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太平洋沿岸地域の木材・製紙関連工場を津波が直撃
巨大地震による津波で太平洋沿岸地域の木材・製紙関連工場が軒並み壊滅的な打撃を蒙り、関係者の間に衝撃と動揺が広がっている。

とくに、岩手県・宮城県の海岸沿いに立地しているセイホクグループを中心とする合板工場群は、国産材合板生産量の「21~22%を占める」(林野庁木材産業課)だけに、当面の供給不足に加えて、今後の復興需要などに応える面でも大きな痛手となっている。
また、製紙業界では主力級の最新工場である三菱製紙八戸工場や日本製紙石巻工場が水に浸かって被害状況を確認できない状態。製紙工場が機能を停止するとチップの受け入れ先がなくなり、比較的被害の軽かった内陸部の製材工場の稼働も滞ることになる。

さらに暗い影を広げているのが、東京電力福島第一原子力発電所の事故だ。ガソリンや軽油の不足による物流の停滞や計画停電など混乱要因が相次ぐ中で、原発事故が収拾せずに避難地域が拡大する事態になると、復興への足かがりが益々遠のくことになる。
人的被害深刻、曽根哲夫・岩手県森連会長の悲報届く
東日本大震災による被災状況は刻々と明らかになってきているが、3月17日現在でも詳細は把握できていない。
とりわけ人的被害は阪神・淡路大震災を上回る戦後最悪の規模に膨らんでおり、林業・木材産業界でも深刻さを増している。
国有林関係では、13日の時点で三陸北部(岩手県宮古市)・三陸中部(岩手県大船渡市)・磐城(福島県いわき市)・宮城北部(宮城県大崎市)の4森林管理署の職員(基幹作業職員を含む)14名の安否が不明になっていたが、森林管理局の職員が各地の避難所を回って13名の無事を確認。だが、残る1名は17日現在でも不明のままとなっている。
また、3月14日には、岩手県森林組合連合会会長の曽根哲夫氏(70歳)が釜石地方森林組合の近くで遺体で発見されるという悲報が全国森林組合連合会に届いた。曽根氏は、平成16年から釜石地方森林組合の組合長をつとめ、今年2月18日に岩手県森連会長に就任したばかり。岩手県森連は来年度から5年間で県内森林組合を現在の21から9にする広域合併計画をまとめ、経営刷新に踏み出す矢先にトップリーダーを失うことになってしまった。
行政機関などの機能停止、海岸林はなぎ倒され、消失
農林水産省は、地震発生直後に「緊急自然災害対策本部」(本部長=鹿野道彦農相)を設置し、情報収集と対策の検討にあたっている。
山地・森林等の被害状況は調査中だが、3月17日現在では、治山関係被害(林地荒廃・治山施設)が9県、82箇所、63億円(被害額)、林道関係被害が5県、167箇所、3億6,200万円(同)。また、岩手県大槌町など4市町で山火事が発生した。
東北・関東・北海道・中部の各森林管理局は3月12日から13日にかけてヘリコプターによる被災地の緊急調査を実施。大きな山地崩壊は確認されなかったが、仙台・松島の海岸林は津波でなぎ倒れており、相馬市付近の海岸林は消失した模様だ。
津波は、沿岸部にある行政機関や関係団体の事務所等も直撃した。岩手県宮古市の三陸北部森林管理署と同県大船渡市の三陸中部森林管理署は、浸水により機能が失われた(トップ画像参照)。
森林組合系統については、東北6県(青森、岩手、宮城、秋田、山形、福島)の県森連の事務所に大きな被害は出ていないが、計98ある個々の森林組合とは連絡が十分にとれず、被害状況の把握が難航している。3月17日までに、陸前高田森林組合が事務所の2階まで土砂が流入し、久慈地方森林組合の事務所は床上浸水し一部損壊したことが判明した。
3月11日から16日まで、政府調査団の一員として被災地を踏査した林野庁の井出正俊・治山課山地災害対策室長は、「山間部の行政事務所は大丈夫だが、沿岸部は被害が大きい。仙台・松島を中心とした防潮林・防風林で何らかのかたちで残っているのは3分の1程度」と報告している。
災害復旧木材確保対策連絡会議を開く、買い占め防止を!
現段階では、被災者の救出と支援が最優先かつ喫緊の課題だが、次の段階では被災地の復旧・復興が大きなテーマとなってくる。
林野庁は3月15日、関係団体を集め「『東北地方太平洋沖地震』災害復旧木材確保対策連絡会議」を開いた。皆川芳嗣・林野庁長官は、「東北地方の海岸部が津波に襲われ、復旧・復興に向けて取り組まなければならない木材産業が大きく被災した。これから木材・木材製品の安定供給をどう図っていくのか。がれきを片づけた後には、被災した方々の仮設住宅の建設のため、必要な資材を安定的に供給しなければならない。需給の乱れを防ぐためにも、関係者が情報を密にして対応し、一日も早い復興に向けて全力で取り組んでいきたい」と呼びかけた。

同会議では、全森連が仮設住宅向けの土台用杭を約20万本、土木用杭を約50万本供給可能と報告するなど、安定供給に向けた体制づくりが話し合われたほか、買い占めや売り惜しみをしないことを申し合わせた。すでに、合板の市場流通量が払底するとの流言が出回っているとの指摘もあり、価格安定対策の重要性も確認した。
なお、同会議の出席団体は、次のとおり。
全国木材組合連合会▽全日本木材市場連盟▽日本合板工業組合連合会▽日本合板商業組合▽日本木材輸入協会▽全国森林組合連合会▽全国素材生産業協同組合連合会▽日本木材総合情報センター▽日本住宅・木材技術センター▽日本林業協会
木炭・コンロを被災地に、仮設住宅用に国有林野を提供
林野庁は被災地で不足している物資の供給にも注力している。
3月17日には、宮城県の石巻市と気仙沼市に、それぞれ木炭5トンとコンロ150個が届けられた。これまでに関係団体からの協力を得て、木炭等は270t、コンロは750個をストックしており、今後も被災県からの要請に即応しながら供給を続けていくことにしている。
また、国有林野内の旧苗畑や旧貯木場の跡地を仮設住宅の建設用地として提供する準備も進めている。併せて、森林管理局は仮設住宅用資材の安定供給を担う体制づくりに入っており、土地と資材の両面から被災地を支援していく方針だ。
このほか、所管団体である全国素材生産業協同組合連合会は、会員企業が保有するトラック等を復旧物資運搬用に提供することを決めた。同様の動きは、他の団体などにも広がっており、官民一体の総力戦で被災地を支えていくことにしている。
(2011年3月11日、3月15日、3月17日取材)
(トップ画像=津波で庁舎の1階部分と署長官舎が流失した三陸北部森林管理署の状況、岩手県宮古市、画像提供:東北森林管理局)

『林政ニュース』編集部
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