「YAMAGUCHI Bamboo Mission(やまぐちバンブーミッション)」に集い、未来を拓く【竹を活かす!】

「YAMAGUCHI Bamboo Mission(やまぐちバンブーミッション)」に集い、未来を拓く【竹を活かす!】

竹林面積が約1万2,000haと全国で4番目に大きい山口県。この地で、竹を“未来へつなぐ資源”として有効活用し、環境調和型の産業創出を目指す取り組みが始まっている。「竹害」を「竹財」に変えようとする新たな挑戦の最前線を追う。

県が立会人となって宇部市、美祢市、エシカルバンブーが協定

8月8日、山口県で「竹害」解消に向けた新たなプラットフォームが立ち上がった。その名は、「YAMAGUCHI Bamboo Mission」(やまぐちバンブーミッション、略称「YBM」)。YBMは、竹の伐採・供給をはじめ加工・製造・販売、研究開発などに取り組む産・官・学の関係者が幅広く結集して竹資源の有効活用を図り、森林環境の保全と産業振興を“協働・共創”で進めることを目的にしている。

この目的達成に向けて作成したシンボルマークは、3本の竹を組み合わせたデザイン。戦国武将の毛利元就が唱えた「三矢の訓え」を踏まえ、行政・地域・民間の“3本の矢”が連携することでどんな困難も乗り越えていけるという意味が込められている。

「YAMAGUCHI Bamboo Mission」のシンボルマーク

8月8日に山口県庁で行われたYBMのキックオフセレモニーでは、県(村岡嗣政知事)が立会人となり、宇部市(篠﨑圭二市長)と美祢市(篠田洋司市長)及びエシカルバンブー(株)(防府市、田澤恵津子社長)の3者が連携協定を締結。村岡知事は、「本県の竹林面積は全国4位。先行モデル地域を支援し、竹の資源としての利用を進めて、県全体に広げたい」と語り、篠﨑市長は、「竹害から竹財にする取り組みを一層推進する」と意欲をみせた。

YBMの会員は多士済々の顔ぶれ、日本を代表する企業も参画

YBMの活動は、県のイノベーション推進課がサポートしており、設立趣旨に賛同する会員を広く募っている。会費は無料で、会員登録すると、竹の供給と需要のマッチングや竹製品の開発に関する支援などが受けられる。

10月6日時点でYBMには30の企業などが登録しており、滑り出しは順調といえる。加えて特筆されるのは、会員の多彩さだ。

例えば、大嶺日の丸燃料(株)(美祢市)は、平窯方式で製造した竹炭を用途に応じて成形加工し、家庭用・業務用・工業用・アウトドア用などとして販売。(株)美東電子(同)は、筍を山口県の名産品にすべく「筍の水煮」などを商品化しており、(有)梶谷工業(宇部市)は、竹を効率的に粉砕する装置を実用化して、バイオマス燃料として安定供給することを計画。亀の甲農園(同)は、微粉化した竹に米ヌカと水分を加え好気発酵させて土壌改良に用いる手法を確立しており、県全体に普及する方針…といった具合だ。

このほかにも、YBMには多士済々の顔ぶれが揃っているが、さらに目を引くのは、ノーベル賞受賞者を輩出した(株)島津製作所(京都府京都市)やスーパーゼネコンの(株)熊谷組(東京都新宿区)など日本を代表する会社も会員に名を連ねていること。なぜ大手企業が竹に目を向けるのか?という疑問が沸くが、関係者の話を総合すると、「求心力になっているのは、エシカルバンブーの田澤社長」という結論に行き着く。

首都の消費者に竹の可能性示す、田澤社長「時代は大きく変わる」

エシカルバンブー(第613号参照)は、竹ミネラルを全国で初めて開発した伊藤緑地建設の事業を継承して2016年に防府市で発足した。同社を率いる田澤社長は、東京生まれの東京育ちで、高校を卒業後、(株)西武百貨店で勤務した後、カナダ留学を経て、大手総合商社や電機メーカー、外資系ヘルスケアメーカーなどで広告宣伝やマーケティング、ブランディングを担当してきた。その多彩な経歴からメディアでもたびたび取り上げられるが、軸足を「竹」に置いている姿勢には一切ブレがない。

同社のウェッブサイトには、設立前からの社歴がまとめられており、急成長を遂げてきていることがわかる。2015年に発売した洗剤「バンブークリア」が看板商品に育っているほか、アウトドアスプレー「バンブーミスト」や竹繊維100%の「バンブータオル」なども人気で、販路は海外にも広がり、年商は約1億円に達している。

地域住民とともに竹林整備や竹材を活かす取り組みも広がっている。2019年に宇部市との間で竹資源の利活用に関する連携協定を締結し、翌20年には同市の旧小野中学校校舎をリニューアルして竹の総合施設「竹LABO」を開設(第621号参照)。今年(2023年)7月からは、美祢市の美祢社会復帰促進センターと連携し社会復帰事業の一環として竹箸づくりをスタートさせた。

多くの来場者でにぎわう「『竹』の使い方をこんなに考えたことはなかった展」

同社は、10月20日から11月5日まで、東京の西武百貨店池袋本店7階で、「『竹』の使い方をこんなに考えたことはなかった展」を開催(ジャパンクリエイティブ「OUR BAMBOO」も併催)。同社のアイテムをはじめ、竹を使った電気自動車や自転車、家具、茶室、灯り、楽器のほか、バウムクーヘンや竹輪、コーヒーなど様々な商品を展示・販売した。「竹」が持つ無限の可能性を首都圏の消費者にダイレクトに伝える従来にないイベントとなり、来場者が途切れることはなかった。

田澤社長は、社名に「エシカル(倫理・道徳)」という言葉を入れたことについて、「勇気と覚悟が必要だった」と振り返る。「自然」や「環境」よりも一歩踏み込んだ社名を掲げた“先進性”に、ようやく世の中が追いついてきたようだ。その中で田澤社長は、「時代は大きく変わっている」とさらに先を読む。YBMを結節点にして、一段とウイングを広げようとしている同社の動きが注目される。

(2023年10月20日取材)

(トップ画像=協定書を手にする(左から)篠田・美祢市長、村岡・山口県知事、篠﨑・宇部市長、田澤・エシカルバンブー社長)

『林政ニュース』編集部

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