急転・混沌続く緑資源機構官製談合事件 大臣自殺の衝撃に揺れる霞が関の現状【緑風対談】

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急転・混沌続く緑資源機構官製談合事件 大臣自殺の衝撃に揺れる霞が関の現状【緑風対談】

まさか自殺とは…、公団の実力者も身を投げる

「激動」「衝撃」という月並みな表現では、この現実を到底伝えきれない。それほど、5月28日から生じた一連の出来事はショッキングだった。
まず、日本列島を震撼させたのが、松岡利勝農林水産大臣(62歳)の自殺である。松岡農相は5月28日昼過ぎ、東京都港区の衆議院議員宿舎で首をつっているのが見つかり、同日午後2時に死亡が確認された。死因は窒息死で、安倍首相らにあてた遺書が残されていた。現職閣僚の自殺は戦後初めてであり、まさに前代未聞。
続いて翌29日、緑資源機構の前身である旧森林開発公団の山崎進一元理事(76歳)が横浜市青葉区のマンションで飛び降り自殺した。山崎氏は公団初の生え抜き理事で、知る人ぞ知る実力者だったが、緑資源機構の官製談合事件で、東京地検特捜部から事情聴取を受けていたという。

師と同じ最後を選んだ松岡氏、特有の人生観か

松岡氏が死を選んだ4日前(5月24日)には緑資源機構理事ら6人が逮捕され、翌25日には、東京地検特捜部が松岡氏の地元である熊本県小国町の同機構出先事務所を捜索。同機構が行っている「特定中山間保全整備事業」(熊本と島根で実施中)でも談合疑惑が浮上し、松岡氏の責任を追及する声が強まっていた。
しかし、まさか自ら命を絶つとは…。

松岡氏が、「北海のヒグマ」の異名をとった故中川一郎農相を師と仰いでいたことはよく知られる。その中川氏は、昭和58年1月に札幌パークホテルの浴室で首つり自殺した。
松岡氏は、国政に転じた当初から「政治家は畳の上では死ねない」と口にしていた。自殺した真因は結局のところ本人にしかわかり得ないが、特有の人生観が突然の死の引き金になったのではないか。
生前親しかった関係者はこう嘆き、目頭を押さえた。

昭和63年に林野庁広報官を退職し、平成2年の衆院選で初当選を果たした松岡氏は、持ち前のエネルギッシュな言動で頭角を現した。2世議員が跋扈する政界で、叩き上げの農林族有力議員として自他ともに認められ、昨年9月には念願の大臣に就任。
剛腕・強面のイメージが浸透していた松岡氏だが、政策通で時流を読む鋭敏さは抜きん出ていた。農産物の中国輸出やバイオエタノールの増産、WTO交渉などで強力なリーダーシップを発揮。そして、違法伐採では文字どおり世界に先駆けて対策を打ったのだが…。
いずれにせよ、松岡氏の早すぎる死が及ぼした衝撃は計り知れない。そして、緑資源機構談合事件が巻き起こしている混沌が収拾する気配も一向にみえない。

規制改革会議の廃止・縮小提言は現状追認の側面も

松岡氏が急死した後も、緑資源機構問題を巡る状況は慌ただしく動いた。5月30日には、政府の規制改革会議(座長=草刈隆郎・日本郵船会長)が第1次答申を決定、この中で同機構が行っている業務の廃止・縮小を提言した。
緑資源幹線林道事業と農用地総合整備事業については、新規採択は行わず、既着工路線・地区が終了した段階で事業を廃止。また、水源林造成事業については、民間の林業活動を補完する場合に限定して行うよう求めたのだ。

これをとらえて、一部マスコミは「緑資源機構解体」と報じたが、この見出しは少々先走り気味。当たり前のことだが、今すぐに同機構が空中分解するわけではない。
同機構の事業・組織・人事のあり方を根本的に見直す必要があることは論を待たないが、例えば、林道事業は、現在でも新規採択はしていない。最後の新規採択は、平成6年の北海道の置戸―阿寒線と愛媛県の日吉―松野線にまで遡る。以降は、既着工路線・地区で粛々と事業を進めているのが実情。
また、農用地については、平成24年度で事業を終了することが決まっている。したがって、規制改革会議の答申は、現状を追認している面もあるのだ。

まじめに働いている人達の受け皿をどうするか

規制改革会議の第1次答申が出た翌日(5月31日)には、農林水産省が設置している第三者委員会が2回目の会合を開催。だが、1回目と同じく委員間のフリートーキングに終始し、目立った進展はなかった。6月15日に予定されている第3回会合で論点を整理し、いよいよ核心の議論に入る見通しだ。

そして6月1日には、赤城徳彦新農相が就任会見で、「緑資源機構は廃止の方向で検討」との方針を明らかにした*1。規制改革会議の提言よりは一歩踏み込んだ発言として関係者の驚きを呼んだが、これも「即廃止」と性急な指示を出したわけではない。
赤城農相は、6月5日の閣議後定例記者会見で、「水源林造成とか農用地整備とか現在進行中の事業をどうするか、まじめに働いている720人の人材・人員の問題などがある」とも述べた。同機構が果たしている機能・役割を客観的に評価し直し、適切な受け皿をつくるべき、という趣旨であろう。

焦点の1つは水源林事業、第三者委員会の断は?

緑資源機構の事業のうち林道と農用地は縮小・廃止の道を辿るとして、380億円余の事業費を投じている水源林造成事業はどうするのか、これが焦点の1つになりそうだ。同事業は、分収契約で行われており、かりに同機構がなくなると、契約の承継問題などが出てくる。これは各県が抱えている林業公社問題と通ずるところがある。
財投機関債や緑資源債券を含む借入金の処理も難題だ。そして、赤城農相も言及している人の問題が極めて悩ましい。720人もの人材が路頭に迷っていいのか、いいわけがない。

当の緑資源機構は、6月7日に外部有識者による「入札談合再発防止対策等委員会」を設置し、1回目の会合を開いた。委員は、有川博(日本大学教授)、大森勇一(弁護士)、高田敏明(弁護士)、山口俊明(公認会計士)の4名。
農林水産省の第三者委員会が検討作業を進めている最中に、独自の有識者委員会を発足させたのは正直意外だったが、赤城農相が同機構廃止の大きな方向性を示したので、農林水産省の第三者委員会は、この方向を前提に組織・事業・人事システムのあり方について結論を出す。さらに実務的な検討を同機構の委員会が行うという構図になる。
林野庁首脳は、そう説明する。

緑資源機構談合事件の荒波は、林政のさまざまな局面に押し寄せている。例えば、6月1日に発足した「美しい森林づくり全国推進会議」に、当初は中央林業関係団体も加わるはずだったが見合わせた。また、同会議の事務局を引き受ける予定だった(社)国土緑化推進機構も見送った。いずれも、官邸サイドからの指示だという。

談合に関与した公益法人や監督官庁である林野庁のあり方についても、シビアな見直しが迫られることは必至。が、それは今後の捜査の進展と、農林水産省第三者委員会の検討に委ねられる。依然として予断を許さない状況に変わりなし。第三者委員会の大森政輔座長(元内閣法制局長官)は、夏までに結論を出したいと話している。関係者は、6月に行われる2回の会合がヤマ場になると口を揃える。果たしてどのような断が下されるのか。小欄で続報していく。

(2007年5月28日~6月7日取材)

詠み人知らず

どこの誰かは知らないけれど…聞けないことまで聞いてくる。一体お主は何者か? いいえ、名乗るほどの者じゃあございません。どうか探さないでおくんなさい。

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