(前編)多種多様な原木を活かし切る日田中央木材市場【遠藤日雄のルポ&対論】

大分県 木材流通

政府が6月5日に閣議決定した新しい森林・林業基本計画では、国産材の供給・利用量を現状(2024年)の3,500万m3から2030年には4,000万m3へ約3割アップさせ、国産建築用材の供給・利用量も同様に3割増とする目標を打ち出した*1。人口が減少し住宅マーケットが縮小過程に入っていても国産材の需要拡大は可能という強気の見通しを示し、今後に向けては、木材加工工場等のさらなる規模拡大やJAS製品等の供給力強化とともに、「地場の中小工場等による高付加価値製品の持続的供給の確保」を重点課題に据えた。
建築用材の自給率(国産材シェア)は5割を上回るまでに回復してきており、マーケットにおける国産材の「量」は間違いなく増えた。ただ、インフレ経済下で物価高騰が続く中では、国産材の「質」、すなわち価値(=価格)を引き上げることが急務であり、今一度「地場の中小工場等」が生き残り、発展できる道筋を描き出さなければならない。
そこで遠藤日雄・元鹿児島大学教授は、国内屈指の林業地である大分県の日田市に向かった。訪ねたのは、筑後川源流域に約2万5,000坪に及ぶ広大な土場を持ち、年間約20万m3の原木(丸太)を取り扱う(株)日田中央木材市場(諫本憲司・代表取締役)。同社には九州一円からスギ・ヒノキが集まっており、製材工場の“個性”に合わせて供給する基幹プラットフォームの役割を果たしている。

きめ細かな仕分けや工夫を重ね専門化した製材工場を支える

日田中央木材市場は、諫本憲司社長(71歳)の実父である諫本清人氏が1961(昭和36)年に設立した。創業時から社訓として掲げている「奉仕の精神」、「協調の精神」、「誠実の精神」の3本柱を基本理念にして事業を展開しており、原木の市売りのほかにも山林の買い取り・管理やバーク・薪の販売なども手がけている。

日田市出身の諫本社長は、大分県立日田高等学校から上智大学経済学部に進み、木材会社や調査士事務所で勤務した後、8年前から同社のトップを担っている。諫本社長は、日田地区原木市場協同組合の理事長も兼務しているほか、土地家屋調査士・行政書士の資格を持ち、日田市教育委員会の委員を3期12年にわたってつとめるなど、林業界にとどまらず地域のリーダーとして活躍している。

その諫本社長と向き合った遠藤理事長は、1冊の本を取り出した。タイトルには、『昭和51年度 林業白書』とある。

遠藤理事長

今年(2026年)は昭和100年に当たり、この『昭和51年度 林業白書』は、ちょうど50年前につくられた。この中の「地域林業の発展」の項に、日田のことが次のように書かれている。
「大分県日田についてみると、古くから我が国有数の林業地域として知られてきたが、近年における発展は、製材工場の部門別専門化を進めることによって生産性の向上を図るとともに、受注の分担等の方式を通じて、同一規格品の大量取引にも応じられる体制をつくり上げた」
また、「製材工場の専門化は昭和30年代後半、原木一次市場の発展と歩調を合わせて進んだ」とも記されている。現時点で振り返ってみてどうか。

諫本社長

とてもよく書けている。当時から日田の製材工場は、柱専門、板材専門というように用途ごとに分かれていて、それに合わせて市場側も原木の仕分けをしていった。直径が何cmから何cmまでの原木はこう仕分けると細分化されており、他の地域とはかなり異なっている。

諫本憲司・日田中央木材市場社長
遠藤

製材工場からのニーズに原木市場が合わせていったということか。

諌本

個々の製材工場の得意とする品目や、乾燥機など設備の違いなども織り込んで原木を集め、販売するようにしている。製材工場の最初の工程を原木市場が担っているとも言える。このやり方は、今でも全く変わっていない。

原木の大径化に対応、価格は約1万3,000円/m3に上昇

遠藤

日田林業は江戸時代末期から続く長い歴史を持っている。ただし、林相を見ると、奈良県の吉野林業や三重県の尾鷲林業、京都府の北山林業のような高級材産地とは異なる。間伐主体で一般材を育ててきている。そこから出てくる間伐材を原木市場が細かく仕分けして製材工場へ供給するというビジネススタイルを確立している。

諫本

まさに日田林業の特長は、そこにある。突出した高級材があるわけではなく、山から出てきた原木は様々なものが一緒くたに混ざっている。それを原木市場で裏表を揃え、規格ごとに仕分けして、買いやすいかたちに整えて製材工場に販売するという工夫を積み重ねてきた。

遠藤

そうした工夫は今も行っているのか。従来からの仕分けや販売方法を見直すことも必要になっているのではないか。

諫本

原木については、大径化が進んでいる。人工林が成長してきたことに加え、高性能林業機械の性能が上がり、条件がマッチすれば大径木を伐り出せるようになってきた。

遠藤

大径木は既存の製材工場では扱いきれず、価格も低迷していると言われているが。

諌本

そんなことはない。当社の市では、径40cm~50cmの原木を1本ずつ並べるコーナーがあり、結構賑わっている。専門の製材工場が入札するのはもちろんのこと、ラミナ工場や輸出業者も積極的に参加しており、極端に言うと誰もが大径木を欲しがるようになってきた。
以前は、大径木の価格がm3当たり1万円を割って8,000~9,000円で推移し、一体どうなるのかと心配したが、いまは1万3,000円程度で売れている。

大径木(右下)の取扱量が増えてきている
遠藤

なぜ大径木への引き合いが強くなったのか。

諫本

ウッドショックで利益が出たときに、大径木に対応した製材機を導入した工場が少なからずあった。設備投資などによって“出口”(需要先)が広がれば、原木も動いていくことを実感している。

新たな“出口”であるバイオ発電向けと輸出の割合が増える

遠藤

日田中央木材市場は、小径木の集荷能力も高く、バタ角のような小さな製品の供給を支えているというのが業界の定評だ。現状はどうか。

諫本

確かに、当社は小径木の取扱量が多い方だろう。ただ、バタ角などの需要は減ってきている。その一方で、木質バイオマス発電所が燃料材として使うニーズが高まっており、扱い方が変わってきている。径7cm以下で曲がりのある小径木ならば、山から直接バイオマス発電所に持っていった方がいい。これは全国的にも同じことだろう。

遠藤

原木流通の構図が変わってきているわけか。

諫本

バイオマス発電所向けに加えて、輸出という“出口”も大きくなってきている。当社は、年間に約20万m3の原木を取り扱っているが、そのうち木質バイオマス発電所向けと輸出向けがそれぞれ約1割を占めるようになってきた。

遠藤

バイオマス発電所向けの小径木など行先も価格もはっきりしているものは、原木市場まで運んできても、手間もコストも合わないだろう。

諌本

そうした実態を踏まえて、時代に合った流通システムを構築することが当社のような原木市場の新たな役割になっている。山で育っている木を見て、原木市場に持ってきた方がいい場合もあれば、利用先に直送した方がいい場合もある。人工林の循環利用や持続的な林業経営も視野に入れて事業を行うことがこれからの原木市場には求められている。(後編につづく)

(2026年5月30日取材)

(トップ画像=日田中央木材市場は約2万5,000坪の土場に様々な原木を在庫している、2026年5月31日撮影)

遠藤日雄(えんどう・くさお)

NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。

この記事は有料記事(2773文字)です。
有料会員になると続きをお読みいただけます。
詳しくは下記会員プランについてをご参照ください。