ロシアの林産物禁輸で世界の木材貿易が大変動の恐れ

ロシアの林産物禁輸で世界の木材貿易が大変動の恐れ

ロシアのウクライナ侵攻が世界の木材貿易に大きな変動をもたらす恐れが出てきた。ロシア政府は、日本を含む「非友好国」に対して林産物の輸出を禁止することを決定。当面、日本にとっては合板用単板の調達難が問題となっているが、欧州向けの製材輸出が滞ることで、住宅用を中心とした木材製品の不足が“玉突き”で各国に波及する恐れも出ている。国産材をはじめとした代替材を安定的に確保するための根本的な対応策が必要になっている。

強度の高いラーチ(カラマツ)単板からの切り替えは“難題”

ロシア政府は3月9日に、日本や米国などの「非友好国」を対象にして、今年(2022年)末までに林産物の輸出を禁止する政令を発した。具体的な品目として、チップ、丸太、単板をあげている。

日本への影響では、単板が最も大きい。丸太は、今年1月から禁輸品目となっており、チップの輸入量は年間8万tで、日本の総輸入量(1,010万t)の1%弱でしかない。

これに対し、ロシアからの単板輸入量は、総単板輸入量の82%を占めており、ウエイトが大きい(図1)。ただし、国内で使用されている合板用材の中で輸入単板が占める割合は2~3%であり、量の面からみると大勢に影響を与えるものではない(図2)。問題は質の面だ。

図1 日本のチップ、丸太、単板の輸入量
図2 日本国内における合板用材消費量の内訳(2020年)

ロシアから輸入されている単板はラーチ(カラマツ)を原料としており、強度が高く、主に構造用合板のフェース(表板)とバック(裏板)に使われている。日本のスギ単板では強度が足りず、カラマツ単板で代替するには安定的な供給力が課題となる。ベイマツをはじめとした外材に関しても、高止まりしている輸送コストの問題などをクリアしなければならない。昨年から合板の需給がタイトになっている中で、調達をさらに難しくさせる大きな波乱要因が加わった構図となっている。

PEFCとFSCがロシアとベラルーシ産の木材認証を停止

国際的な森林認証団体であるPEFCは3月5日、FSCは3月8日に、ロシアとベラルーシから産出される木材の認証を止める方針を発表した。

ロシアとベラルーシの森林はすべて国有林。認証材の取引が両国の経済的な支援につながるため、木材の加工・流通に関するCoC認証を一時停止する。一方、森林管理を認証するFM認証については、両団体とも継続するとしている。

認証停止期間はPEFCCが3月2日から6か月間、FSCは4月8日からロシアによるウクライナへの武力侵攻が終結するまで。停止期間より前に購入した材については認証材として取引可能とする。

両国の認証林面積は、PEFCが世界全体の約13%にあたる約4,010万ha、FSCが同じく約27%にあたる約6,229万ha。関係者らは、「現時点でどのような影響が出るかわからない。今後の推移を注視していきたい」と話している。

解説】世界の針葉樹製材貿易の2割を担うロシア材が消える?

ロシアが断行した林産物の禁輸措置は、世界の木材貿易を根底から揺さぶる“激震性”を内包している。西側諸国を中心とした「非友好国」との対立が解消される兆しはなく、森林大国であり木材輸出大国でもあるロシアが国際的な木材貿易のプレーヤーから消えてしまう恐れもある。

2020年時点の世界の針葉樹製材輸出量は約1億4,300万m3で、その約2割に相当する約3,000万m3をロシアが担っている(トップ画像参照)。ロシアからの製材輸出先のトップは中国(約1,700万m3)、次いで、EU(欧州連合)が約360万m3と多い。かりに、このEU向け製材輸出が途絶えると、欧州の大手林産企業などは経営戦略の抜本的な見直しを迫られることになり、日本向けの輸出量を絞り込むことも考えられる。

日本の製材輸入量は479万m3で、世界におけるシェアはわずか4%。輸入量の48%はEUからもたらされており、2位のカナダ(24%)を合わせると4分の3を占め、輸入相手国が多角化されているとは言い難い。

コンテナ不足などによる物流費の高騰もあって、海外から木材製品を調達する際に“買い負ける”ケースも目立つようになった。従来からの延長線上で対応策を検討しているのでは、現実の激しい変化に追いつけない状況になってきている。

(2022年3月9日取材)

(トップ画像=世界における針葉樹製材の貿易量)

『林政ニュース』編集部

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