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SPF材の価格高騰が施工現場へ及ぶ、調達には問題なし
大東建託は、年間約4,400棟(約3万3,000戸)の木造賃貸住宅(アパート)を主に2×4工法(一部在来工法)によって供給している(2020年度実績)。
同社は、土地所有者(オーナー)へ賃貸住宅の建築を提案し、入居者の募集やアフターケアまで引き受ける独自のビジネスモデルを確立しており、木造アパートを含めた建築・管理棟数は、長年にわたって業界トップの座を維持している。
遠藤理事長からの呼びかけにリモートで応じたのは、同社技術開発部購買管理課長の植木秀典氏と同部技術開発課長の末廣英章氏、商品開発部技術課長の南部佳央氏、広報部課長の新宮聖徳氏の4名。同社の事業を第一線で支えている面々だ。
昨年(2021年)は、「ウッドショック」と呼ばれる木材製品の不足と高騰に業界全体が振り回された。大東建託の場合はどうなっているのか。
大きく影響を受けているのは価格だ。SPF材の値段も高騰し、昨年の5月には北米で最高値を記録した。そのときに購入したSPF材がちょうど今、現場で使われている。
最もコストの高い部材を使わざるを得ないわけか。
とくに弊社はSPF材の使用量が多い。これまではボリュームのあることがメリットになっていたが、今回に限っては採算面で重荷になってきている。
SPF材の高騰で買い付けができないことはないのか。
それはない。これまで継続的に一定量を購入してきた実績があるので、取引先が安定的に提供してくれている。今回のウッドショックで問題となっているのは、取引関係のないところからの新規注文や、継続的に取り引きしていないところからの注文が来ても対応できないということだ。SPF材に限らず、他の住宅資材でも同じような状況だろう。

2020年度は1万5,000m3の国産スギをスタッドなどに使用
大東建託は国産材の利用に先駆的に取り組んでいる企業として知られている。ウッドショックを経て、改めて国産材への関心が高まっているが、現状はどうか。
弊社では、2009年に熊本県産のスギを2×4材として初めて使用した。以降、2015年頃から本格的に利用量を増やしており、主に九州や東北でスギをスタッドなど縦枠として用いている。2020年度は約1万5,000m3のスギを使用した。
2×4材を生産できるJAS工場が徐々に増えてきているが、さらに使用量を増やしていく見通しはあるか。
可能性は十分にある。2×4材は寸法などの規格が整備されており、樹種ごとの強度も明確なので、適材適所を見極めて使っていくことができる。弊社全体の木材使用量の中で国産材の割合はまだ大きくはないが、できるだけ使っていくという方針は変わっていない。
今後、国産材を原料にした2×4材の加工工場を新設する場合、どのようなことが望まれるか。
弊社としては、一定量を安定供給していただくことを最も重視している。一気に全国展開しようとは考えていないので、1歩1歩できるところから進めていきたい。
スギCLT利用の中層建築物で需要を創出、物流効率化も
ところで大東建託は、千葉県の船橋市に日本初の4階建てCLT賃貸住宅を建設している。従来の2×4工法による賃貸住宅の建築とは異なる市場戦略に映るが、どのような背景があるのか。
CLTについても材料にはスギを使っており、国産材を利用していく方針は2×4材と同じだ。4階建てという中層建築物を鉄骨造やRC(鉄筋コンクリート)造ではなく木造で建築できることを実際に示して、中層の住宅分野や非住宅分野の需要を掴んでいくことを目指している。
中層建築物を木造化するとどのような利点があるのか。
鉄骨造やRC造と比べて建物自体を軽量化できるので、基礎工事や地盤補強などのコストを削減できる。木材の特性である高い断熱性や温かみ、炭素貯蔵効果などもメリットになる。
4階建てCLT賃貸住宅では、現場作業を省力化する工夫もしているようだが。
弊社が独自に開発した内蔵型接合部金物を採用している。ピンを差し込むドリフトピン仕様になっており、一般的なCLT工法で用いられているビス留め仕様と比べて、作業時間を大幅に短縮できる。
また、CLTパネルの外側には工場段階で1時間耐火の被覆材を張り付けた。現場ではパネルを取り付けるだけなので施工を簡略化できる。
CLTパネルの輸送と現場への搬入でも船橋市内の中継ヤードを使って効率化を図っている。
中継ヤードとは、どういうものなのか。
通常の2×4材の物流拠点となっている提携倉庫を利用している。岡山県にある銘建工業(株)の工場からCLTパネルを10t以上の大型車で中継ヤードまで運び、中継ヤードから施工現場までは2~4t車で小回りよくピストン運搬している。この仕組みならば都市部の狭小地でもスムーズに搬入できる。CLTパネルのサイズなども効率よく積載できる規格にしている。
ウッドショック前からの国産材シフトが奏功、山を活かす
改めて聞きたい。2×4材やCLTで国産材の利用を進めている目的は何か。
ご存じのように弊社は木材を多く使う企業だ。一方で、日本の森林は伐期を迎えており、これを有効利用して地球温暖化の防止や脱炭素社会の実現に貢献することが必要になっている。ユーザーである弊社が国産材を使っていかないと、日本の山が駄目になってしまうのではないか。
輸入材のリスクヘッジという側面もあるのではないか。
弊社が国産材を本格的に利用するようになったのは10年以上前だ。中長期的なスパンで国産材を使ってきたことが、ウッドショックに対応する際にもプラスに働いた。これまでの取り組みが間違っていないことを再認識できたし、今後も継続していきたい。
住宅・建築市場は人口減の影響で縮小していくと予測されている。
人口減を前提にするとマーケットがシュリンクしていくことは避けられない。問題は、どのようなペースで進行していくかだ。弊社として着目しているのは世帯数の変化であり、人口減のペースよりは緩やかに進んでいくとみられる。また、老朽化した住宅の建て替えニーズなどにも底堅いものがあり、引き続き一定の需要はあると考えている。
非住宅分野に関しても開拓余地が大きい。すべてを木造化しようとするのではなく、鉄と木材のハイブリッド建築物などを普及していくことも現実的だろう。さらにチャレンジしていきたい。
(2020年4月30日取材)
(トップ画像=大東建託のオリジナルCLT接合部金物)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。