(前編)唯一無二のユニークカンパニーを目指す紅中【遠藤日雄のルポ&対論】

木材流通

長年にわたって林業・木材産業の“現場”を巡り歩いてきた遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長にとって、もう足を運んでいないところなどないだろう──読者はそう思っているかもしれないが、そんなことはない。まだ訪ねていないところは多く、“現場”も時代とともに変わっていく。したがって、遠藤理事長は、常に業界の最新動向をウォッチし続けている。そんな中で、業界通のある知人から、「紅中の麻布オフィスが面白くなっている。見に行ったらどうか」と勧める連絡が入った。(株)紅中(大阪府大阪市、中村晃輔・代表取締役社長)といえば、創業から70年を超える社歴を有する商社であり、主に住宅建材などを取り扱っている。その老舗企業で何が起きているのか。遠藤理事長は、同社が都心の拠点としている麻布オフィスに向かうことにした。

「NEWVOT3」(ニューボット)で新たな“共創”を支える

紅中の麻布オフィスは、東京メトロ及び都営地下鉄の麻布十番駅から徒歩4分ほどの好立地にある。7階建ての建物で、外観は周辺の事務所ビルと変わらない。だが、遠藤理事長が受付のある3階に足を踏み入れると、そこには“木の空間”が広がっていた。

「NEWWVOT」の受付、バーカウンターにもなる

床や壁面などの内装を木質化しているだけでなく、打ち合わせスペースには木のベンチが置かれ、木製のバーカウンターもある。さらに、フロアの奥にはウッドチップを敷き詰め、室内でも焚き火が楽しめるようになっている。

まるで屋外のキャンプ場にいるような異空間の中で、1人の男性が遠藤理事長を待っていた。同社の社長をつとめる中村晃輔氏だ。

遠藤理事長

ここが紅中の麻布オフィスか。都心にいることを忘れさせるような空間だ。

中村社長

初めて来られる方は少々面食らうかもしれないが、ここが当社の麻布オフィスだ。東京支店の役割を担ってきた麻布venichuビルをリニューアルし、3階から5階を「NEWVOT3」(ニューボット)と名づけたコワーキングスペースにして、今年(2025年)2月にオープンした。

遠藤

コワーキングスペースということは、様々な職業や立場の人々が共有して使える仕事場になっているのか。名称の「NEWVOT3」とは、どういう意味なのか。

中村

「NEW」には新しい考えや発想が得られるという意味を込めており、「VOT」は「PIVOT(回転軸)」に由来する造語で「自分の軸を持ちながら行動を起こす」ことを含意している。また、「3」は、縦・横への多方面の繋がりを示している。
ここ「NEWVOT3」でヒトやモノが出会い、繋がることで新しい考えや発想が得られ、自分なりの目標を見つけて方向転換や挑戦を繰り返しながらワクワクする未来をつくれる実験室になればと考えている。

中村晃輔・紅中社長

3つのフロアで想いを繋げて発想を生み出し、試作品づくりも可能

遠藤

3階から5階が「NEWVOT3」ということだが、どういう構造になっているのか。

中村

フロアごとのコンセプトを明確にした上で、全体として「循環」をイメージしながら“共創”を支えられるようにしている。
まず3階は「Intriduction(イントロダクション)」をテーマにし、仲間を見つけ・想いを繋げやすくなるように、森林の中にいるような空間デザインにしている。焚き火を囲んで軽い飲食もできるので、リラックスしながらコミュニケーションを図れる。このフロアでの自由な会話を通じて新たな気づきを得て、1歩を踏み出すきっかけを掴んでいただければと考えている。

遠藤

4階と5階はどうなっているのか。

中村

4階は「Collaboration(コラボレーション)」をテーマにしたフロアで、1人で考え、集中することをサポートするようにしている。個人で使えるブースを用意し、気分転換用のブランコなども設置している。ここでアイディアを温めた上で、複数人のアイディアと掛け合わせることで新たな発想が生み出されることを期待している。
5階のテーマは「Expression(エクスプレッション)」で、新たなアイディアやイメージを具現化するために試作品などをつくれるようにしている。木材をはじめとした各種の材料や塗料などのほか木工機械なども揃えており、アイディアをカタチにしながら新たな製品開発を支援する木工所のようになっている。

4階の「Collaboration」フロアにはブランコもある
遠藤

「NEWVOT3」をオープンしてからまだ間もないが、これまでの実績をどう評価しているのか。

中村

弊社の環境関連製品の1つに、端材や落ち葉などをレジン(樹脂)と組み合わせてインテリアなどに用いる「レジンパネル」がある。「レジンパネル」は、組み合わせる材料によって様々なバリエーションをつくれるが、竹林整備に悩んでいる森林所有者からの相談を受けて、伐出した竹材を「レジンパネル」に活用して喜ばれる事例などが出てきている。
また、弊社の本業とは若干離れるが、「NEWVOT3」での出会いが発展して子供向けの絵本をつくるプロジェクトなども動き出している。

端材などを有効活用したレジンパネルを天板に用いたテーブル

20歳代のプロジェクトチームに丸投げしてスピード感を高める

遠藤

「NEWVOT3」は、これまでの林業・木材産業の枠組みから飛び出すような取り組みだが、どうやって企画し、具体化してきたのか。

中村

弊社の20歳代の社員達がプロジェクトチームを組んで、アイディア出しからリニューアルオープンンまですべてを担ってきた。

遠藤

そんなに若いメンバーに委ねたのか。すべてを任せて不安はなかったのか。

中村

「NEWVOT3」のような新たな取り組みを立ち上げるようなときは、仕掛けづくりが一番重要だと考えて、20歳代の社員達にほとんど丸投げするようにして、好きなようにやってもらった。
20歳代の若い人達の発想というのは、なかなかベテランからは出てこない。ベテランは、どうしても経験則で考え、行動してしまう傾向がある。とくに現代は、技術開発やマーケットの変化などがすごいスピードで進んでいる。以前は3年くらいかけて起きていたことが、今は半年くらいになっている。このスピード感の中でフレッシュなアイディアを出すのは、20歳代でないと難しくなっている。

遠藤

20歳代の若い人達には、経験不足という弱みがあるのではないか。

中村

確かに、若い人達の発想は豊かだが、その発想をカタチやモノにするときに、フリーズしてしまうこともある。そのときがベテランの出番であって、ポイントをアドバイスしたり、サポートできればスムーズに進んでいくようになる。

遠藤

それにしても、中村社長は、老舗企業のトップとして非常に大胆な舵取りをしている。その根底にあるものを聞いていきたい。

中村

弊社は流通業を営む専門商社だが、経営理念として、「森と仕事と暮らしをつなぐユニークカンパニーへ」を掲げている。これを実現するために、既成概念にとらわれず新たなチャレンジを続けるようにしている。(中編につづく)

(2025年9月5日取材)

(トップ画像=焚き火を眺めながら意見を交わす中村社長(左)と遠藤理事長)

『林政ニュース』編集部

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