「フォレスタイル龍神」第1号住宅が和歌山市内で今春完成
この春、龍神村森林組合(眞砂佳明組合長)が運営する木造住宅サポートサービス「フォレスタイル龍神」を利用した第1号住宅が和歌山市内に竣工する。同サービスは、木造住宅を手がける工務店や建築士と顧客をウェブ上でマッチングさせるもので、岐阜県東白川村が行っている事業をモデルにしている。
「フォレスタイル龍神」には、11の工務店や建築士が登録されており、顧客が望みの間取りなどを専用サイトに入力すると、予算や施工までの段取りなどがすぐにわかるようになっている。
単独の森林組合が家づくり事業までカバーするのは異例といえるが、眞砂組合長(54歳)は、「川下の需要が伸びなければ『龍神林業』は活性化できない。これを起点に(地元材の)高付加価値化に取り組んでいきたい」と意図を話す。
同サービスで使用する木材は、同組合の製材・プレカット工場で加工する「龍神材」を基本としており、第1号住宅では約20m3が使われている。
合同特別市、原木強度表示、デジタル市場など新機軸が相次ぐ
龍神村森林組合は、年間に約1万3,000m3の原木を生産し、木材加工部門では約3,000m3を製材している。このほか、原木市場の運営やプレカット加工、店舗経営なども行っており、年間売上高は約5億円に及ぶ。
眞砂組合長は、全国林業研究グループ連絡協議会の会長などをつとめた眞砂典明氏(故人)を父に持つ。大学を卒業して流通業界に飛び込み、ジャスコ(株)(現イオングループ)で3年間勤務し、1994年に龍神村に戻った。その後約10年間は約170haの所有林を中心とした林業経営に専念し、2005年に同組合に入り、2011年からは組合長として“林業家目線”の経営を行っている。

「『龍神林業』は、九州のように量と早さを追求できないし、追うつもりもない。昔ながらの緻密で目細な良質材を生産し、組合がロットをまとめて販売することで競争力が出る」と語調を強める。
同組合が運営する原木市場の年間取扱量は約3万m3。その約8割は並材、残り約2割は役物として社寺仏閣などにも使われている。地元の林業家のほとんどは中小・零細規模であり、独自に新規需要を切り拓くのは難しい。
そこで眞砂組合長は、「森林組合も時代に合わせて変わらなアカン」と呼びかけながら、田辺市や周辺の森林組合などと連携して、新規路線を打ち出している。
その1つが田辺木材共販所(西牟婁森林組合が運営)と合同で開催している特別市だ。市日を集中的に連続させて、一度で多くの原木を買い付けできるようにした。また、原木強度の「見える化」にも着手しており、取り扱う原木の全量検査を行って、スギはE90、ヒノキはE110以上であれば刻印を打っている。
さらに、デジタル原木市場を立ち上げ、ウェブを介して原木情報を買方に提供。取引が成立したら、伐採地から買方へ原木を直接届ける仕組みを整えた。
「役物などに使う良質材は半世紀から1世紀の間で必ず脚光が当たるときがある。林業は長期産業。目の前のトレンドを追わず、良質材を生産し続けなければ、本当の需要に応えられない」と強調する眞砂組合長は、「そういう経営に取り組む林業家が村内にいる」と語った。
サカキ・コウヤマキ・アセビを組み合わせ“複合林産業”を推進
眞砂組合長が“次代の星”として期待を寄せるのは、“複合林産業”に取り組む林業家・大江英樹氏(41歳)。100ha弱の所有森林からスギ・ヒノキを年間約300m3伐出しており、原木市場では「質がいい」と高い評価を受けている。
原木の販売収益と双璧をなすのがサカキやコウヤマキ、アセビなどの花木(枝もの)販売だ。
サカキは神棚に供える神具になり、「龍神真榊」と名づけた1セット1,400円の高単価商品も生産・販売している。
コウヤマキは、仏事に使用される。生産のピークは、7月下旬から盆前までの2週間。朝から晩まで休みなく働き、約3万束をつくる。

アセビは、フラワーアレンジメントの材料として取引される。アセビは、採取長が50~80cm程度で、光沢があり、洗練された印象を与える葉が特長だ。フラワーアレンジメント業界では、アセビのように長持ちし、使い勝手のよい植物は他になく、底堅い需要がある。
これまで花木生産は主に女性が担っていたが、高齢化が進み担い手が少なくなっている。そこで大江氏は、ha当たり約300mの高密度な作業道を整備し、「花木の採取も軽トラや猫車で行えるようにした」。

山のインフラ整備に一区切りをつけた大江氏は、「準備期間は終わった。これから自然の恵みのペースに合わせながら、良質材や花木などで山の価値を高めていく」と意欲を口にした。
(2022年3月15日取材)
(トップ画像=和歌山市内で建築が進む「フォレスタイル龍神」の第1号住宅)
『林政ニュース』編集部
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