“世界と戦える林業”を目指し進化を続ける柴田産業【突撃レポート】

岩手県 建設 林業機械 素材生産

「日本の林業は世界と戦えるのか?」──この問いに真正面から向き合い、取り組みを強化している企業がある。岩手県一戸町に拠点を置く(株)柴田産業(柴田君也社長)だ。欧州から最先端の高性能林業機械やノウハウを導入し、素材生産から製材・建設まで幅広く手がけることで存在感を高めている。刻々と進化を遂げる同社の最新状況をお伝えする。

45m3/人・日の驚異的生産性、CTLシステムを活用しDX化も推進

柴田産業の年間素材生産量は約4万5,000m3。従事している社員は10名で、1人1日当たりの最大生産性は45m3と極めて高い。これを支えているのが、CLT(Cut to Length:短幹集材)システムとDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。

CLTシステムは、主に欧州で普及している作業方法で、ハーベスタが林内で伐採木を一定の長さに伐り、フォワーダがその後を追うように走行して効率的に集材する。

急傾斜地で作業をするハイランダー(2019年7月撮影)

同社は、国内でも数台しか導入されていないオーストリア・コンラッド社製のホイール式ハーベスタ「ハイランダー」と、スウェーデン・テリー社製のホイール式フォワーダ「Terri3EW」を使って同システムを実践している。ハイランダーは登坂用シンクロウィンチを装備しており、最低地上高が680mmと高く、急斜面や伐根などに影響されず移動できる。Terri3EWFWも8輪油圧モーターで最低地上高が700mmで車幅が2,050mmとスリムかつ高く走破性が高い。

CTLシステムを中心とした同社全体の1日当たり素材生産量は約80m3すでに全国トップレベルの域に達しているが、柴田君也社長は、「年間素材生産量を5万m3に引き上げる」との目標を掲げている。一桁上の目標値を設定しているのは、「欧州水準の生産性と待遇を実現しなければ、誇りを持って働ける林業にはならない」からだ。

ICT活用で社員の意識を改革、「DXで技術と経験の差を埋める」

柴田産業は、世界水準の高性能林業機械を効率的に使いこなすために、国(林野庁)の「新しい林業」に向けた経営モデル実証事業に参画し、住友林業(株)・岩手大学と連携しながら、ICT(情報通信技術)等を活用した新たな管理システムの実用化を進めている。

新たな管理システムの概要(画像提供:柴田産業)

同管理システムは、他産業と同様の水準でPDCAサイクルを回すことを念頭に開発。リアルタイムで作業班・現場ごとの計画や作業進捗、収支などを把握できるようになった。

運用にあたっては、素材生産・造林現場ともに、UAV(ドローン)を週の終わりに飛ばし、1週間の作業の進捗状況を上空から把握する。

同社では元々ホワイトボードで作業を管理していたが、同管理システムの導入により「社員の意識が変わった」と柴田社長は話す。

例えば、素材生産班であれば、班長レベルが生産目標に対し、順調なのか、人手不足であれば作業上のボトルネックがどこで他の班から協力を得られるか──など業務への解像度が高まり、より責任感を持つようになったという。

造林班も同様にどのエリアまで植えたか、下刈りしたかが明確にわかるようになった。加えて、今後は森林整備の補助金検査にもデータが活用できれば作業が効率化できる。

また、これらのデータは自社の工場や運送チームとも連携しており、必要なサイズの採材依頼や、効率的な輸送にも貢献している。柴田社長は、「DXで技術と経験の差を埋め、組織全体で効率化を図り、売上・利益を伸ばしていく」と狙いを語る。

エンドユーザーに接近して業容拡大、建設に加え地域熱利用なども推進

柴田産業の創業は1971年。“岩手の山を元気にする木材屋”をスローガンに掲げて社歴を重ね、現在は、素材生産、造林、製材、チップ製造、木材加工、建設まで一貫した事業を展開している。従業員数は45名。年間売上高は約7億5,000万円に達する。

素材生産業者としてスタートを切った同社は、エンドユーザーへの接近度を高めながら業容を広げてきた。中でも建設事業では、独自に「ブーメランフレーム」と呼ばれる工法を開発し、カラマツを使って柱のない大空間を短工期・低コストで構築することを可能にしている。

同工法を用いて一戸町に建設した「鳥コ・キッズステーション」は、コミュニティ施設兼ショールームとなっており、スクールバスの待合所、ワークショップスペース、アウトドア用品の販売店など多目的に使用され、地域活性化の拠点にもなっている。

「鳥コ・キッズステーション」(画像提供:柴田産業)

同社は、地域材住宅の建設事業にも進出している。自社で伐採・製材・加工した木材をふんだんに使った戸建て住宅は、外観から内装まで地場産材を現しで用いており、温もりが感じられる住まいになっている。

この他にも同社は、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「エネルギーの森実証事業」に参画するなど、新たな林業の可能性を模索している。

柴田君也・柴田産業社長

柴田社長の口癖は、「日本の林業を世界レベルに引き上げる」こと。そして、「林業の力で、この地域を豊かにし、子ども達に選ばれる業種と町をつくりたい」と言う。“岩手の山を元気にする”という初志を貫徹する姿勢にブレは一切みられない。

(2025年9月15日取材)

(トップ画像=地元産材を内外装にふんだんに使った地域材住宅)

『林政ニュース』編集部

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