営林署長(当時)→名古屋分局企画調整分室長(同)をつとめた。それ以来の中部局勤務であり、今度は局長として陣頭指揮を執る。

林政課長の清水氏はバソン奏者、天野・小島両氏も初林野

林政部は全課長が交代した。しかも、事務官の新課長3名は、いずれも初の林野入りだ。筆頭格の林政課長は、永井春信氏(平成3年・東大法)が国土交通省大臣官房審議官に転じ、後任に食料産業局バイオマス循環資源課長の清水浩太郎氏(平成6年・東大法)が就任した。兵庫県出身の清水氏は、天羽新長官と同じ灘高を出た。身長184㎝。スラリとした体躯で、言動は穏やか。水産庁勤務が長く、趣味の1つはスキューバダイビング。ユニークなのは、市民オーケストラに所属し、フランス式ファゴットのバソンという楽器を奏でること。バソンは紫檀製だという。なかなか興味深い人物だ。

清水浩太郎氏


前出・森氏の後任として大臣官房秘書課長には企画課長の河南(かわみなみ)健氏(平成5年・東大法)が就いた。宮内庁上皇侍従をつとめた河南氏には、普段から「やんごとなき」感が漂っていた。

代わって企画課長に起用されたのは、水産庁漁政部加工流通課長の天野正治氏(平成7年・東大経)。スキーや釣りが好きというアクティブ派だ。天野氏は、自民党の森山裕国対委員長が農相時代に秘書官をつとめた経歴を持つ。兵庫県農政部にも出向しており、森林や林野行政にはかねてから関心があったという。横浜市出身で、県立横浜翠嵐高校卒。49歳。

天野正治氏

木材利用課長の長野麻子氏(平成6年・東大経)が新事業・食品産業部新事業・食品産業政策課長に異動した。林野シンパの事務官の中でも長野氏はとりわけ“林野愛”が強く、内示前は「動きたくない」と公言していたほど。それだけに発令が決まると落胆ぶりが周囲にも伝わってきたが心機一転、「食品工場やレストランもウッドチェンジします」と宣言して新ポストに就いた。

後任として木材利用課長に就任したのは、大臣官房参事官(国際)新興地域グループ長の小島裕章氏(平成8年・東大経)。小島氏は、入省振り出し時に林政課に配属された。当時の林政課長は豪放磊落な小畑勝裕氏。また、母校である栃木県立足利高校の先輩には豪腕かつ重量級の福田隆政・日本森林技術協会理事長がいる。どうやら上司・先輩に恵まれるタイプのようだ。アメリカ大使館に書記官と参事官で都合6年勤め、今もアメリカの政治状況をウオッチし続けているという。47歳。

小島裕章氏

空席埋め人材を回す、技術開発調査官にボクサー・宇山氏

紙幅の余裕がなくなってきた。あとは一気呵成にいこう。経営課長の上杉和貴氏(平成10年・京大法)が在任11か月で内閣府大臣官房内閣参事官に転じた。後任は、林政課で係員や総括をつとめた猪上(いのうえ)誠介氏(平成7年・京大経)。京都の名門私学・洛南高卒。

空席になっていた経営企画課長に木材産業課長の眞城英一氏(平成3年・名大林)が起用された。5年3か月ぶりの国有林野部は、要の課長として采配を振るう立場となった。

後任は、木材産業課木材製品技術室長の齋藤健一氏(平成5年・農工大林産)。川下分野のエキスパートであり、満を持しての昇格といえる。日課は、早朝約4㎞のジョギング。

齋藤氏に代わって木材製品技術室長に起用されたのは、経営企画課課長補佐・総括の土居隆行氏(平成8年・東大林)。川下行政は実質的にデビュー戦となるが、幅を広げる好機だ。

これも空席になっていた森林研究・整備機構森林整備センター審議役に業務課長の宇野聡夫氏(平成3年・北大林)が就任した。本庁課長と同クラスへのスライドだが、職務は特命性が強まる。

宇野氏の後任は、整備課長の長崎屋圭太氏(平成4年・京大林)。テレワークを率先垂範し、仕事を離れてもオンライン呑み会を主催するなど、周囲を引っ張る。溢れる企画力に期待したい。

後任は、業務課技術開発調査官の石田良行氏(平成5年・宇都宮大林)。入庁時に当時の基盤整備課に配属されて以来の部署に課長として戻って来た。キャリアを重ね成長した姿がみられそうだ。

石田氏から襷を受けたのは、業務課企画官・水源地域整備担当の宇山雄一氏(平成6年・北大(修)林)。かつてはもっぱら労組対応だったこのポストは、様々な難しい案件が舞い込む要職である。宇山氏は、北大でボクシング部(ウェルター&ライトウェルター級)に所属しており、タフさが感じられる。“約束の地”に着任し、飛躍のときを迎えた。

宇山雄一氏

*1林野庁長官に天羽隆氏、7月1日幹部異動 省No.2審議官に新井ゆたか氏、女性で初

*3骨太方針に「森林吸収源対策」の強化明記 「基本計画」や「森林整備・治山対策」も

*6林野庁人事異動(2021(令和3)年7月1日付け)【データファイル】

『林政ニュース』編集部

1994年の創刊から早30年! 皆様の手となり足となり、最新の耳寄り情報をお届けしていきます。

この記事は有料記事(6145文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。