1.1. 本事業の背景と目的
1.1.1. 「物流の2024年問題」とは何か
「物流の2024年問題」とは2024年4月から「働き方改革関連法」に基づきトラックドライバーの労働時間に上限規制が厳格に適用されることで生じる様々な課題である。国内貨物のモード別輸送量はtベースで自動車が9割超えと自動車・トラックに大きく依存している。そして、トラックドライバーの年間労働時間は全産業と比較すると約2割長く、年間所得額は約1割低い。
トラックドライバーの長時間労働の主な要因は、長時間の運転、荷待ち時間、荷役作業等が挙げられる。ここにトラックドライバーの労働時間が制限されることで、国土交通省の推計によれば何も対策を講じない場合、2024年度には輸送能力が約14%(4億t相当)不足し、2030年度には輸送能力が約34%(9億t相当)不足する可能性があると言われている[i]。林業・木材産業においてもその余波を受けるため対策が必要となっている。
1.1.2. 国産材時代における原木輸送の重要性
林業・木材産業においても物流の重要性は極めて高いにもかかわらず、これまで十分な注目を集めてこなかった。その背景には構造的な要因がある。行政施策において素材生産や製品製造については補助金等を通じた生産規模の拡大や生産性の向上が図られてきた一方で、物流部分は政策的支援の対象から見落とされてきた。これは物流部分が生産規模の拡大や生産性の向上という観点から明確な指標が立てにくい実態がある。
原木・製品の物流は、行政上の位置づけにおいても「宙ぶらりんな状態」に置かれてきた。物流を所管するのは林野庁ではなく国土交通省ではあるものの、マーケットの小ささもあって物流業界全体の中では周縁的な位置づけになっている。どちらの所管官庁からも光が当たりにくいのが林業・木材産業における物流と言える。他方、昨今のウッドショックや円安などを経て、国産材回帰の流れは強まっており、今後もこの傾向は続くとみられており、国産材が主体となって原木・木材製品の供給責任を果たしていくことが求められている。
国産材の物流を概観すると、原木は山林で伐出され林道を通り、原木市場もしくは製材工場や合板工場などの製品製造工場に輸送され、木材製品は工場からプレカット工場を経由して住宅・建築物に使われる。この間の輸送手段としては主にトラックが使用されている。
加えて、サプライチェーンを俯瞰すると、運輸・輸送業界は素材生産と製材・加工をつなぐ不可欠な役割を担っているが、前述した行政上の位置づけと同様に運送事業者は「宙ぶらりん」な存在として認識される傾向にあり、合法木材やバイオマス証明等の枠組みの中でも納品伝票の記載が規定されていないケースもあるなど、その存在が明確に規定されていないケースがみられる。
運送事業者は、林道の弱点や物流上の課題など現場の知見を有していることが多く、こうした知見を国産材の供給力拡大に活かすためにも、運輸・輸送業界を林業・木材産業の一員として明確に位置づける必要がある。
なお、原木におけるコストの内訳をみると運材コスト(山土場から原木市場及び製品製造工場まで)及び流通コスト(市場経費及び原木市場から製品製造工場まで)が約30%占めており、山元への還元を高めて持続可能な林業を実現する上で運材・流通に係るコストダウンが必要である[ii]。
本事業は、このような状況において「物流の2024年問題」を皮切りに、これまで見過ごされてきた原木・製品の物流に焦点を当て、効率化とコンプライアンス(法令遵守)の両立という喫緊の課題に対する解決策を提示するものである。特に原木の物流は製品と比べ特殊性が高く、本事業では原木に焦点を当て、原木・製品輸送の実態や課題解決に向けた取り組みを抽出する。さらに、運輸・輸送業界を林業・木材産業の正当な構成員として位置づけ、サプライチェーン全体の連携強化と効率化を促進する方策についても検討する。
1.1.3. 報告書の構成と読み方
本報告書では、原木と製品の2系統の物流を軸に整理する。まず、「物流の2024年問題」の影響及び解決策について、政府の検討会、東京商工リサーチによるデータなどから整理する。次に全国の事業者を対象にした原木・製品物流アンケートの結果から原木・製品の輸送実態を明らかにする。その後、アンケート結果を踏まえた優良事例のヒアリング結果を紹介し、最後に課題を整理して今後の展望などをまとめる。
1.1.4. 語句・表現について
- 車・船・航空機などで人や物資を運ぶことを指す言葉は、「輸送」、「運送」、「配送」などあるが、本報告書では基本的には「輸送」を使用する。ただ、トラックによる輸送を行う事業者は「運送事業者」とする[iii]。
- 「物流の2024年問題」は「物流2024年問題」とも表記されていることもあるが、本報告書では「物流の2024年問題」とする。
実施したアンケートでは「原木市場」という用語を使用したが、本報告書では定義が明確化している「原木市売市場」として改める。
[i] https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001620626.pdf (2025/03/17閲覧)国土交通省『物流の2024年問題について』
[ii]https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/R2hakusyo_h/all/tokusyu1_2_2.html (2025/03/17閲覧)林野庁『令和2年度森林・林業白書』
[iii]https://kotobank.jp/word/%E8%BC%B8%E9%80%81-651914 (2025/03/17閲覧)コトバンク『輸送』
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(株)日本林業調査会
1954年創業。「林政ニュース」の編集・運営・発行をはじめ、森と木と人にかかわる専門書籍の発刊を行っている。