木の玉プールを月2万円弱でサブスク、定期的にメンテ行う
一場木工所は、12月14日に木の玉プールセット「こころんプール」のサブスクサービスを開始する。サブスクとは、モノやサービスを購入せずに、定額を支払って利用する方式。モノ離れが進む消費者のニーズをとらえた現代的なビジネスとして普及しているが、林業・木材産業の分野で導入するのは珍しい。
同社がリリースする「こころんプール」の基本モデルは、直径94cmの五角形の枠と木の玉400個がセットになっており、月額1万9,800円(税込み、送料別)で利用できる。木の玉は無塗装で、様々な樹種や大きさ、形がある。同セットは返却後にメンテンスされ、更新時に新品同様なセットに交換される仕組み。常に清潔で木の香りの豊かな「木のおもちゃ」と親しめる。
通常、同セットの内容ならば販売価格は約35万円になる。サブスクにして月額2万円弱という価格設定は格安といえるが、一場未帆社長は、「まず使って、体験してもらうことが大事なので、ギリギリの価格で提供している」と話す。すでに、保育園や商業施設などから利用したいとの問い合わせが来ているという。
どん底で事業承継、「一輪車操業」を乗り超えて転換果たす
先駆的なビジネスを展開する一場木工所は、1967年に一場社長の父・光則氏が創業した。以降、ベイツガの窓枠材や国産フローリング材の加工を主軸にしていたが、一場社長が企画・提案する木製おもちゃメーカーへの転換を果たした。

一場社長は、大学で食品工学を専攻し、1993年に(株)紀文食品に衛生管理担当として入社した。その後、家業の同社に戻り、約10年は経理事務業務に従事した。事務員時代は、本業の傍らイラストレーターとしても活躍し、三次市内のバスなどをデザインしたほか、様々なイベントを企画してきた。その過程で木製品の良さを再認識し、2012年に会社を本格的に継ぐことにした。
ところが当時、県内では大型木材加工施設が新設され、同社の受注量は減り、約9,000万円あった年間売上高は約2,600万円にまで落ち込んでいた。関係者からは、「自転車操業ならぬ、一輪車操業のようだ」と言われ、経営はまさに火の車だった。
一場社長は、このままでは同社の未来はないと見極め、今のビジネススタイルに舵を切ろうとした。しかし、当時2名いた男性社員からは理解が得られず、社外では女性だからという理由で軽んじられることが多かった。
その一方で、展示会などでは木製玩具や木育に関する注目度が高まっていた。ところが、県内にはこの分野に詳しい人材が少なく、一場社長に講演などのオファーが集中し始めた。
一場社長は、自身に足らないものを身につけるために、林産関係の技術士資格を取得したほか、木材コーディネーターなど多数の資格も取っていった。
この真摯な姿勢と地道な努力が実り、同社の経営状態は徐々に改善。遂に今年は、「約4,000万円あった繰越損失がほぼゼロになり、ようやくスタートラインに立てた」(一場社長)というところにまできた。
木のパンなど多彩な商品を展開、女性目線で使いやすさ追求
一場木工所が提供している木育関連の商品・サービスは、「こころんプール」にとどまらない。「パン de ドミノ」や「ひなたぼっこマルシェ」といった食べ物型の「木のおもちゃ」や、木材に付着するウイルスや汚れを取り除く除菌剤「ウッドリフレッシャー(Wood Refresher)なども取り揃える。主に使用するのはヒノキ材で、環境負荷低減のため移動距離が近い地域産材と島根県産材などを利用している。


同社の商品は、ウッドデザイン賞を6年間連続で受賞するなどデザイン性が高い。最大の特徴は、女性目線のものづくりだ。同社には、2名の女性社員がいる。木製玩具は、クレームを避けるため、ハードウッドでウレタン塗装するのが一般的だ。そのため、保育園や母親などからは重くて危なく安心して遊ばせにくいと言われる。
これに対し、同社の商品は軽く、手触り感がよく、女性1人でも簡単に出し入れできる。「展示会などで一度でも手にとってもらえれば販売につながる」と一場社長は自信をみせる。
同社は今期、木育関係で1,500万円程度の売上高を見込んでいる。オリジナルの「木のおもちゃ」に加え、企業のノベルティ製作なども受託しており、パートナー企業は調達・加工あわせて20社以上に達する。今後は、木育・木質空間のコーディネート事業も強化していく方針だ。
難局を乗り越えた一場社長は、「『木のおもちゃ』のサブスクと販売、そしてコーディネート事業の3本柱で木の良さや木がある暮らしの豊かさを提案していきたい」と意欲をみせている。
(2021年11月20日取材)
(トップ画像=「こころんプール」には子供も保護者も安心して遊べる仕掛けが散りばめられている)
『林政ニュース』編集部
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