主伐事業地で直面する課題、再造林と育林は誰が担うのか?
11月のはじめ、ヨシナリ林業社長の吉成良二は、大子町の本社から車で20分ほどの事業地に立っていた。約8haにわたってスギ・ヒノキなどが林立している国有林の分収造林地。ここの主伐(皆伐)事業を請け負っており、同社の社員が高性能林業機械を駆使しながら効率的な伐出作業を行っていた。
主伐が順調に進んでいることを確かめながら、吉成の頭の中は“次なる課題”に向かっていた。それは、伐採跡地の再造林とその後の育林作業をいかに実施していくかだ。
このとき、吉成に同行していたのは、堀江林業社長の堀江賢一と、日本森林林業振興会東京支部長で東京地方国有林造林生産業協議会の事務局長もつとめる竹林章。林野庁OBの竹林は、ヨシナリ林業と堀江林業の“実力”にかねてから着目してきた。そして、両社がもう一段の成長を遂げるためには、再造林・育林部門の強化が必要との問題意識を、吉成・堀江とも共有している。
主伐事業地を後にした3人は、次代の森林づくりに向けて、民間の林業事業体として何をすべきかを中心に意見交換を始めた。その要点を、以下に採録する。
伐ったら終わりでなく、植え付け・保育まで引き受けたい
竹林 ヨシナリ林業と堀江林業のように、伐出作業で1人1日当たり10m3以上の生産性をコンスタントに出せる事業体は少ない。

堀江 私が山の現場に入るようになって30年近くになるが、この間の機械化により伐出作業のやり方は大きく変わった。昔は重労働で泥まみれになってやっていたが、今はほとんど機械を使ってこなせる。問題は、造林・育林の作業条件をどう改善するかだ。
吉成 夏場の下刈りなどは過酷な仕事であり、みんなやりたがらない。国の方針として間伐が推進されてきたため、新植事業地が減り、造林関係の事業体も少なくなってしまった。
竹林 再造林が進まない問題は全国でみられており、国は、人工林の若返り対策を重点課題に位置づけている。国有林も立木販売による主伐面積を倍増させることを計画しており、伐出から造林までを連続的に行う「一貫作業システム」の普及にも乗り出している。
吉成 当社のように地元の森林と切っても切れない関係にある事業体としては、主伐後の地拵えから植え付け、下刈りまでを一緒に引き受けたい。ただ、今は国有林からの発注が伐出と造林で分かれており、安定的に受注しづらい面がある。
竹林 国有林でも伐出と造林の同時発注や、複数年契約などの試行が始まっている。こうした発注形態への現場からのニーズが強まれば、制度的な見直しにつながっていくだろう。
堀江 民有林の場合は、所有者の理解があれば、伐出から造林まで一貫して請け負える。機械を山に持ち込んで伐り出した後、地拵えや植え付けの際にまた機械を持ち込むのでは明らかに無駄が多い。
吉成 伐って出せば終わりという作業では、どうしても出来高優先になり、やり方も荒くなる。伐った後の再造林まで自分達に任せられているとなれば、仕事は丁寧になり、結局はコストも下がる。

安定した事業量の確保により機械化や人材育成へ先行投資
竹林 各地で林業事業体の育成が課題になっているが、一朝一夕にできるものではない。何よりも事業量の安定的な確保が前提になる。
堀江 大雑把に言って、伐出作業に必要な高性能林業機械を1セット揃えるには1億円くらいかかる。人材育成にも最低3年はかかる。どうしても先行投資が必要になる。
吉成 単年度発注の事業に頼っているだけでは先行投資はできない。地域を見渡して、民有林と国有林のバランスにも配慮しながら長期的な森林づくりに携われる体制をつくれれば投資しやすくなる。
竹林 材価の変動に振り回される業界体質も見直す必要がある。
吉成 11月から商業運転を始めた日立造船の木質バイオマス発電所では、未利用木材をトン当たり5,000円で買い上げており、材価を下支えする効果が出てきている。丸太の相場があまりにも乱高下すると、伐出現場のコスト計算も成り立たなくなってしまう。
堀江 若い技術者を育てるためには、年間を通じて安定した仕事がなければいけない。当社では、地元の所有者と長期契約を結んで、森林の管理・経営を任せてもらう業務も行っている。林業というと、いまだに樵のイメージを持っている人が多いが、機械化の進展で作業環境は大きく変わってきている。そうしないと、若い人達の働く意欲も引き出せない。
吉成 我々の仕事は外から見えづらいところがあるので、実情をわかりやすく伝えていくことも必要だろう。林業にまつわる旧来からのイメージを変えて、魅力を高めていきたい。


(2015年11月6日取材)
(トップ画像=ヨシナリ林業が主伐を行っている事業地)
『林政ニュース』編集部
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