良質ヒノキの安定供給拠点・大木坑木宇和島出張所【突撃レポート】

南予地方と呼ばれる愛媛県の南部は、全国有数のヒノキ産地として知られる。その中でも、「良質のヒノキを手当てするならここ」と関係者から一目置かれているのが大木坑木(有)宇和島出張所(愛媛県宇和島市、二宮政文・取締役所長)だ。半世紀以上にわたって原木(丸太)の市売事業を続け、国産材を安定供給する中核的な拠点となっている。(文中敬称略)

年間原木取扱量約6万m3、月2回の市に県内外の業者が参集

大木坑木宇和島出張所は、松山自動車道の三間インターチェンジから車で5分ほどの山裾にある。土場の敷地は約1万坪と広い。ここで月2回、基本的に14日と28日に原木市を開いている。

年間の原木取扱量は約6万m3に達する。その約7割がヒノキで、南予地方を中心に、県境を越えた高知県の宿毛市や四万十市などからも良材が集まってくる。

南予地方には、愛媛県森林組合連合会の北宇和木材市売場(鬼北町)や西予木材市売場(西予市)、(株)日吉原木市場(鬼北町)などもあるが、「(宇和島出張所に)ヒノキがなかったら、他の市場に行ってもない」という評価が定着しているほど安定した集荷力を誇っている。

市日に向けて随時、原木が運び込まれる

宇和島出張所には、素材生産業者や自伐林家らが随時、トラックなどで原木を運び込んでくる。これを仕訳けして、月に2回の市で売り捌く。買い付けに来るのは、八幡浜官材協同組合(大洲市)など近隣の製材業者をはじめ、四国島内・中国地方から駆けつける業者もあり、常時40~50社は集まる。1回の市で2,000m3~2,500m3程度を販売しており、原木市況の動向をビビットに映し出す場になっている。

明治時代に坑木商として創業、炭坑閉山を受け基軸事業を転換

原木市場を運営している大木坑木宇和島出張所が社名に「坑木」の2文字を掲げているのはなぜか。話は、明治時代に遡る。

1894(明治27)年、福岡県豊前市で、大木熊太郎が大木商店を創業した。これが大木坑木の起源となる。設立時の業種は、坑木商。炭坑を営む三菱鉱業(株)や明治鉱業(株)などに坑木を納材して事業の礎を築いていった。

1920(大正9)年に宇和島出張所を開設したほか、大分県や広島県にも出張所を構え、坑木集荷のネットワークを広げた。だが、戦後のエネルギー転換で炭坑の閉山が相次ぎ、事業内容の抜本的な見直しが避けられなくなった。そこで宇和島出張所は、1967(昭和42)年に原木市場を開設し、木材流通業者として新たなスタートを切った。本社も、1986(昭和61)年の三菱高島坑閉山を受けて坑木の取り扱いから完全撤退し、チップの集荷・販売などに軸足を移した。

柱適寸のヒノキ原木を大量に在庫している

宇和島出張所は当初、宇和島市内で原木市を開いていたが、1973(昭和48)年に郊外の現在地に拠点を移した。1970(昭和45)年にはチップ工場を稼働させたが、チップ需要が減少したため1990(平成2)年に閉鎖し、以降は原木の取り扱い一本に絞っている。

時代の荒波に揉まれながら生き抜いてきた大木坑木は、昨年(2024(令和6)年)、創業130年を迎えた。宇和島出張所も開設してから105年が経過し、原木市を始めてからでも今年(2025(令和7)年)で58年目になる。

現在、宇和島出張所では、取締役所長の二宮政文(62歳)を筆頭に、計11名が勤務している。原木市開催の準備や原木の入出荷のチェックなどで、市日以外もやることは多い。

二宮政文・大木坑木宇和島出張所取締役所長

そんな中で所長の二宮は、現下の商況について、「原木の引き合いは強い」と言う。4月の建築基準法改正を前にした駆け込み需要や、年明けからの雪で出材量が減っていることが影響しているという。ヒノキの平均販売価格はm3当たり1万9,000円で「昨年の今頃と変わらない」。柱適寸のヒノキに限ってみると、「昨年の1月は2万4,000円を超えていた」。それが「今年の初市は2万3,800円と近づいてきている」という。一方、スギの平均販売価格は1万2,000円程度で推移している。

4月以降を見通すのは難しいが、「乗り越えていけるだろう」

地元で生まれ育ち、40年以上にわたって宇和島出張所で働いてきた二宮は、全日本木材市場連盟の理事もつとめており、原木の取引や流通には精通している。そんなベテランも、「4月以降はどうなるかわからない」と率直に口にする。住宅市場が縮小を続け、ムク(無垢)材から集成材へのシフトなどが進行している。急峻な南予地方の森林で働く人材を確保・育成していくのも簡単ではない。課題は山積している。

ただ、二宮から将来を悲観する様子は窺えない。過去を振り返ると、2012(平成24)年には原木価格が大暴落して大騒ぎになったこともある。それでも、「何とか乗り越えてやってきた。そういう業界だから、この先も何とかなるだろう」と腹を固めている。  

二宮の自信を支えているのは、宇和島出張所の周囲に広がる豊かな森林だ。「もう少し原木の単価が上がれば、伐ってみようかという人はまだまだいる」と見ており、「外材との兼ね合いで値段を決めるのではなく、国産材なりの価格水準ができれば、出材量がもっと増えてみんなの仕事も安定する」と前を見据えている。

(2025年1月20日取材)

『林政ニュース』編集部

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