内装材のトップメーカーが新社長のもとで事業再編を進める
遠藤理事長が15年前に池見林産工業をルポしたときも現在も、その佇まいに大きな変化はない。本社事務所に隣接する工場では原板を加工して仕上げるモルダーやテノーナー、サンダー、フレームソーなどのマシンや中温乾燥機が稼働しており、倉庫には主力製品であるムクのフローリング(床材)が豊富に在庫され出荷を待っている。内装材のトップランナー企業であることを窺わせる光景だ。
ただ、同社は今、「リストラクチャリング(Restructuring=構造改革)」とも言える事業の再編に踏み出している。それを主導しているのが昨年(2024年)4月に取締役として同社に入り、8月に社長に就任した洲崎靖明氏だ。
遠藤理事長は、その洲崎社長に問いかけた。
洲崎社長は、池見林産工業の生え抜き社員なのか。
いや。私は、神奈川県横浜市に本社を置くナイス(株)に34年間勤務して、資材事業本部の商品開発事業部長などをつとめてきた。
ナイスは、国内屈指の木材商社であり、マンションの分譲や不動産事業なども幅広く手がける上場企業だ。そこで部長として中軸を担っていたキーパーソンが、なぜ池見林産工業にやってきたのか。

池見林産工業とは、ナイス時代に20年以上に及ぶ取引関係があり、経営面での相談にも乗ってきた。そうした関わりを踏まえて、本格的に事業の再編を手伝って欲しいという依頼を受け、昨年3月末でナイスを退職し、8月に前社長の久津輪氏からバトンを受けて、池見林産工業のトップに就かせていただいた。久津輪氏には、外部顧問というポジションから様々なアドバイスをいただくようにしている。
代名詞の埋木処理技術も見直しへ、マーケットの現状を直視
15年前に池見林産工業を訪れたときに最も印象的だったのは、代名詞と言える埋木処理技術だ。ムクの板材には、死節や腐れ節などによって穴が空いている。当時、久津輪氏は、「ヒノキの場合、死節・腐れ節の欠点を補修なしで使用できる役物の比率は5~10%」と率直に話していた。穴の空いたムク材を内装用の表面材に使うことはできない。
そこで、ヒノキの枝でつくったコマ型の埋木を穴に詰めるようにして良質な板材に再生していた。埋木処理を施すことによって、下地材としてしか使えなかった欠陥材が付加価値の高い表面材として使えるようになっていた。画期的な技術だと感心したものだ。

確かに、埋木処理は生産現場から生まれた素晴らしい技術だ。しかし、時代の変化とともに、見直しが避けられなくなっていることも事実だ。
そうなのか。なぜ見直しが必要なのか。
埋木をするには、相応の手間もコストもかかる。現状、弊社では約30人が埋木処理に携わっている。
しかし、それに見合った価格がマーケットで認められていないという厳しい現実がある。一般に流通しているフローリングとの価格競争に巻き込まれており、付加価値がついていない。

マーケットにはフィンガージョイントした木製フローリングだけでなく、ビニール製の製品などもたくさん出回っている。値段の安さや手入れの簡便さなどから消費者が“易きに流れる”ことは否定できない。
現在、主流となっているのは、いわゆるシートフロアだ。基材の上に木目柄などの化粧シートを貼ったシートフロアは、施工がしやすく価格も抑えられるため、住宅・非住宅を問わず広く使われている。フローリング業界の中で、シートフロアは90%以上のシェアを占めているとも言われている。
このような中で、埋木処理をしたムクフローリングのアピアランス(美観等)やコストパフォーマンスをどのように消費者に訴えていくかが問われている。経営者としては、シビアに見ていかなければいけない。
自然なムク材への底堅いニーズに対応した新製品を供給する
では、洲崎社長は、ナイス時代の経験も踏まえて、これから池見林産工業をどのような企業にしようと考えているのか。
私はナイスで、木材や建材の流通に長年携わり、ビルダーやハウスメーカー、工務店などの関係者とは今でもつながりがある。そうした方々に率直な意見を求めると、埋木は人工的な処理だと受け止められている。ムク材を使うのであれば、自然な風合いを活かした製品にした方がいいという指摘もいただいている。

シートフロアが全盛の中でもムク材への底堅いニーズはあるということか。
そうだ。日本国内にとどまらず世界的にも脱炭素化が大きな流れになっており、石油化学製品などから自然素材への切り替えが進んでいる。その中で、国産のムク材を活かせるところはたくさんあり、私もナイス時代にはリノベーションを含めて様々な物件を手がけてきた。今後も様々なビジネスチャンスが出てくるだろうし、それに対応した製品を提供していくことが重要だ。
そうした製品を生み出すために必要なことは何か。
まず、良い素材、弊社で言えば良い原板を仕入れることだ。そのルーツとなる良材が産出される地域と連携して安定的に調達できるようにしていきたい。良い原板が増えていけば、生産現場の負担も軽減されることになる。
木そのものの素性の良さに加えて、枝打ちなどがきちんとされている材を使っていくということか。
そのような材とともに、利用が進んでいない大径材の活用も進めていくことにしている。具体的には、尺上以上の径28cmから36cm程度の丸太から原板をとり、幅広のフローリングに加工して新製品として供給し始めている。今のマーケットにはないアイテムであり、新たな需要を掴めると考えている。
幅広のフローリング以外にも、新製品開発の計画はあるのか。
様々な検討を進めているところだ。弊社のショールームには、いくつかのサンプルを展示している。(後編につづく)
(2025年4月24日取材)
(トップ画像=池見林産工業の工場)

遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。