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3,000種以上の植物がある開放的な観光名所、地道な研究活動も行う
牧野植物園では3,000種類以上の植物が植栽されており、何度訪れても見飽きることがない。庭園や温室をはじめレストランなど施設面も充実しており、730円(税込み、高校生以下は無料)のチケットを買って園内に入れば、たっぷり1日は楽しめる。
4月24日(日)からは、生誕160年特別企画展として「牧野富太郎展~博士の横顔~」が6月26日(日)まで行われる。これまであまり紹介されてこなかった牧野の素顔や実像を、私財を投じて収集した約6万点にも上る蔵書や植物図などのコレクションを収蔵する「牧野文庫」の資料などを通じて知ることができる。
開放的な観光スポットとして親しまれている同園は、国内外の様々な植物を集め、地道な研究活動を続けていることでも知られている。現在取り組んでいる重点テーマの1つに、薬用作物(生薬)や薬木の栽培による“国産化”への貢献がある。
漢方薬の原料調達が益々困難に、薬木採取の“道”復活へ協力
薬用作物などを用いた漢方薬の市場規模は、数年前の約1,600億円から約2,000億円にまで拡大した。だが、原料の安定的な確保が益々難しくなっている。最大の供給国である中国では、内需が増加する一方で生産者が減少しており、輸出量の確保が難しい状況にある。
日本の漢方薬メーカーは、原料の9割を中国をはじめとした海外から調達しており、自給率はわずか1割。これを何とか引き上げようと、漢方薬メーカーなどは、国内産地との連携に乗り出しており、農林水産省も2016年に「薬用作物等地域特産作物産地確立支援事業」を立ち上げている。

同園も、シャクヤクやクヌギの樹皮から得られるボクソクの産地づくりなどに協力している。
昨年(2021年)4月に園長に就任した川原信夫氏は、厚生労働省管轄の研究機関出身。漢方薬の原料になる生薬や薬用作物に関連する評価科学に30年以上従事したプロフェッショナルだ。その川原園長は、「国内の薬木採取が難しくなった背景には林業の衰退もある」と指摘する。
かつては、間伐材とともにニガキなども伐出され、林業家の副収入になっていた。だが、「山の手入れをしなくなって、薬木採取の“道”が狭まってしまった」。川原園長は、この“道”を復活させるために、「当園としても関係者らとの連携を強化していきたい。その拠点となるのが新研究棟だ」と強調した。
開かれた新研究棟が来春オープン、垣根を超えた研究交流へ
川原園長が口にした新研究棟は、来年春にオープンする。開園以来、有用植物学の研究拠点となってきた資源植物研究センターを建て替えて、耐震性などを高める。

新研究棟は、「オープンリサーチセンター」をコンセプトにしており、研究成果を産業振興や観光振興に結びつける“社会実装”を目標に据えている。別ジャンルの植物分類学と有用植物学の研究者が協同で研究できるほか、連携大学・企業など外部の研究者も新研究棟を利用できるようにして、組織の垣根を超えた交流の促進を図る。このため同園は昨年(2021年)、熊本大学や名古屋市立大学、小林製薬(株)や富士産業(株)などとの間で連携協定・共同研究契約を立て続けに結んだ。
新研究棟の一部はガラス張りとして、来園者が研究の様子などを見学できるほか、職員と来園した子供の交流スペースも設け、第2の牧野富太郎の育成に寄与できるようなプログラムの実施なども計画されている。
川原園長は、社会実装の具体的な“果実”として、「新たな機能性食品や医薬品などの出口づくりに重点を置きたい」と意欲をみせている。
幅広いニーズに応える「総合型植物園」として存在感高める
牧野植物園の見所は、新研究棟だけではない。2017年に策定した「高知県立牧野植物園磨き上げ整備基本構想」に基づき、ウッドデッキなど休憩ポイントの整備や夜間開園、イベント開催などを着実に行ってきており、コロナ禍であっても植物と触れ合える“癒しの場”を来園者に提供している。
園内の「牧野富太郎記念館」では、牧野自ら採集した植物標本なども展示し、“日本の植物学の父”の生涯や業績を辿ることができる。とくに、4Kの展示館シアターは、高解像度の映像によって同園の四季の様子や植物の仕組みなどが学べる人気コーナーだ。

また、目玉施設の「温室」では、VR映像をインターネットで広く発信して対外的な普及啓発にもつとめている。
川原園長は、同園の“立ち位置”について、「総合型植物園」という表現を使っている。観光にも学びにも、そして産業・社会の発展にも貢献する唯一無二の植物園として、さらに存在感を高めていきそうだ。
(2022年3月30日取材)
(トップ画像=「牧野富太郎展~博士の横顔~」のポスター)
『林政ニュース』編集部
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