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コンテナ苗のトップメーカー・長倉樹苗園(宮崎県)を完全子会社化
中国木材が優良苗木を確保するためにM&Aを行ったということは知らなかった。どこを傘下に収めたのか。
2023年7月に、宮崎県の(株)長倉樹苗園を完全子会社化した。以降、同社を成長させてきた長倉良守氏の指導を受けながら苗木生産事業を拡充・強化してきている。
長倉樹苗園はコンテナ苗のトップメーカーとして知られ、長倉良守氏は2023年秋に黄綬褒章を受章した苗木づくりの第一人者だ。その長倉氏の知見や技術が中国木材に加わったとなると、苗木業界全体にとっても大きなインパクトになる。
長倉樹苗園をグループ化した効果や事業実績などは、どうなっているのか。
長倉樹苗園の基本的な経営体制などは変えずに、中国木材として支援をしながら苗木生産量を増やしてきている。
今年度(2025年度)は裸苗を25万本、コンテナ苗を25万本、計50万本を生産することにしている。
今後は、「菊池市祖母山団地」で植栽しているような特定母樹由来のコンテナ苗の生産量を大幅に増やしていくことを計画しており、増産体制づくりを進めているところだ。この点に関しては、弊社として顧問をお願いしている長倉氏に直接聞いていただくのがいいだろう。
大企業のバックアップを得て、優良苗木の増産に向け体制づくり
では、長倉顧問にお尋ねしたい。中国木材のグループ会社になって、何が変わったのか。
資本力のある大企業のバックアップを受けることで、優良苗木の増産に必要な設備投資がやりやすくなった。
例えば、昨年(2024年)は、台風などの強風や温暖化に伴う高温対策として屋根型硬質ハウスを整備した。
ハウス内で作業がしやすいようにコンクリート打設を行った上で、多目的高圧微細霧システムや穂木用冷蔵庫などを導入して、効率的に苗木生産ができる環境を整えた。ハウスの周りには、防風ネットも設置している。


苗木生産者は中小零細な個人事業主が大半であり、なかなか思い切った設備投資ができない。中国木材とタイアップすることで、そうした隘路を打開する道が拓けたわけか。
苗木生産者としては、苦労して育てた苗木がきちんと植えられていくか、ムダになっていないかということがとても気にかかる。今は、中国木材がまとめて苗木を購入して、確実に植林してくれるので安心して苗木づくりに専念できる。
特定母樹の「指定採取源」を中核にして再造林のアップに挑む
これから優良苗木を増産していく上での課題や展望について教えて欲しい。
私共が宮崎市田野町で管理している約4haの育種母樹林は、今年(2025年)の1月30日付けで特定母樹の「指定採取源」に宮崎県知事から指定された。これを中核にして、特定母樹由来の苗木の供給力を高めていくことにしている。
特定母樹はエリートツリーの中から選抜されたもので、成長がよく、強度が高く、花粉も少ないという優れた特質を持っている。この特質をきちんと継承した苗木を安定的に育てていくことが最も重要な課題になる。

九州では古くから挿し木で苗木づくりが行われている。挿し木には、植物を短期間で増殖できるメリットがある。この手法で増産するにあたって、問題などはあるか。
本州で一般的な種から育てる実生の苗木とは違う特有の難しさがある。
挿し木の場合は、穂木を1本1本採ってきて育てていくが、枯れたりするものも出るので、活着率は0.6とか0.7程度にとどまり、年による変動も大きい。利益率も低いのでなかなか経営的に安定せず、個人事業主レベルでやっていると、人件費を賄えず、資金繰りに困るようなケースも出てくる。
九州では住友林業(株)や日本製紙(株)などの大企業が苗木づくりに参入してきているが、ビジネスベースで苗木を増産する体制は一朝一夕にできるものではない。
その点でも長倉樹苗園が中国木材のグループ会社になったことは大きな意味を持つのではないか。
中国木材の力を借りながら特定母樹由来の苗木の生産量が毎年増えていければ、九州一円の林業関係者に販売することも可能になっていくだろう。
私共が拠点を置いている宮崎県は、再造林率日本一を目指して取り組みを強化しているが、必要な苗木は量的にも質的にも足りていないのが実状だ。従来からの苗木づくりをもっと進化させて、特定母樹由来の苗木が当たり前に使われるようになり、品質に見合った価格で流通するようになることを目指したい。
「製材業は物流業」の原則を踏まえ、工場近くの社有林を活用
長倉樹苗園のような得意分野を持つ地方の事業体と業界のガリバー的存在である中国木材が連携することで、国産材業界に新しい活力が生まれ始めていることがわかった。
最後に改めて聞きたい。中国木材はこれから社有林をどのように活かしていく考えなのか。
弊社の工場が年間に必要としている原木は約100万m3になる。これに対して、国内の社有林から伐出可能な原木は、現状では3万m3程度であり、もっと供給力を高めていかなければならない。
弊社の社有林は約1万haにまで拡大してきたが、すでに述べたように12県の97団地に分散しており、まだ手つかずの状態のところもある。これらの整備を進めて、社有林が本来持っているポテンシャルを引き出していくことが重要だ。
中国木材の総帥である堀川保幸・最高顧問は、「製材業は物流業」を持論としてきた。重厚長大な原木を遠くから何度も積み下ろしをして工場に運び込むよりも、近くの森林から伐出して直送する方が合理的であり、環境にもいいことは明白だ。それを実践する段階に来ているのではないか。
社有林の経営・管理を通じて、工場で使用する原木を安定的に確保することに加えて、社会的な貢献や地域林業振興への寄与を目指すことは、弊社の取締役会などで常に確認していることで、この目的が変わることはない。今後も、社外の関係者とも連携しながら目的の達成に取り組んでいきたい。
(2025年3月13日取材)
(トップ画像=屋根型硬質ハウスの内部)

遠藤日雄(えんどう・くさお)
NPO法人活木活木(いきいき)森ネットワーク理事長 1949(昭和24)年7月4日、北海道函館市生まれ。 九州大学大学院農学研究科博士課程修了。農学博士(九州大学)。専門は森林政策学。 農林水産省森林総合研究所東北支所・経営研究室長、同森林総合研究所(筑波研究学園都市)経営組織研究室長、(独)森林総合研究所・林業経営/政策研究領域チーム長、鹿児島大学教授を経て現在に至る。 2006年3月から隔週刊『林政ニュース』(日本林業調査会(J-FIC)発行)で「遠藤日雄のルポ&対論」を一度も休まず連載中。 『「第3次ウッドショック」は何をもたらしたのか』(全国林業改良普及協会発行)、『木づかい新時代』(日本林業調査会(J-FIC)発行)など著書多数。