(中編)約1万haの社有林を“活かす”中国木材【遠藤日雄のルポ&対論】

熊本県 苗木生産・育種 造林・育林

前編からつづく)2011年から森林の取得を進めている中国木材(株)(広島県呉市、堀川保彦・代表取締役社長)は、すでに約1万haの社有林を擁する“山持ち”になっている。それも、ただ「山を持っている」のではない。同社の工場で使用する原木(丸太)を安定的に確保し、環境保全を含めた社会的貢献や地域林業の振興などに寄与するために“山を活かす”ことを目指している。そのため、専門的な人材を現場に配置して様々な取り組みを続けている。遠藤日雄・NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長は、その実情を知るために、同社の飯干好徳・山林事業部山林管理課長をはじめとしたキーパーソンとの「対論」を重ねていくことにした。

「菊池市祖母山団地」で特定母樹+施肥のプロジェクトを進める

遠藤理事長

中国木材が森林経営計画を策定して社有林の循環利用に取り組んでいるだけでなく、林業経営の効率化などにつながる実験的なプロジェクトまで手がけているとは知らなかった。どんなことをやっているのか。

飯干課長

熊本県北部にある弊社の社有林「菊池市祖母山団地」で、皆伐後に特定母樹由来の苗木を植栽し、施肥を行って成長を促す試験を実施している。

特定母樹由来の苗木(2024年12月撮影)
遠藤

いつ頃から行っているのか。

飯干

一昨年(2023年)の11月中旬に着手し、現在も継続中だ。現場の管理やデータの収集・分析などは、主に弊社山林管理課の内村瑞穂が担当している。

遠藤

では、内村さんに聞きたい。試験地の概要とこれまでの作業内容などを教えて欲しい。

内村

「菊池市祖母山団地」は、紅葉の名所として知られる菊池渓谷の近くに位置している。ここで23年の秋に約10haを皆伐して再造林をする事業を行った。その際に、4か所の試験地を設定して、特定母樹由来の苗木に施肥を加えた生育状況を調べている。

山林事業部山林管理課の内村瑞穂氏

4か所の試験地を設け、自然条件や施肥の効果を詳細に調査

遠藤

試験地を1か所ではなく4か所も設けているのはなぜか。

内村

傾斜や日当たり、風などの条件の違いが生育状況に与える影響を掴むためだ。試験地の全容は図1のようになっており、特定母樹由来の苗木を23年の秋に2,258本、翌24年の春に1,944本、計4,202本を植え付けた。

図1 試験地の全容
遠藤

約4,200本の苗木を4か所に植え分けたわけか。

内村

試験地の①は南向きの緩やかな斜面、②はほぼ平坦で傾斜もない、③は尾根部の北向き斜面、④は秋植えのところは北向き斜面、春植えのところは南向き斜面と、それぞれ条件が異なっている。
4か所の試験地は、それぞれ12の区画に分け、区画内で施肥の仕方を変えて、生育状況の違いを観察している。
例えば、図2に示したプロットでは、植え穴に施肥をする「地中」と、地面に半円状に肥料を播く「表層」の2つの手法により、緩効性肥料のAとB、若干緩効性性肥料のCとDの4種類を用いて、苗木への影響などを調べている。

図2 植栽プロットの一例
遠藤

かなり詳細な設計に基づいた試験地のようだが、苗木のルーツである特定母樹は、どのように選んでいるのか。特定母樹は、成長がよく材の品質なども優れていると農林水産大臣が指定しているが。

内村

この試験地では、九州で選抜された「日出」、「姶良」、「高岡署」の3つの特定母樹から増殖した苗木を使用している。また、肥料は硫黄でコーティングしたもの(生分解し、環境に優しい)をサンアグロ(株)から提供を受け使用した。
まだ、植栽してから最長でも1年半程度しか経過していないので、結論的なことは言えないが、もう私の背丈と同じくらいの150~160cmの高さまで育ってきたものがある。今後も調査を続けて、当該地域で初期成長に優れた育て方を追求していきたい。

「バーター取引」で輸送コストを削減し、林地残材を有効利用

遠藤

ところで、この試験地を含めた「菊池市祖母山団地」では約10haの皆伐を行ったというが、産出された原木はどうしたのか。建築用材として中国木材の工場に納めたのか。

内村

基本的にはそのようにしているが、価格の低いチップ用材については、輸送コストが重荷になってくる。そこで、新しい取り組みとして「バーター取引」を試みた。

遠藤

「バーター取引」? どういうことか。

内村

弊社の旗艦工場である宮崎県の日向工場では木質バイオマス発電事業も行っており、燃料用チップの安定的な需要がある。しかし、「菊池市祖母山団地」から日向工場まではかなり距離があり、無理して運んでも赤字になってしまうような実態にある。
そこで、「菊池市祖母山団地」から比較的近くにあり、日向工場の近隣にも拠点を持っているチップ業者のA社に社有林産のチップを納め、A社から同量のチップを日向工場に納入してもらうルートをつくった(図3参照)。

図3 「バーター取引」のイメージ
遠藤

なるほど。それが「バーター」という意味か。実際にやってみて、どうだったのか。

内村

お互いに輸送コストを抑えることが確認できた。
約10haの皆伐に伴って約2,000t分のチップ用材が出たが、収支改善が図られて、全量を黒字で販売することができた。これが赤字のままだと、出してもしょうがないということで林地残材になってしまう。「バーター取引」によって林地残材を有効利用できるようになっていけば、山元還元が増え、再造林の促進にもつながっていくだろう。今後は、建築用材でも「バーター取引」のような仕組みを考えてみたい。

物価高や人手不足など業界全体の課題解決へ新たな関係築く

遠藤

建築用材でも「バーター取引」ができるのか。製材会社が原木を取り合っているようなところもあるが。

飯干

確かに、そのような実態もあるが、各社の得意分野を活かしながら、一定の取り決めをして、地元産の原木を有効利用する協定取引をするようなことは考えられるだろう。
物価高や人手不足など業界全体で取り組まなければならない課題は多い。従来からの枠組みやしがらみなどにとらわれずに、新しい関係性をつくっていくことも必要だ。

遠藤

“業界のガリバー”である中国木材の社員からそのような言葉が出てくるとは意外だ。大きな会社になるほど垂直統合型のサプライチェーンをつくろうとする傾向があり、国産材業界でもM&A(企業の合併・買収)がらみの動きが目立ってきている。

飯干

M&Aは有効な経営戦略であり、全く否定するものではないが、個々のケースの中身をよくみて評価すべきだろう。
弊社は、再造林を進める上で欠かせない優良苗木を安定的に確保するためにM&Aを行った。この判断は間違っていないだろうし、これから意味を持ってくると考えている。

遠藤

そうなのか。詳しく教えて欲しい。(次号につづく)

(2025年3月13日取材)

(トップ画像=「菊池市祖母山団地」内の試験地、2024年12月撮影)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

この記事は有料記事(2915文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。