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1次補正で仮設住宅用木材供給強化や輸送費助成などに取り組む
農林水産関係の被害総額は4月10日時点で1兆1,982億円となっており、統計を取り始めてから初めて1兆円を突破した。過去の震災(新潟県中越地震=1,330億円、阪神・淡路大震災=900億円)を大きく上回る最悪の被災状況となっている。
林野関係の被害状況についても、被災県は宮城、岩手、福島、長野県等の14県、被害額は約969億円に拡大。交通網の寸断や瓦礫の堆積、福島第1原子力発電所の事故などで被災地の調査が難航しており、今後、被害額等はさらに増えていくとみられる。
政府は4月中に総額約4兆円の今年度第1次補正予算案を国会に提出し、早期成立を目指す方針だ。内容は、被災地の復旧に向けた応急対策が中心で、林野庁関係では、災害復旧などの公共事業と、川下対策(非公共事業)が柱になる。川下対策では、仮設住宅等の建設促進を目指して「木材供給等緊急対策」を60億円程度で実施する計画。同対策では、被災した木材加工施設の復旧支援や、原木輸送費への助成などを行う。併せて、無担保・無利子融資や100%保証など資金繰り支援対策も講じる。
雇用対策では、厚生労働省の雇用創出基金事業やみどりの雇用事業を活用して、“働く場”づくりを目指す。厚労省の事業では、倒木の処理や崩落土砂の除去、林道沿いのゴミの片づけなどの軽作業が助成の対象になる。これを本格雇用につながるトライアル雇用に位置づけることなどが検討されている。
仮設住宅7万戸供給へ、施工業者を公募、住田町は独自に建設
被災地が緊急に必要としている仮設住宅については、各県からの建設要請戸数が当初の約3万戸から約7万2,000戸に増えている。これを踏まえ、1次補正には約7万戸分の仮設住宅建設費が計上される見通しだ。
仮設住宅については、用地対策とともに施工業者の確保も課題になっている。国土交通省など8省庁は4月5日に開いた「被災者向けの住宅供給の促進等に関する検討会議」の第2回会合で、地域工務店の支援や、輸入住宅等も活用する方針を決めた。
仮設住宅の建設を加速するため、(社)プレハブ建築協会担当分(約3万戸)とは別に、被災地の各県が施工業者を公募する動きも出ている。最も早い福島県は、県内に本店を置く建設事業者などを対象にして4月18日まで公募を行った。岩手県は地域材の使用などを条件に、また、宮城県はすまいづくりまちづくりセンター連合会を通じて募集することにしている。
こうした中、岩手県の住田町は地元産のスギ材を使ったオリジナル仮設住宅を建設して注目を集めている。同町に隣接する大船渡市、陸前高田市、釜石市などが甚大な津波被害に見舞われ早急に対応する必要があったため、県庁ルートを通さず同町単独で約2億5,000万円を投じ、5月末までに第1弾として110棟を完成させる予定だ。第2弾からは県と連携して建設を進める。同町独自の取り組みを後押ししようと募金等の支援も寄せられているという。

合板不足問題の解決に全力、東北の国有林資源に期待
震災発生直後から林業・木材業界の懸案になっていた建築用木材製品、とりわけ合板の不足問題は、未だにくすぶり続けている。
岩手・宮城両県の沿岸部で被災した6つの合板工場の国産材合板生産割合は全国の約3割を占めていたが、被災地以外の合板工場の増産で十分にカバーできると見込まれている。林野庁はこの点を関係方面に繰り返し説明しており、業界団体も需給と価格の安定に取り組む声明を相次いで発しているが、末端の施工現場からは品薄や値上がりを指摘する声が出ている。さらに、阪神・淡路大震災時のように、需給逼迫は一時的な現象で、やがて供給過剰で値崩れするとの警戒感も出ており、安定供給に向けて難しい舵取りが迫られている。
原木の供給に関しては、東北6県の人工林面積の36%、同蓄積では27%を占める国有林にかかる期待が大きい。林野庁は4月14日に開催した林政審議会国有林部会(第3回)で、国有林の資源ポテンシャルを活かして復旧・復興需要に応えていく方針を説明した。すでに、仮設住宅用地向けの適地リストの提供や、がれきの一時置き場の無償貸し付けなど国有林を活用した復旧支援が行われているが、“本分”である国有林材の供給力で復興に貢献する“出番”を迎えている。
「多機能海岸防災林」の検討開始、瓦礫も有効利用
政府は応急対策を盛り込んだ第1次補正予算に続いて、本格復興に向けた第2次、第3次補正予算を編成する方針。地震による津波で、海岸保安林に甚大な被害が発生しており、その再生を被災地の復興に役立てることも、第2次補正予算以降の取組課題の1つに浮上してきそうだ。
林野庁は4月15日に、庁内のメンバーで設置した「多機能海岸防災林造成検討プロジェクトチーム」の第1回会合を開いた。被災した海岸保安林を単に原形復旧するのではなく、大規模な人工砂丘の上に防災林を造成し、津波エネルギーの減衰とあわせて、飛砂防備や防風、美しい景観の創出などさまざまな機能を発揮させることを構想している。
人工砂丘の造成には被災海岸に堆積しているがれきを利用でき、植栽した樹木の管理などで継続的な雇用も創出できる。まだあくまでも叩き台の段階だが、今後、学識者等による検討委員会で議論を進め、実現可能性を探っていくことにしている。
もっとも、具体化にあたっての課題は多い。まず、被災地の復興ビジョンとの整合性をとることが重要になる。また、土地利用計画など法制度面での課題を洗い出すことも不可欠だ。がれきを利用する場合には、廃棄物としての取り扱い方や無害化の手法も検討する必要がある。砂丘及び海岸林の津波被害軽減効果も科学的に明らかにしなければならない。何よりも、「被災地の方々のニーズに応えることが一番大事」(林野庁首脳)。「地元の人達に選んでいただけるメニューを考える」(同)――この点が海岸林再生にあたっての大原則になる。
(2011年4月10日~15日取材)
(トップ画像=被災地の瓦礫撤去で林業機械が活躍している。福島県の磐城林業協同組合はグラップルをオペーレーターとともに派遣し、福岡県の松本システムエンジニアリング(株)は、ショベルカーなどに装着するアタッチメント「ザウルスロボ」6台を無償提供した。)

『林政ニュース』編集部
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