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直近3年間で23億円の設備投資、生産品目が増え倉庫も新設
工場回りを一通り見させてもらって驚いた。製材や集成材の加工機械や木材乾燥機などがすべて新しくなっている。
まだ製品倉庫を建設中だ。これが完成すれば、当面の設備投資は一段落する。
直近の3年間で23億円の設備投資をするとは、並みの国産材工場ができることではない。それでも「当面」の投資なのか!
製品倉庫を新設するとは、それだけ生産品目が増えてきていることの表れだろう。けせんプレカットは、原木(丸太)の製材や集成材の生産だけでなく、2×4材の加工や壁パネル・床パネルの製造・組立なども主要事業に育ててきている。もう総合的な国産材メーカーになったと言っていい。その中で、とくに好調な品目は何か。
最近では2×4材の生産量が増えてきている。大手ハウスメーカーなどからの引き合いが強い。
業界の先陣を切って取り組んだスギ2×4材が大きく伸びる
けせんプレカットは、スギを使った2×4材の生産でも国産材業界の先陣を切ってきた。
私が2007年3月にここを訪れたとき、当時は専務理事だった泉田さんが「4月からスギ2×4材のプレカットを本格的にスタートする」と腕を撫していたことが強く印象に残っている*1。スギ集成材と同じく、スギ2×4材もまだマーケットでの認知度は低いときだった。それでも積極的な投資に踏み切るとは、いかにも泉田さんらしい決断だった。

スギ2×4材のプレカットは、その3年ほど前から始めていた。ただ、半分は手加工で行っていて、人海戦術の側面が強かった。これを合理化するため、最新のプレカット加工機や高速クロスカット機、CAD/CAMシステムなどを導入して、全自動化を図った。
あのときも同じ質問をしたのだが、スギ2×4材を事業の柱に据えることに迷いはなかったのか。勝算はあったのか。
2×4材は種類が少ないので、自動化に向いている。これを踏まえて、徹底的にムダを排除し、品質を高めていけば絶対に通用すると考えた。
2×4材といえば、北米産のSPF材が圧倒的なシェアを誇ってきた。ただ、流通業者や施工現場などからは「撥ね材」が少なくないという不満も出ていた。そこに品質の確かなスギ2×4材を安定供給する体制をつくって、新たな需要を獲得してきた功績は大きい。今では国産の2×4材を北米など海外に輸出する可能性も取り沙汰されるようになった。どうみているか。
可能性は大いにあるだろう。ただその場合も、生産過程におけるムダを徹底的に排除し、ユーザーが求める品質を確保することが大前提になる。よく戦略を練って取り組んでいくべきだ。
外国人材を積極活用、やりがいと責任を与え、生活面も支援
工場を回っていて気になったのだが、外国人の方がかなり働いている。何人くらい在籍しているのか。
今は45人くらいが働いている。主に東南アジアから来ている人たちだ。
ということは、全従業員の2割強にもなる。それだけの外国人材を確保し、安定して働いてもらうのは簡単なことではないだろう。
何よりも責任とやりがいを持って働いてもらえるように心がけている。例えば、2×4材の生産やパネルの製造・組立・建方工事では、1つのユニットをすべて外国人のチームに任せることもある。チーム内で責任者や役割分担を決めて作業を行っており、意思疎通もとれてスムーズな作業ができている。
また、通常業務に加えて、生活面のサポートも欠かさないようにしている。

外国からやって来て腰を落ち着けて働くためには、安心して過ごせる住居が必要だ。
工場に隣接して社宅を用意しているが、ここは外国の方が利用している。この社宅は、大手ハウスメーカーと協力してCLTを使ったモデル的な建築物として建設した。プライベートな空間を十分に確保して、自分なりの時間をゆっくりと過ごせるようにしている。このほか、休日には一緒に買い出しを兼ねてショッピングに行くなど、常にコミュニケーションをとるようにしている。

水素社会の実現も視野に挑戦継続、現状に甘んずることなし
今、話に出たCLTもそうだが、けせんプレカットは常に新しい事業の立ち上げを検討している。住宅部材以外に、エコロジー関連の事業も手がけているようだが。
以前から製材端材などを有効利用した木質ペレットの生産を続けている。また、2018年3月には、(株)豊田自動織機の指導を得て燃料電池フォークリフトを導入し、現在は3台が稼働している。

燃料電池ということは燃料は水素になる。二酸化炭素(CO2)は一切排出しない次世代型のエネルギーだ。それを7年も前に導入していたのか。
導入当時は、東北地方で初の事例であり、林業・木材産業分野でも国内第1号と言われた。
工場内の屋根に設置した太陽光パネルから得られる電気で敷地内の湧き水を電気分解して水素を製造し、その水素を圧縮して貯蔵し、燃料電池フォークリフトに充填するという仕組みをとっている。水から水素を取り出しても残るのは酸素だけで、水素を燃料として使用しても排出されるのは水だけだから究極のエコシステムと言える。水素社会実現の一翼を担っていきたい。

なぜ、そこまで新たなチャレンジを続けられるのか。現状に甘んずるところが全くない。
昔はこの周りの森林は“宝の山”と言われていた。それがいつの間にか見向きもされなくなってしまった。この状況を何としても変えたいという思いが強い。(後編につづく)
(2025年6月26日取材)
(トップ画像=建設中の製品倉庫、6月26日撮影)
遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。