「1本の木を余すことなく利用」し、新校舎「三田北別館」が竣工
慶大の本拠地である三田キャンパスから徒歩5分のところに3月19日、内装材に木材をふんだんに使った新校舎「三田北別館」が竣工した。新年度(2025年度)から学生・教職員らが利用しており、教育・研究の場としてだけでなく、知の情報発信拠点としても存在感を放っている。

三田北別館は、地上6階建ての鉄筋コンクリート造で、延床面積は4,877m2。外観は広いガラス面を活かしたシャープなデザインになっており、内装には、慶大が宮城県南三陸町に所有する「志津川山林」から伐出したスギ材(FSC認証材)を23m3使用した。二酸化炭素(CO2)固定量は約14tと試算されている。

スギ材は、エントランスやエレベーターホール、会議室などの壁面に用いており、サイズや厚さがランダムな部材をモザイク状に配置して、スタイリッシュな空間を創出している。
設計・施工を担当した大成建設(株)(東京都新宿区)の設計担当者は、「1本の木を余すことなく利用するようにした」とデザインの意図を説明する。
慶大は、2030年カーボンニュートラルの達成に向けた取り組みを全学的に推進しており、これまでもから一部の校舎で木材使用を試みてきた。
その実績を踏まえて、三田北別館では積極的に内装に木材を使用しており、今後の施設でも木材の使用を積極的に検討していく方針を立てている。
全国の7県・15か所に計162haの森林を保有、活動の中心は「志津川山林」
慶大は、全国の7県、15か所に計162haの「慶應の森」を持っている。三田北別館にスギ材を供給した「志津川山林」はその1つだ。
1965年に財団法人福澤記念育林会を設置し、財務基盤の確立に向けて1971年に宮城県志津川町(現在は南三陸町)に山林を購入したのが「慶應の森」の始まりになる。
以降、福澤記念育林会が国と分収林契約を結ぶなどして拡大し、現在の規模に至る。なお、2001年に発足した福澤育林友の会が育林活動や講演・シンポジウムの開催、年2回の会報の発行などを行っている。

「慶應の森」の中で最も面積が広く、活動の中心となっているのが64haの「志津川山林」だ。
「志津川山林」では、東日本大震災が発生した2011年から2020年まで「慶應義塾南三陸プロジェクト」を展開して、遊歩道の整備や町民との交流、間伐材を使ったグッズの製作などを行ってきた。
2023年からは新たに「みなさんmiraiプロジェクト」をスタートさせ、取り組みをバージョンアップさせている。
慶大の関係者は、「人を育てる場として森林や木質空間を活かすことが益々重要になっている」と話しており、「慶應の森」の整備と利活用をさらに加速する段階に入っている。
(2025年7月1日取材)
(トップ画像=慶應義塾大学三田北別館4階の会議室)
『林政ニュース』編集部
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