四面楚歌にもひるまずスギ集成材の可能性を追求し活路を開く
東京駅で東北新幹線に乗り込んだ遠藤理事長は、約3時間後に水沢江刺駅で下車し、車を1時間余走らせて住田町に入った。
同町の人口は7月時点で約4,400人。町の総面積3万3,480haの9割が森林で覆われており、町の木はスギ。かねてから「森林・林業日本一のまちづくり」を掲げて地域振興に取り組んでおり、けせんプレカットは地場産材の中核加工拠点として重要な役割を担っている。
遠藤理事長がけせんプレカットの事務所に足を踏み入れると、泉田代表が「本当によく来てくれた」と迎え入れた。2人のつながりは長く、深い。遠藤理事長が約40年前に森林総合研究所東北支所の経営研究室長としてフィールドワークを重ねていたときに、最も足繁く通っていたのがけせんプレカットだった。なぜなら当時は専務理事だった泉田氏がスギ集成材の生産を強力に推し進めていたからだ。遠藤理事長も一研究員としてスギ集成材の将来性に着目していた。だが、その頃はムク(無垢)材全盛の時代であり、2人がスギ集成材の可能性をいくら唱えても馬耳東風、ときには四面楚歌になるような状況だった。
あの頃、泉田さんの存在がなかったら、私の心は折れていたかもしれない。それくらいスギ集成材に対する風当たりは厳しかった。
それは私も同じだ。スギの板材(ラミナ)を糊(接着剤)で貼るのは邪道だとまで言われたこともある。遠藤さんの研究面からの支えがなかったら到底事業化できなかった。
ただ、木造住宅のプレカット率が90%を超えている今になってみると、スギ集成材はなくてはならない製品であることは間違いない。泉田さん達の先駆的な取り組みがなかったら国産材業界は一体どうなっていたのか、ゾッとするところがある。
遠藤さんが背中を押してくれたこととともに、ある大手ハウスメーカーの方から「もうプレカットの時代だから狂わない製品でないと使えなくなりますよ」と言われたことが強く印象に残っている。プレカットの加工ラインにマッチしない国産材製品は通用しなくなる、スギ集成材の生産を何としてでも軌道に乗せなければいけないという危機感を高め、ここまでやってきた。


経営破綻した三陸木材とさんりくランバーを丸ごと引き受け全面的に刷新
現在、けせんプレカットは、素材(原木)の受け入れから製材、プレカット加工(在来工法、金具工法)・パネル加工・トラス加工・羽柄材加工・造作材加工、建方工事までを幅広く手がけており、木質ペレットやWPC用原料の製造なども行っている。

住田町の本社工場のほかに陸前高田市に高田工場があり、2つの加工拠点の稼働状況は事務所にある液晶モニターによってリアルタイムでチェックされている。これだけをみても並みの国産材工場ではないことがわかるが、ここまで順風満帆に事業規模を拡大してきたわけではない。とくに大きな試練となったのは、町内で集成材工場を運営していた三陸木材高次加工協同組合(以下「三陸木材」と略)と協同組合さんりくランバー(以下「さんりくランバー」と略)が2020年7月に経営破綻し、けせんプレカットがその“受け皿”となったことだ*1。
三陸木材とさんりくランバーは、けせんプレカットとともに国産集成材の魁(さきがけ)と言える存在だった。さんりくランバーが生産するラミナを三陸木材が製品化するという流れで事業量を伸ばしたが、資金繰りが悪化して経営が行き詰った。
泉田さんが三陸木材とさんりくランバーを支援し続けてきたことは知っていたが、まさか従業員も含めて丸ごと引き受けるとは思いもよらなかった。普通、倒産した会社には手を出さないものだ。
あのときも回りからいろいろ言われたが、働いている人達の生活を守るためにも工場を止めるわけにはいかなかった。ただ、引き受けてみると、経営面で修正すべきところが少なくないことがわかった。それを1つ1つ手直しし、ようやく次のステップに向けた体制が整ってきたところだ。

ユーザーニーズに応える投資は惜しまず年商100億円を目指す
具体的にどのような手直しをしてきたのか。
一口に集成材と言うが、ハウスメーカーなどユーザーが求めている品質を確保した製品を安定的に生産するのは簡単ではない。とくに、原料にスギを使う場合は、含水率のコントロールが難しい。
そこで乾燥機メーカーと何度も打ち合わせた上で、新しいものを導入した。今は、31基の木材乾燥機が稼働している。
また、品質の向上と並行して、加工ラインの合理化と生産性のアップを図ってきた。

加工ラインにも手を入れたのか。
そうだ。製材ラインは全面的に自動化し、プレス機やプレーナーなどもすべて最新型に入れ替えた。
そこまで一新するとなると、相当な設備投資になる。
この3年間で23億円の投資をしてきている。今後も必要な設備投資は惜しまないし、それができるようになってきた。
従業員数や年商はどのくらいになっているのか。
本社工場と高田工場を合わせて約200人が働いている。年商は直近の2年間は60億円くらい。これを将来は100億円にまで増やしたい。
100億円! そうなると今の生産品目だけでは足りないのではないか。けせんプレカットのウェブサイトを見たら、新規事業としてCLT(直交集成板)やセルロースナノファイバー(CNF)も手がけるとなっているが。
10年ほど前から関連会社と計画してきている。さらに新しい事業にも挑みたいと考えている。(中編につづく)
(2025年6月26日取材)
(トップ画像=コンピューター制御の全自動製材ライン)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。