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4年連続2,600億円突破の公共事業に目標額引き上げの声も出る
政府の来年度(2022年度)当初予算(案)が決まった。今年度(2021年度)補正予算と合わせて、林野関係予算の全体像とポイントを解説していこう。
まず林野予算の“4番打者”といえる公共事業(森林整備・治山事業)は、2022年度当初に1,869億円が計上された。
これに今年度補正の767億円がプラスされ、さらに“公共的な非公共事業”である「路網の整備・機能強化対策」(64億円)も加わる。合計額は2,700億円となり、目標額の2,600億円を100億円も上回ることになった。
これでノルマとなっている2,600億円を突破するのは4年連続だ。林野公共事業の強力な押し上げ要因となっている強靱化対策が2年目となり、配分額が減るのではとの懸念もあったが、それも杞憂(きゆう)に終わった。
関係者の間からは、目標額(2,600億円)の引き上げを求める声が出ているほどだ。
非公共事業の新規「新しい林業」はモデル地域を減らして実施へ
公共事業が好調路線をひた走る一方で、非公共事業の来年度当初予算額は、前年度より5%程度減少する。今年度補正で223億円が追加されてはいるが、限られた財源をやりくりする窮屈な台所事情は変わっていない。
既存事業を再編して重点要求していた「森林・林業・木材産業グリーン成長総合対策」には116億円が措置される。要求額(224億円)が大幅に減額されるのは折り込みずみだが、同対策の新規目玉である「『新しい林業』に向けた林業経営育成対策」も15億円の要求額が5億円にカットされた。このため、次世代型経営モデルを実証する地域を当初の全国20か所程度から5~10か所程度に絞り込む方針だ。
同じく従来事業を組み替えて打ち出した「カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策」は、6億4,800万円を要求したが、査定の結果、2億円の予算額で落着した。ともあれ、10年間で1億本の植樹を目指す取り組みがスタートすることになる。
一方、川下対策については、ウッドショック対策などを加味した「木材産業国際競争力・製品供給力強化緊急対策」に補正で495億円が計上されるなど、積極型の予算になっている。改正木材利用促進法で新設された建築物木材利用促進協定の締結者を支援する仕組みや、中小工場を再編するための事業戦略策定費なども盛り込まれている。
比較対象の2021年度当初予算+2020年度補正予算からは361億円のダウン
さて、改めて林野関係予算の全体像をみよう。
2022年度当初予算の概算決定額は2,985億円で、今年度(2021年度)当初予算比では1.6%のマイナスとなった。ただし、2020年度補正予算で追加された1,242億円を加えると4,227億円となり、同39.4%の増となる。
約4割の伸びならば何の不足もないように映るが、実情はそうでもないようだ。
そのとおり。2022年度当初予算+2021年度補正予算の総額を今年度当初予算と比べるのは少々無理がある。比較対象にすべきは、一昨年末に決まった2021年度当初+2020年度補正であり、その総額は4,588億円だった。この金額からは361億円のダウンとなっているのだ。
一昨年末の2021年度当初予算+2020年度補正予算では、国土強靭化5か年加速化対策の第1弾として林野公共事業に799億円が上積みされ、非公共事業にもTPP等対策が212億円追加されるなど“出来すぎ”といえる結果となった。想定以上に増えた予算を「いかに執行していくか」が問われるほどだった。
ただ、この“出来すぎ”予算は例外であり、単純比較するわけにはいかない。基本的に予算が増える時代でないという“現実”は、改めて確認しておきたい。
林野公共は直近5年間で2番目の規模、「ゼロ国債」を初めて導入
では、総額4,227億円の2022年度当初予算+2021年度補正予算について、さらに中身を解きほぐしていこう。
前述したように、主力の林野公共予算は、事前の見通しどおり2,600億円の目標額を4年連続でクリアし、2,700億円を確保した。
ちなみに、直近5年間の林野公共予算の推移をみると、2018年度(当初+前年度補正)が2,120億円(うち当初は1,800億円)、2019年度が2,646億円(同1,827億円)、2020年度が2,624億円(同1,830億円)、2021年度が2,887億円(同1,866億円)となっている。今回確保した2,700億円は、5年間で2番目の規模になる。
そうなると、来年度も2,700億円を「いかに執行していくか」が課題になりそうだ。その点、新規要求していた当初予算への「ゼロ国債」制度導入が認められ、事業量を平準化しやすくなったのはヒットといえる。
また、森林整備事業では、搬出間伐の面積要件を5haから0.1haに緩和し、保育間伐の対象を7齢級から12齢級に引き上げるなどの見直しを行う。治山事業でも、流域治水プロジェクトと連携して新たな事業メニューを創設するなど、予算の使い勝手を高めることにしている。
非公共事業4.8%減の主因は義務的経費、政策的経費は確保
一方、非公共事業の2022年度当初予算額は1,013億円となり、対前年度比で4.8%の減となった。前年度の非公共当初予算は同1.1%減に踏みとどまっていたが、マイナス幅が拡大した。もっとも、担当官に取材すると、減額の最大要因は義務的経費の減少であり、各種施策を推進する政策的経費に関しては所要額を確保しているという。
減額をもたらしている義務的経費の主な予算科目は、①人件費(11億円)と、②国有林野事業の債務償還経費(30億円)だ。①は、国の財政支出抑制の一環として公務員の給与等を削減するもの。②は、林野予算特有の経費なので、少々踏み込んで解説しておこう。
2013年度に国有林野事業特別会計を廃止して一般会計に統合した際、約1.3兆円あった借金(累積債務)は切り離して債務返済特別会計で管理し、国有林材の売却益など林産物収入を同特会に繰り入れて借金を返していくことにした。ただし、直接繰り入れるのではなく、一旦、林野非公共事業の義務的経費に計上してから、同特会に移す仕組みとした。このため、前年度の国有林野事業における林産物収入の多寡が義務的経費の増減につながり、非公共予算の見映えにも影響するかたちになっている。
前年度、すなわち2020年度はコロナ禍で国有林材の出材量が減り、林産物収入が減少したので、義務的経費の計上額も縮小することになった。一転して、2021年度は国有林材を増産しており、林産物収入が増える見通しなので、義務的経費を膨らませることになりそうだ。なかなか難しい構図といえる。
さて、林野非公共事業の政策的経費は、2022年度当初予算+2021年度補正予算で612億円となっており、2021年度当初+2020年度補正の661億円とほぼ同水準となっている。
この財源をベースにして、新規事業である「『新しい林業』に向けた林業経営育成対策」(予算額5億円)や「カーボンニュートラル実現に向けた国民運動展開対策」(同2億円)に着手するほか、「木材産業国際競争力・製品供給力強化緊急対策」(同495億円)などで国産材の供給力アップを目指す方針だ。いずれも実施主体を公募して進める方式なので、実行段階で改めて取り上げよう。
(2021年12月24日取材)
詠み人知らず
どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体あんたら何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。